弱点
不破を呼んだのは大作さん…
状況が理解出来へん俺を見て、楽しんどる様子の大作さんと不破。
更にこの光景を楽しんどるのが、腕組みして仁王立ちで笑ろてるそそぐちゃんや。
「えっと…そそぐちゃんも不破が大作さんに呼ばれた事を知っとったん?」
「いえ、ちっとも!」
「……じゃあ何で笑ろてんの?」
「アンタが戸惑う顔は私の養分!そして大作様の楽しそうな顔は最高のご馳走!!ありがとうございます!!」
「……楽しそうで何よりです…」
そう言やぁ、そそぐちゃんは大作さんファン…てか信者やったな…すっかり忘れてたわ。
あ!そんな事よりこの状況を説明して貰わな!!
「あ、あの…大作さん…」
「わかっとるわかっとる♪ちゃんと説明したるから」
「はあ…」
俺が気の抜けた返事を返したところで、大作さんが不破の肩に手を置きながら話し始めた。
「俺が不破ちゃんに声を掛けたんは、武人トーナメント当日の事や…」
「ちょ…その不破ちゃんてのやめてぇな!どっかのYouTuberみたいやんか…」
「はは、そう言うなって!もうこの呼び方に慣れてしもてんからさ♪」
「ったく…じゃあ俺もアンタを大ちゃんて呼ばせて貰うかんな!文句ねぇよな?」
「応さ!ある訳ないやん」
な、なんや知らん間にえらい仲良ぅなっとるやん…この2人…
と、ここで俺の隣から再びドス黒いオーラがメラメラと立ちのぼったんや…
「…………やと?」
そそぐちゃんがボソリと何かを呟いた…
ハッキリとは聞き取れんかったけどこれだけは判る…
これは“ヤバい”状況や!!
で!そそぐちゃんの言葉に反応した不破が聞き返す。
「へ?そそぐちゃん、今なんか言った?」
ア、アカン…不破、オワタ…
「何か言ったかじゃねぇだろグォラァッ!!テメーみてぇな三下が、事もあろうか大作様を大ちゃん呼ばわりだぁ!?ザケんじゃねぇぞ茶坊主!!1億万年早ぇ〜んだよっ!!」
「あ、いや……待ってぇなそそぐちゃん…いや、そそぐ様!!こ、これは俺、いや、私目と大ちゃん、いや、私目と大作さんの間で…」
「さんじゃねぇ!様だろうがっ!殺すぞっ!!」
「あ、はいっ!すいません!!これは私目と大作様の間での決め事でして、たった今、大作様御本人から許可も頂いた次第でして……」
「ほぅ…?口答えたぁええ度胸やのぅ…どうやら命要らんらしいな…」
指をポキポキ鳴らしながら、不破に向かってゆっくりと歩を進めるそそぐちゃん…
ハイ!不破完全終了〜!!
と、思ったその時、そそぐちゃんと不破の間に太陽が昇った。
そう、大作さんが満面の笑顔で間に入ったんや。
「コォラ!そそぐちゃん!いつも言ってるやろ?直ぐ怒るのも言葉遣いも気をつけなさいって!せっかく可愛いんやから勿体ないで♪」
すると身に纏っていた殺意の波動がみるみる消えてゆき、顔を真っ赤にした彼女が答える。
「や、やだ!大作様ったら可愛いだなんて!なんて正直で真っ直ぐな御方なんでしょう♪」
身をクネクネと捩る彼女は完全に“女”の顔やんけ…
一回くらい抱かれとんちゃうか…
「それにな、そそぐちゃん!今、不破ちゃんが言うた通りこれは俺が許可した事やねんから、これからもそう呼び合う。だから今後はこの件でキレたりせんように!ええな!?」
「勿論ですわぁ♪大作様がそう仰るなら♪」
「ん!いい子だ♪じゃあ今から大事な話があるから、大人しく聞いててな?」
「はいっ!!」
す、凄ぇな大作さん…
多分、そそぐちゃんの手綱を操れる唯一の人間やで…
不破もそう思ったんやろな、そそくさと俺の背後に逃げて来て…
「だ、大ちゃんて凄い奴っちゃな…あのバーサーカーが飼い犬みたいに尻尾振っとるやんけ…」
「人の彼女をバーサーカーて…まぁいい得て妙やけども…」
ようやく場が落ち着いたところで、大作さんが再び俺に目を向ける。
「さて…おてんば娘も正気に戻った事やし、話を本題に戻そか!」
“いや!おてんばってレベルちゃうやろっ!!”
俺と不破は心の中で同時に突っ込んだけど、あくまで心の中だけに留めておいた。
「どした不破ちゃん?そんな所で小さぁなって…ええからこっちにおいでな♪」
呼ばれた不破が、そそぐちゃんの前を横切るようにして大作さんの所に戻る。
右手と右足を同時に出しながら…
「さて!では改めて…俺が彼を呼んだ理由やけども…
勇!お前は自分の欠点というか弱点を自分で解ってるか?」
「へ…?弱点…っすか?」
予想外の質問に数秒間頭上を見上げて考える…
「えっと…スタミナ面に問題があるのと、あとは…打撃も寝技も中途半端な技術で“コレッ”てのを持ってない事…ッスかねぇ…」
小さく頷きながら聞いとった大作さんが、徐に口を開く…
「まぁ…それもハズレや無いな。でもな俺が言うてるのはそういう事や無い…もっと本質的な部分での事や」
「本質的…ッスか…?」
「わからんか?なら教えたるわ…」
その“答え”が出るまでの間、他の人にも聞こえたんちゃうか?って程の大きさで自分の唾を飲む音が聞こえた…
「勇…お前にはズルさが足りへん。ハッキリ言えば…お前は格闘家として怖くないっ!!」
その言葉に俺は、ピーター・アーツの左ハイキックを喰らったかの様な衝撃を受けてたんや…




