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中指 立てたら  作者: 福島崇史
222/248

カモメは飛ばず

ミーティング会場に着くと、俺が最後だったらしく既に着席していた全選手の視線が全身にブッスブス刺さった。

身を小さくして小走りで席に着く。


今大会【PROMISE】は、そそぐちゃんの出るオープニングエキシビジョンを別にして全6試合。

立ち技ルールの試合が2試合

寝技のみのグラップリングマッチが1試合

ロープエスケープ有りのロストポイント制ルールが1試合

ロープエスケープ無しのMMAマッチが1試合

そしてメインが俺と柔の統一戦や。


俺達の試合がロストポイント制とMMAルールのミックスって事を考えると、その前にそれぞれのルールでの試合があるってのは、観客の理解を深める為にも良い構成やと思う。

それに何より大会名がイカすよな!

PROMISE…つまり約束。

俺と柔の為に考えられたネーミング…控え目に言って最高やん♪

でもそれだけや無く、他の試合も何らかの因縁が絡んだ奴同士で組まれとるらしい。つまり全試合が再戦、もしくは「ろう!」と言っておきながら実現してなかった試合って事!

試合数は少ないけど、なかなかに濃いぃ大会になりそうやで。


確認したルールを簡単に言うと…

立ち技ルールは3分5ラウンドのフリーダウン制。

肘、膝あり。

延長ラウンドは無く、5ラウンド終了時に差が無い場合はドロー。


グラップリングマッチは5分2ラウンド。

当然ながら打撃は一切無し。

ポジショニングや投げでのポイント、もしくは関節技による1本で決着。

こちらも延長は無く、2ラウンド終了時に差が無い場合はドロー。


ロストポイント制とMMAのルールは前に説明しとるし割愛するな…ゴメンやで。

この辺に「前の話も遡って読ませよう」っていう、作者の浅知恵が見え隠れするよな…ほんまどうしようも無い奴っちゃで!


で!俺達の試合は特別ミックスルール。

ロストポイント制とMMAルールを交互に行う訳やけども、本来なら寝技状態での打撃が一切禁止されとるロストポイント制やけど、今回はボディに限り有効って事になってる。


そして…いよいよこの時が来た…

ロストポイント制とMMAのどちらを1ラウンド目にするか…それを決める時が!

ジャンケンで決めりゃ手っ取り早いのに、バレットの変人こと九尾さんが…

「断然コイントスで決めるべきですっ!」

なんて力説するもんやから、その意見を飲んだ次第…

だって反論しても面倒くさいんやもん…あの人…

お!?噂をすれば何とやら…九尾さんの登場や。

タキシード姿で、銀の盆に載せた宝石ケースみたいなんを仰々しく持ってはる。

嫌な予感しかせぇへんなコレ…


「ではお待たせ致しました…これよりメインエベントのラウンド決めコイントスを行いたいと思います!」


九尾さんがケースを台に置き、押し上げた眼鏡がキラリと光る。

そして白の手袋を両手にはめると、ゆっくりケースを開いた。

すると中に入っとったんは1枚のコイン。

うん…でしょうね…知ってた…

それをソロリと抜き出すと、俺と柔を交互に見る…

いや!こっち見んなっ!!と言いたいのをグッと我慢。


「お二人共…準備は宜しいでしょうか?表ならばロストポイント制、裏ならばMMAルールがファーストラウンドに決定致します。異論はありませんね?」


「ちょっと待ってぇな」


柔が手を挙げた。


「なんでしょうか暮石さん…?」


「いや、そのルールに異論は無いねんけどさ…そのコインのどっちが表でどっちが裏なんか、俺達にはわからへんのやけど?」


「おっとそうでしたね…これは失礼致しました。ではご説明申し上げましょう…彫刻の施されたのが表、何も加工されていないツルリとした表面の方が裏…という事で如何でしょうか?」


「まぁ…それでええけど…」


答えた柔が俺をチラ見する。

それを受けた俺も…


「わたしは一向に構わん!」


そう答えといた。

すると柔が再び口を開く。


「えっと…因みにだけどさぁ…彫刻って何の彫刻なん?」


この質問に、又も九尾さんの眼鏡が光る!


「文字が…文字が彫ってあります…」


「それだけ慎重に扱ってるって事ぁ、そうとう価値のある古コインって事やろ?なんて書いてあんの?」


「カモメ…カモメホール…と」


「……はい?」


「いや、ですからカモメホールと…」


「訊き返したんはそういう事や無くて!そのカモメホールって何やねんって事やがなっ!!」


「話せば長くなりま…」


「手早く頼むわ」


「わたくし…少々ながらパチスロを嗜みまして…これは昔ホームとして毎日入り浸ってたホールのコインなのです」


九尾さん…毎日入り浸ってたんやったら少々嗜むなんて謙虚に言っちゃダメ…


「しかし残念ながら…10年ほど前に閉店してしまったのです。このコインはわたしのズボンのポケットに入っていた奇跡の生き残り!あの時代の大いなる遺産!!わたくしの青春だったカモメホールの生きた化石なのです!ですから!わたくしからすれば!どんな古コインよりも価値のある宝の如き存在!!故にこの様に大切な扱いをですね…」


いや…遺産は大袈裟やし、生きても無いし、化石でも無いし…

てか…あの人の悪い癖が始まってしもたやん…

このままやと2〜30分はあの熱量で喋り続けはるで…あの人…

柔、お前が火をつけたんやから責任取れや!

そんな思いを込めて奴に視線を送る。

すると申し訳無さそうに掌を立てた柔。

徐に立ち上がり、まだ喋ってる九尾さんへスタスタと近づくと、彼の人差し指と親指に摘まれたコインを山賊の様にひったくった!


「ああぁぁぁ〜〜〜っ!す、す、素手でぇ〜〜っ!な、なんて事をしてくれたんですかぁぁ〜〜っ!!し、指紋が、指紋が着いちゃったじゃないですかぁぁぁ〜〜っ!!!」


腰から落ち、泣き崩れる九尾さんを見下ろした柔。

その足下にすがりつく九尾さん…

カ、カオスや……

駄々っ子の様に泣き喚く九尾さんの首筋に、柔が手刀を一閃!

九尾さんが糸の切れた人形の如く床へと沈む。

あ〜ぁ…黙ってれば男前やのになぁ…あの人。

残念過ぎる男前やわ…マジで。


九尾さんが眠りについたのを見届けると、柔が右手の親指でコインを宙に弾いた。

そして左手の甲に落ちたと同時に右手で蓋をする。


「勇よ…恨みっこは無しやでぇ?」


「応!あたぼうよ!」


柔が右手を退けるとそこにあったのは…


わりぃな勇!カモメは居ねぇわ…どうやら1ラウンドで終わらせる事になっちまいそうやで♪」


「ケッ!言ってろタ〜コッ!第2ラウンドに突入する時のお前の焦った顔を楽しみにしとくわい♪」


俺はそれだけ言い残すと、振り返りもせずそのまま控え室へと戻った。

深い溜め息と共にパイプ椅子へと腰をおろす…

そして無意識に呟いた言葉は…


「やっべ…どないしょ」









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