表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中指 立てたら  作者: 福島崇史
223/248

2人の王様

予定時間の18時を5分ほど過ぎ、全選手の入場式や主催者の挨拶を含むオープニングセレモニーが始まった。

リング上から見渡すワールド記念ホールの客席は圧巻やった…超満員札止め!とはいかんかったけど、8割は埋まってたと思う。

この人数から一斉に称賛を浴びせられる数時間後の自分を想像し、全身の毛が逆立つのを感じたわ。

15分程でセレモニーの全行程が終了し、この後オープニングマッチのエキシビジョンを行う2選手を残して俺達は全員控え室へと戻った。


「よっ!お疲れ!」


控え室のドアを開けると、不破の奴がパイプ椅子に逆向きで跨ったまま声を掛けて来た。


「お前さぁ…救急箱の中身をチェックしたり、セコンドとしてやるべき事があるんとちゃうか?ったく…寛ぎ過ぎるほど寛ぎやがって…」


「んなもん今からやってもしゃあないやんけ。お前の出番はラストやねんから。なんたってお前は2人の王様の片割れやねんからよ!ウッシッシ♪」


「てか…それ俺の椅子なっ!!あっちに腐るほど畳まれとるんやから横着せんと自分で用意せぇや!!」


「そない思うんやったらお前こそ自分で出せや」


「グヌヌ……ハァ」


俺は諦めの溜め息と共に、畳んだ椅子が並ぶ壁へと向かう。


“2人の王様…か”

何気なく発したであろう不破の言葉が耳の奥に残る…

残酷な事にそれが数時間後には1人になってまう。

勝者は総取りして真の王様へ…

敗者は総てを奪われ平民へ逆戻り…

いや…“元王様”って屈辱的な肩書きは残る…か。

そんな考えを突然ガサツな声が掻き消した。


「おい!始まんぞ!」


「声デケェわアホッ!で、始まるって何がよ?」


「何がってお前!我がの彼女の晴れ舞台を忘れてんじゃねぇよ!チクるぞ!!」


「ん…あぁ…まぁ晴れ舞台っつうてもエキシビジョンやからなぁ。空手で言うたら約束組手みたいなもんやし、勝敗がある訳やないし、な〜んも心配する事あらへんからなぁ…」


「まぁ確かに今日は自分の事で頭いっぱいやろな、むしろそうやないとアカンしな。おっ!?ゴング鳴ったで♪そそぐ様の相手は熊谷選手か…確か女子の組技大会で世界一を獲った選手やな…」


そそぐ様って…完全に配下に降っとるやんけ…

その時!


「あっ!!」


首を締められたニワトリみたいな声が控え室に響いた。


「何を突拍子も無い声出しとんねん!ったくお前とったら全然集中出来へんわ…」


見ると不破のアホが、酸欠の鯉みたいに口をパクパクさせながらモニターを指差しとる。


「アホヅラ2割増になっとるぞ…お前」


そんな軽口を叩きながらモニターへと視線を移すと…


「あ〜っ!!」


俺も似たような声を出してしもぅた。

だって…リング中央で女子組技世界一の熊谷選手が白目を剥いて大の字なっとるんやもの…

え?え?エキシビジョンだよね?約束組手だよねコレ?

軽くパニックになった俺は…


「ちょ…不破!お前見てたんやろ?何が、何があってん!?」


「熊谷が開始早々にタックルで入って来たんよ…」


「お、おう…それで!?」


「膝や…カウンターの膝がモロ顔面に入って、それ一発や……」


アッチャ〜…やってもうたな……

俺はデコに手をやって項垂れた。


リング上では熊谷陣営が慌ただしく手当ての作業を始め、その甲斐あって意識の戻った熊谷やったけど結局は担架で退場って羽目に…

ザワつく会場で、リングアナがそそぐちゃんにマイクを向ける。


「え〜…エキシビジョンであるはずが、まさかのKO決着…とんだアクシデントですが…如何でしたか毒島選手?」


訊く方も訊く方やけど…

そそぐちゃん何んて答えるんやろ?

不安しか無いのだが。

すると…


「すいません…反射的に膝が出ちゃいまして…やっちゃった♪テヘペロ♪♪熊谷選手ぅゴメンねぇ〜♪♪♪」


いや…テヘペロじゃねぇよ…

同意を求めようと不破に目をやる。

すると目をキラキラさせながら…


「いやぁ…流石はそそぐ様!完璧なタイミングやったなぁあの膝♪」


ダメだこりゃ。

今度は両手で頭を抱えて項垂れる俺だったとさ…




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ