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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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世界一○○が上手い職業

ダウンを宣告されてから数秒は右肩をおさえてた不破やけど、カウント5になる頃には正座して目を閉じとった。

いわゆる瞑想みたいな感じやろか?

で、カウント8の時に目を開いた奴は…


「さんざん付き合ってやったんやから、今度はこっちに付き合えや…」


そう言うと正座の状態のままジャンプして、再びリングに足の根を張った。

足の根を張ったってのは上手い事を言った訳や無く、さっきまでと纏う空気が変わったせいか、奴の姿がマジで巨木の様に見えたんや。


「もちろんアンタだけに付き合わせるつもりはあらへんで…せやないとアンフェアやからな。相手の力を受け切って更なる力で返す…風車の理論を見せたろやないかい!」


「風車でも受け切れん風力があるって事…教えてやんよ…」


不破が獰猛な笑顔を見せると同時に、レフリーの試合再開を告げる声が響いた。

咄嗟にクラウチングで構えたんやけど、その時にはもう不破の姿が目の前にあった…


「え…?」


「遅ぇよ…ドン亀くん♪」


気付いた時には左手首まで握られてる始末…


“関節技?投げ技?どっちにせよこの状況はヤベエ!”


俺は昔に室田師匠から教わった、合気道の返し技で掴まれた手首を外そうと試みる。が…こちらの逃げるのと同じ方向に力を合わせられ上手くいかん!


「お?不惑、お前…合気道も使えるんかいな♪ほれ!もう少しや頑張れ頑張れ♪」


“くっ…!コイツ…!”


また別の方向へ力の流れを向けて脱出を狙うが、結果は同じ…

それを3度、4度と繰り返し、俺達は自らの尻尾を追う犬みたいに滑稽な動きになっとった。

細かい攻防が解らへん客からはブーイングも飛び始める。


「お?客が退屈し始めたみたいやで?まぁ俺はブーイングなんざぁ平気やねんけども……どうするねレスラーくん♪」


コイツ…声援を力に変えるプロレスラーの習性を知ってて煽って来てんのか?上等っ!!


俺が空いてる右手で打撃を繰り出そうと考えたその刹那、奴が掴んだ手を猛烈な力で前へ押して来よった!

感覚的にそれを押し返す!

すると今度は強烈な力で引かれた。

その瞬間“ヤベェ”と俺の本能が告げた…

で、その本能のお告げは正解やったんや……


「不破式…達磨落とし」


この声を聴いた直後、俺の視界ではチカチカと細かいフラッシュが焚かれてた…


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「お〜っと!前に出ようとした不惑だったが、不破の投げをカウンターで喰らってしまったぁぁ〜っ!

大作さん!今の攻防は!?」


「勇は前に出ようとしたんじゃありません…前に出させられたんすよ…」


「と、言いますと?」


「不破選手は今の攻防の直前、掴んだ勇の手を押し込む様な動きをしていました。人間は押されたら反射的に押し返そうとする…その習性を利用したんです。で、勇が前に出ると同時に今度は引く…引いて加速させた勇の喉元に手を引っ掛け、仰け反らせる。そして“死に体“となった勇の足を掬い上げながら、反った頭部をリングに叩きつけた…不破選手は完璧に力の流れをコントロールしていますね…」


「(ゴクッ)し、失礼しました、あまりの内容に思わず生唾を飲む音を全国ネットで流してしまいました…御聴き苦しい点があった事を心よりお詫び申し上げます。

し、しかし不惑、当然ながらダウンを奪われてる訳ですが…その様な恐ろしい技を喰らってしまって立てるんでしょうか?」


「路上なら終わってましたね…でもここはリングっすよ」


「???」


「お忘れですか勝瀬津さん…?プロレスラーってのは、世界一後頭部を打ち付けられるのが上手い職業だって事を♪」


「あ!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


うわぁ…効いた…効いたでぇ…

せやけど両手が自由になったお陰で受け身が取れたんは救いやった。

この程度の衝撃やったら、これまで何回も経験しとるっちゅうねん。

さぁて…少し不破の野郎を驚かせたりますかね♪


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「うわぁぁ〜〜っ!た、た、立った!立ちました!なんと不惑、ダウンを宣告されてからカウント5で立ち上がりましたぁぁ〜〜っ!!」


「ったく…勇のヤツ悪い癖ぇ出しよったなぁ…」


「癖?な、なんの事かは解りませんが、ここはカウントアウトぎりぎりまで休むのが正解では?」


「格闘家目線で考えるなら勝瀬津さんの仰る通りですが…残念ながら勇はプロレスラーですからねぇ。これはアイツなりのパフォーマンスであり、アピールなんでしょう。いやぁ…ほんっと悪い癖だわ♪」


「な、なんか嬉しそうですね大作さん…?」


「あ…バレましたぁ?」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「……ッ!!」


「なんやぁ不破?豆が鳩鉄砲喰らったみたいな顔して?」


「お、お前…バケモンかよ…ついでに馬鹿モンだって事も理解したけども…」


「失敬な!誰が馬鹿モンやねん!」


「豆が鳩鉄砲やなくて、鳩が豆鉄砲な…」


「あ……ちゃ、ちゃうわいっ!お前の投げで頭打ったからボ〜っとして間違えただけじゃい!そんなん常識やし!知ってたし!!」


「わあった わあった、お前はちゃ〜んと知ってた。頭打ってなかったら間違えへんかった…これでええか♪」


「な、なんやムカつく言い方やけど…まぁそういう事っちゃ!」


「んなら…お次は一生間違える位のキッツイ衝撃喰らわせたろかいのぅ…」


「上等…やってみぃや…」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


またもポイントで優位に立たれてしもたけど、不思議と奴に対する恐怖心は全く無い。

よっしゃ!ここからは格闘家でもプロレスラーでも無い!

不惑勇って個人でお相手仕る!!

なんか…イケそうな気がする!(根拠は無い)

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