リング上での会話
ええぞ…ええ感じや!
ほんまにええ具合に緊張が解れとる。
もちろん緊張感が消え去った訳や無い…
緊張とリラックスのバランスがうまい具合に取れとるって意味や。
思考は緊張を伴い、身体は脱力を…ってね♪
それにしても…目の前に立つ男はほんまに掴みどころがあらへんな…
相変わらず薄ら笑いを浮かべとるけども、ティラノに肩を壊されて尚、俺を見下しとんのか?
ただ1つ違っとるのは、今まで道着で試合に挑んでた奴が、俺との試合では上半身が裸、下はショートタイツやって事…
左肩には“これみよがし”にテーピングがされとる…
何か策があっての事か?
お、ボディチェックのお時間やな…
その時、背後からの声が背中に突き刺さった。
「勇っ!!」
振り返るとセコンドの鈴本さんやった…
「気負うな!惑わされるな!ムキになるな!伝えるんはそれだけや。試合中も指示は飛ばさん…自由にやって来い!」
「え…それだけっすか?」
唖然とする俺に新木さんが続ける。
「鈴本っちゃんなりの激励やん。それだけお前を信用しとるって証拠やで♪相手も人間や…絶対に穴はある…頑張っといで!」
「うすっ…!」
ボディチェックを終えたレフリーが、細かいルールを俺達に確認する…
適当に相槌を打ちながらも俺の視線は奴の肩へと行ってしもてた。
「お?やっぱ気になるかコレ?」
俺の視線に気付いた不破が、自分の左肩を指差しながら言う…
「別に…」
「いやいや!ガッツリ見てましたやんっ!!無理すんなって…アンタのお友達が残した置き土産やもんな、そりゃ目線も行くってなもんやわな」
「ありがとな…」
「あん?何がよ?」
「試合後のマイク…あれであのアホはかなり救われたし報われた…ツレとして感謝しとる」
「別に礼を言われる事や無い…真実を述べただけやからな。そうそうっ思い出したわ!試合後に寺野がこんな事を言うとったで…」
「……?」
「不惑勇は俺なんかより遥かに強い…ってよ。今回道着を脱いだのも、寺野の警告を信じたからや…プロレスラーに掴まれたらヤバいってのは身をもって知ったからのぅ…寺野より強いってアンタと闘るなら、裸になって当然やろ?まぁアンタに対する敬意の表れやと思ってんか♪」
「そっか…なら御期待にはキッチリ応えんと…のぅ?」
「お手柔らかに♪」
ここでレフリーがいい加減イラついた口調で割って入ってきた。
「お前ら…とっくにルール確認は終わっとるんやけどっ!?いつまでもダベっとらんと、とっとと一旦コーナーに戻ってくれるかっ!?」
「へいへい〜♪」
軽く返した不破が、こんな歌を口ずさみながらコーナーへと戻って行く…
「とっとと〜戻るよフワ太郎〜♪」
あ…こんな奴でもハ○太郎の歌とか知ってんねや…
そんな下らない事を考えた直後、レフリーの右手がリング中央の空間を斬り裂いたんや…
「ファイッ!!」




