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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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宣戦布告

「お!?見違えるやん!馬子にも衣装とはよく言うたもんやな♪」


スーツ姿の俺を大作さんが冷やかす。


「まぁ俺くらいになると何でも着こなしちゃうんすよねぇ♪」


「ハハハ!言うやんけ!」


「でも…孫にも衣装かぁ…ほんま死んだ爺ちゃんにも見せたかったなぁ…晴れ姿…」


「いや…あの…孫じゃ無くて馬子…」


「へ?だから孫でしょ?」


「まぁ…うん…おめぇはそれでいいや…」


大作さんが猪木の名言と共に何かを諦めた様子…

俺にはそれが何なのかはサッパリ解らんけども…

とにかく今日の俺と大作さんは、スーツをパリッと決めてホテルオークラ神戸のロビーにおるんや!

何故ならあと20分もすればイベントスペースで調印式が行われるから!!

多くのマスコミが取材に来るし、一部はTVでも放送されるらしい。

そうなりゃ奮発して高いスーツを用意しようって気にもなるやん!?

まぁ…貸衣装なんですけどね。

いや!貸衣装もバカにならん値段しよるねんで!!

洋服の○山やったら何着買えるねんって値段やったもの…


そりゃあ迷ったさ…俺だって…

そこそこ良いスーツを買って臨むか、高級ブランドのスーツを借りて臨むか…

でも…でもや!ここは一発奮起してナメられんように最高級スーツに身を包むんが男…いや!漢っちゅうもんやろ!?

え…?高級ブランドのスーツを買うって選択肢は無かったんかって?

………ちょっと何言ってんのかわかんないっすね

っと!そうこう言うとったら、向こうから見知った顔が歩いて来たやんけ♪

久々に直接会う“アイツ”は、トレードマークのドレッドヘアをやめて短く刈り込んどる…それだけこの一戦に気合いを入れてくれてるって事やな!

嬉しいやんけ♪

俺はにこやかに手をあげながら、奴に声を掛けようと近づいたんや。


「よう!えらい頭サッパリしたやん!!……え?」


アイツは…柔は…視線すら合わせずに俺の横を素通りして行ってしもた…

呆然と奴の背中を見送る俺の肩に、大作さんがそっと手を置いた。


「今の…少なくとも試合が終わるまでのお前は友達や無いって事やな…つまりもう闘いは始まってるってこっちゃ。お前も褌を締め直さんと喰われっぞ!」


「そうっすね…キッチリ気合いを入れ直して俺がアイツを喰ったりますわ!!」


「あぁ…それでええ!」


そうこうしとる間に係の人が呼びに来て、俺達はイベントスペースへと通された。

入るなり多くのフラッシュが俺達に浴びせられる。

手で目を庇いながら席へ向かうと、既に柔とバレットの代表は席に着いとった。

相変わらず俺へは一切目を向けんまま正面を睨んどる。

着席した俺と柔の間には、バレット無差別級のベルトと武人もののふチャンピオンベルトが並べて置かれとった。

部屋のライトやカメラのフラッシュを浴びて、キラキラと宝石みたいに輝いとる。

それを見た瞬間…


“コレ…2つとも俺のもんにしたいっ!!”


そんな想いが脳ミソから溢れ出した。

我慢でけへん程の欲望ってやつや!

司会者の人が何やら口上をたれとるけど、全く頭に入ってぇへん!

あの2つの宝石に心を奪われて上の空ってやつや。

俺は真顔を正面に向けながらも、頭の中では2本のベルトを肩に掛ける自分を想像しとった。


式は順調に進行し、お互いがサインした契約書を交換する。

この時ですらアイツは俺を一切見いひんかった。

そしてここからは質疑応答の時間。

司会の女性が言う。


「質問をご希望の方は挙手をお願い致します。そして所属先と氏名をおっしゃった後に質問の方をお願い致します」


一斉に手が挙がる様は圧巻やった!

そして最初の質問をする為に1人の記者が当てられた。

野暮ったい服装の男が立ち上がる…


「月刊プロ格の島袋と申します。では早速ですが…お二人は昔からのお友達とお聞きしていますが、やりにくさは感じてないのでしょうか?」


「では…先ずは不惑選手からご回答をお願いします」


司会者に言われた俺はマイクを握る。


「昔なじみだからこそ手の内もある程度はわかるし、逆にやりやすいと思ってます。過去に何度か手合わせして1度も勝てなかったんですが、これまでとは違う成長した俺の怖さを奴の身体に教え込んでやる所存っす」


「では続きまして…暮石選手…お願…」


雑にマイクを握った柔、司会者がまだ発してる言葉を遮る様にして言いやがった…


「友達だぁ?この試合が決まって以降、奴の事は親の仇くらいの勢いで憎んで来たんでね…奴が俺の足下に這いつくばった時、ようやく友達って感情が戻るのかもね。まぁ何にせよ、自分だけが成長したと勘違いしてるアホにはキッツイお仕置きをしたりまっさ♪」


ここで今日初めてアイツと目が合った。

せやけど…そこに見えたのは俺の知ってる人懐っこい顔や無く、本気で俺をりに来た殺し屋の顔があったんや。


よっしゃ!上等や!!

奴がヒールを担ってくれるちゅうんやったら、俺は正統派ベビーフェイスで迎え撃ったるだけじゃいっ!!

柔よ…お前の宣戦布告、確かに受け取ったでぃっ!!


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