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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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なんちゃら!

柔がバレットの無差別級チャンプになって2ヶ月が過ぎた。

つまり俺と柔の“約束の日”まで2ヶ月に迫ったっちゅう訳や。

で、そんなある日の事やった…

いつもの通りグングニルに練習へ出向くと、そそぐちゃんが入口の所で何やらニヤニヤしながら俺を待っとった…


“な、何だ…この感じは?い、嫌な予感しかせんのだが…”


ニュータイプが如く眉間に閃きが走った俺は、そのままきびすを返して来た道を戻ろうとしたんや。


「待て待て待てっ!」


“やっべ…気付かれた…南無三!ここはニュータイプお得意の回避能力をもってして切り抜けねば!”


「待たんかいな!何処行くねん!!」


「あ…あ、あぁ…そそぐちゃんかいな!ま、全く気付かんかったわぁ♪」


「……ガッツリ目が合ったやんけ」


「そ、そうやったかなぁ…ピュ〜ピピュ〜♪」


「く、口笛って…誤魔化すん下手かっ!しかも口笛も下手やしっ!!」


「な、何も誤魔化してなんかあらへんよ…ハハハ…それより何用でグングニルに来てるん?しかも中入らんと入口で立って…ハッ!もしかして門番っ!?」


この直後、凄まじい衝撃を受けたのは覚えてるんやけど、その後暫くの記憶が抜け落ちたのは言うまでも無い…

次に意識が戻った時、そそぐちゃんが馬乗りになって俺へと平手を振りかざしてる瞬間やった!


「ちょ…!タンマタンマッ!な、何すんねんなっ!?」


「え…?何って…アンタが失神しとるから気つけの一発をやな…」


「大丈夫!もうすっかり目ぇ覚めたからっ!!」

“そそぐちゃん…それは気つけや無くて、とどめって言うんやで…”


「あ、一応さっきの質問に答えとくな!今日は烏合衆のリーダー朝倉さんの都合で練習が休みになってさ、どうせならアンタもおるやろしグングニルで稽古させて貰おうと思ってさ♪」


「ほほう…なるほど…読めたぞ!で、来たは良いけどヤバい奴お断りって門前払いを喰らって、そのまま入口で途方に暮れていた…と?」


「なぁ…もっぱつイッとく?」


シリアルキラーの表情で再び平手を振りかざす、俺の彼女であるはずの女性…


「うわっと!ゴメンゴメン!冗談!冗談やって!!とりあえずその手を引っ込めて、俺の上からも退いてくれん!?」


「チッ!」


“えぇ〜…っ?こ、この場面で舌打ちって…正気ですか我が恋人よ…?”


「ほら!チャッチャと立ちぃな!」


「あ、あんがと…」


彼女が差し伸べてくれた手を握り立ち上がる…

こういう優しさも持ち合わせている事はいるんやけど、いかんせん“ツン”の供給が多すぎて、これっぽっちの“デレ”ではバランスが取れとらへん…


「で!グングニルに来てみたらさ、中に意外な人がったからココでアンタを待っとこうと思ってさ♪」


「意外な人…?誰よ?」


「それは見てのお楽しみや♪さっ!中入ろ!?」


「あ、ああ…」


彼女に背中を押されながら入口の扉を開く。


「こんちゃ〜スっ!」


俺の挨拶に皆が動きを止めて挨拶を返してくれた。

せやけど…その中で1人だけ動きも止めず、挨拶も返さず、黙々とサンドバッグを打ち続けとる男がおった…


“そそぐちゃんが言ってたんはコイツやな…”


パーカーのフードを被っとるんで、後ろ姿だけでは風貌が判らへん。

でも動きはええ…かなり“デキる”奴って事は直ぐに判った。

俺はそいつに近付き“ええ動きやな!”って声を掛けようとしたんやけども…まさに口を開いた瞬間、それを先読みしてたかの様にそいつが先に口を開いたんや。


「ちぃ〜とばかし遅いんちゃいまっか?先輩!」


「え…あぁ…ちょっと色々あってなぁ…」

“色々ってのが失神なんて言えんしなぁ……”


この時点で動きこそ止めてるけど、まだこちらに向き直ってすらいない男。


「やっぱアレっすか!武人もののふ王者ともなると重役出勤って訳でっか!?」


コレには流石にカチンと来た!

初対面の先輩に対し挨拶も無く、目も合わせず、最初にぶつける言葉が皮肉ってのは幾ら何でも無礼が過ぎるやろ!

それでも声を荒げるでも無く、優しく器のデカい男を演出しながら声を掛ける俺…偉い!


「なぁ…自分さぁ…」


男の肩に手を掛けようとしたその時!

ついにそいつが被っとったフードを外してこっちを向いたんや!!


「ア、アンタはっ!?」


「へへへ♪どうも〜あの時の準優勝者でぇ〜す!てかっ♪」


「ふ、不破!不破…え〜っと………不破なんちゃら!!」


「敏郎なっ!下の名前忘れたんやったら無理せんと名字だけ言うとけや!何やねん“なんちゃら”って!せめて忘れた事くらい礼儀として隠さんかい!!」


「お、おう…すまんかったな…なんちゃら敏郎…」


「お前…ワザとやっとるやろ…それとも最近強く頭でも打ったか…?」


“ええ…ついさっき入口で!”

そう言えたならどれ程に楽であろう…そう思う吉宗であった…

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