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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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三度開かれたドア

調印式が終わってからの1週間、不破と一緒に地獄の様な追い込みをかけた。

この期間の大作さん、トレーナーの鈴本さん、新木さんは本当ほんまに鬼に見えたわ…

んでもって地獄の1週間を終えてから試合までの1週間は、身体を休める休養期間。

お陰様でベストコンディションで今日という日を迎えられたわ。

そう!今日はいよいよ試合当日!!

俺は既に神戸ワールド記念ホールの控室にる。

俺達の試合前に5試合が組まれとって、それに出場する選手達は大部屋2つに分かれとるんやけど、ありがたい事に俺と柔はそれぞれに個室が与えられた…感謝感謝!


「おい!あと20分でルールミーティングが始まるから遅れんなよ!!」


「あぁ…わかっとる…」


ノックも無しでガサツにドアを開け、デケェ声でありがたい通知をしてくれた不破に生返事を返す。


「なんや…えらい元気あらへんな?なんか拾い食いでもしたんか?」


「アホゥ!試合前を静かに精神統一して過ごそうとしとるところにガナリ込んで来やがって!!そこで俺までが“オッケーッ!任せとけや!バイブス上げ上げぇ〜ウェ〜イ♪”なんてテンションで返しとったらイタいやろがいっ!!」


「いや…何もそこまでやれとは言うとらへんやんけ…」


「ったく…ちゃんと遅れんと行くから心配すんな!それまで独りにしてくれや!」


「お、おぅ…なら後でミーティングルームで…な…」


「わあっとるっ!しつこいぞっ!!」


「お〜怖っ…お前が今日“生理”とは知らんかったわ…」


憎たらしい捨て台詞を吐いた奴の背にオープンフィンガーグローブを投げつけたけど、閉じられたドアにぶつかり虚しく床へと転がった。

太い空気の束を吐き出し自らソレを拾いに行くと、再びドアが開かれた。


「わかった言うとるやろがぃっ!ええ加減にせぇ…よ…」


言葉が尻すぼみになったのは、そこに立ってたのが不破や無かったからや…


「へぇ…珍しく荒れてんじゃん♪」


「そ、そそぐちゃん…」


実は彼女、今大会のオープニングマッチを務めてくれる。

オープニングマッチと言っても、勝敗無しのエキシビジョンやから戦績には記録されへん。

とは言え…こんな大舞台で大役を任されたのに、時間を割いて様子を見に来てくれた…

その事に驚いたし、何より素直に嬉しかった。


「で?何がアンタをそんなにイライラさせとるんかな?」


「不破」


「へ?」


「あぁ…別にナーバスなっとる訳や無いんよ。独りで精神統一しとる時にあのアホがデリカシー無くガナリ込んで来たもんやからさ、今そそぐちゃんが来た時もアイツが戻って来たんかと思って怒鳴ってしもたんよ…ゴメンやで」


「なるほど…そういう事ね。なら…大会が終わったらシメとくわ♪」


「ハハハ…本気やから怖いわ…」


「でも…安心した」


「え?」


「やっぱこの試合はアンタにとって特別やん?言い方は悪くなるけど…今までのどの試合も、この試合に向かう為の踏み台やった訳やん?」


「ほんまに言い方悪いやんけ…」


「だからガチでナーバスなっとるんちゃうかと心配やってんけど、どうやら無用の心配やったみたいやん?だから安心した♪」


「あ、あ…ありがとう」


「んじゃ私もそろそろ行くわ!もう少しでルールミーティングやから遅れんときぃや!」


「ああ。わかっとるよ」


「じゃ後でね」


不破アホと違って静かに出て行った彼女を見送る。

すると直ぐに三度みたびドアが開かれた。

入って来たのは又もや彼女やった。


「どしたん?」


「ゴメンゴメン!ちょっと忘れ物しちゃってさ…」


「忘れ物…?」


確か彼女は手ぶらでココに来たはずやけど…

そう思いながらも部屋を見渡す俺。

すると彼女は真っ直ぐ俺の方へと向かって来た。

普段の習慣で思わず身構えてしまったけど、彼女は笑顔で俺の首に腕を回して来た。


“く、首相撲からの膝蹴り!?”


覚悟して固く目を閉じた俺の唇に、柔らかくて優しい感触が触れた…


「え……?」


「アハハ♪なんちゅう顔してんねんな!女神から勝利のおまじないやんか♪」


「あ…あぁ…ありがと…」


呆けて…いや…惚けて立ち尽くす俺を残し、何事も無かった様に彼女は去って行った。

10分後、唇に残った余韻と共に俺はミーティングルームへと向かってたんや。



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