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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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同志よ…

3つ続いて響いたその音は、小気味良いほどにリズミカルやった…


ボグッ…

ドサッ…

ズドンッ…


1つ目は金木の踵落としが柔の脳天を捉えた音


2つ目は柔の両膝が地に着いた音


3つ目は…

3つ目は、柔がそのまま俯せに倒れた音…や…


「柔ぁ~~っ!!」


俺は叫んでた…

直ぐにでも駆け寄りたかった…

でも…なんでか解らんけど、足は動かんままやったんや…

目から〝しょっぱい〟水を垂れ流したまま立ち尽くしてるのが精一杯やった。


「勝負あり…やな…」

呟いた島井も無念を滲ませとる。

俺はさっき島井が言っていた

〝10回やって勝ち越す実力があっても、1回目に勝てるとは限らへん〟

て言葉を思い出してた…その通りになってしもうた訳か…


勝った金木の方は、膝に手を当てながらゼェゼェ言ってたんやけど、息が整うとゆっくり柔の方へと歩き出したんや。

それを見た山田と林田が途端に慌てだす。


「おい…ヤバいぞ…」


「ほんまやっ!林田、行くどっ!」


2人が急いで金木の方へと駆けて行く…

残された俺と島井は訳がわからんまま、2人の背中を見送ったんやけど…


「おいっ!お前らも来いって!」


山田が引きつった顔で呼ぶもんやから、俺達も小走りで後を追ったんや。

そしたら山田が突然金木を背後から羽交い締めにしよった、ほんで林田も金木の腰辺りに抱きついとる…

俺と島井もただ事や無いのを察して、小走りからダッシュにシフトチェンジした。


「もうええんやって!お前の勝ちやっ!」


「せやで金やんっ!もう終わったんやっ!」


山田と林田が必死の形相で叫んどる…

それに対して金木は…


「離せやカスがぁっ!!俺はまだ気ぃ済んでへんのじゃっ!!」


狂気の表情で叫びながら、2人を振りほどこうと滅茶苦茶に暴れとった。

ようやく追い付いた俺は、金木とまだ倒れとる柔の間に立ち塞がったんや。


「金木ぃっ!お前、何するつもりやっ!もう勝負ついたやろがいっ!!」


「あぁん?何を寝惚けた事ぬかしとんじゃ…勝負っちゅうのんはなぁ、勝者の気が済んだところで終わるんじゃ…幕引きの権利は俺にあるっちゅう事や…わかったか甘ちゃんの茶坊主よ?」


「ざけんなよ…ざけんなよこのチンカスッ!これ以上柔に何かしてみぃ…俺がお前を潰すど」


「この俺様を?潰す?本気で言ってんの僕ぅ?

お前ギャグのセンスあらへんのぅ、ちっとも笑えんわ…」

そう言うなり、あれだけ荒ぶってた全ての感情と熱が消えたみたいに、金木の表情が〝無〟になった。

そして…


「もうええ…もう大丈夫やから離せ…なんやシラケてしもうたわ」


言われた山田と林田は、一瞬だけ困惑した顔を見合わせたけど、素直に応じて金木から離れる。

するとそのタイミングで柔の声が後ろから飛んで来た。


「なんやぁ…()まいかいや…せっかく来た所を捕まえて、今度こそ関節極めたろぅと思ったのによ」

上体を起こした柔が、相変わらず溢れる鼻血を拭きながらニヤニヤ嗤っとる。


「お、お前…いつから目覚めとったんや?」


「へ?…お前、何言ってんの?俺は1回も失神なんざしとらんで。今言うた通り、油断させて近付いた所を仕留めたろっちゅう作戦やったんや。金木も俺に意識あるんが判ったからこそ、とどめ刺そうとしたんや。せやろ、金木よ?」


「……フンッ」

金木は不服そうに鼻だけ鳴らすと、何も言わずにカ~ッ…ペッと唾を吐き出した。


「それをお前ら、皆んなして台無しにしやがってよ…そっちの2人は金木に、勇と島井は俺に詫びとして後で何んか奢れ」

ようやく立ち上がった柔やけど、やっぱダメージは残っとるんやろな…よろけてるもの…


「おっとっと…ハハハ、やっぱフラフラするのぅ…見事にボロボロやわ♪」


何故か楽しそうな柔に金木が言う。

「俺の勝ちで文句無ぇよな…?」


それに反応したのは島井やった…


「それはおかしくねぇか?勇と林田の時は無効になったんやから、今回も…」

でも柔がそれを遮った為、最後までは言わせて貰えない。


「あぁ…文句無ぇよ。お前の勝ちだ」


「ちょ、柔…お前それでええんかいや?」


「いいも何も、これが試合やったと考えてみぃや。手数・有効打・ダメージ、どれを取っても判定3ー0でアイツの勝ちやろ?それどころか、俺が〝シャア専用か!〟っちゅう位に赤くなった時点で試合やったら止められてるわいな」


「まぁ…せやけどよ…」

ゴニョゴニョ言いながら、島井がバツ悪そうに引き下がる。

柔はそれを見届けてから金木へと向けて続けた。


「さてと…これで五分の勝敗で終わった訳やけど…約束は覚えてるよな?」


「約束…あぁ…そこの甘ちゃんとうちのボケナスの再戦でケリつける…ってアレか?」


「おぅ、それそれ♪」


「正直、俺はお前とヤレたからもうどうでもええ…あとは当人同士で決めてくれや」


「あない言うとるで勇、どないする?」


柔が悪戯っ子みたいな顔で俺を見た…

まぁ悪戯っ子が青っ鼻を垂らしとるのに対し、コイツが垂らしとるんは赤やけどもな。

それはともかく…

この時、俺の中で何かが燃え上がるのを感じたんや。ほんでもって気付いたらこんな事を叫んどった!


「あんな出っ歯のイカサマ野郎にもう興味あらへんっ!…金木よっ!日を改めて俺と勝負したれやっ!!」


柔が〝言うと思った〟てな顔で笑ろてる。

林田はデカい目と出っ歯を剥き出して怒ってる。

島井と山田は意外な展開に戸惑っとるらしく、唖然とした顔で互いを見つめ合っとる…

この2人どうせモテへんのやし、いっそ付き合えばいいのに♪


そして当の金木はと言うと…


「ほぅ…美味しいディナーの後にデザートが出て来た…っちゅうところやのぅ」


「な、柔はディナーで俺はデザートかいやっ!」


「まぁまぁ細かい事はええやないけ♪

とりあえず喜んで受けたるわ。山田とそこのゴリラみたいな兄ちゃん、さっき連絡先交換しとったのぅ?なら日にちと時間は後日それを通じて連絡するわ」


それだけ言うと金木は背中を向けたが、そこへ柔が再び声を掛ける。

金木は足を止めて、首だけで振り返った。


「そういやぁよ~…1つお前に訊きたい事があったんだわ」


「あん?なら、とっとと言え…」


「お前さぁ、ナンパするのに何んでそんなブサイク2人を連れてた訳?」


これに〝公認ブサイクコンビ〟が今にもムキィ~とか叫びそうな顔をしとる。

それをフフンと笑うように見てから金木は答えた。


「ブサイク連れとった方が俺の成功率は上がるからに決まっとるやんけ♪」


これを聞いた〝公認ブサイクコンビ〟は、マンガみたいに顔に斜線が入って見える程のショックを受けとったわ♪

それを見た俺と島井は腹を抱えて笑ってたんやけども…


「なぁんや…俺と同じ理由か♪」


言い終えてから〝しまった〟とばかりに口を塞ぐ柔を前に、怒りを通り越したショックが俺達を襲って来た…

そうか…山田、林田、君達は今、こんな気分だったんだね…さっきは笑ってすまなかった、心から謝罪します…同志よ。


暗闇の中に1人立ち去って行く金木と、街灯に照らされた場所で自らの口を塞いだまま立ち尽くす柔。

そして俺達4人は…

顔に斜線を走らせた同じような顔をして、周囲の闇の中で口から魂を吐き出してたんや…














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