ドクターチェック
「あ〜〜〜っと〜!?寺野のローに合わせて一気に間合いを詰めた不破!そのまま目にも止まらぬ連撃を繰り出した〜っ!!寺野、たまらずダウ〜ンッ!!」
「エ…エグいな…」
「はい?」
「いや…今の不破選手の攻撃ですよ…」
「と…言いますと?」
「先ず最初の打撃ですが、右の掌底で明らかに左目を狙ってました…眼球ってのは案外頑丈ですが、その周辺や奥にある骨は意外な程に脆い…そして掌底は打撃力が浸透するだけに眼底骨折や眼窩骨折を起こしやすいんです…」
「なるほど…」
「更に…視界を奪った左サイドにステップしながら、左掌底でカチ上げる様なアッパー…恐らく寺野選手には全く見えていなかったはずです。しかし本当にエグいのは最後の一撃…
一連の流れで倒れかけてた寺野選手の頭部を掴んでひきよせ、両掌で挟むように左右の耳を打っています…
あれでは恐らく寺野選手の鼓膜は……」
「き、聞いているコチラがゾッとします…やはりあの不破という男が使う技は…」
「ええ…相手を破壊…もしくは殺害する為の物でしょう…」
「さ…さつっ…!思わず私、その不穏な言葉を途中で飲み込んでしまいました…」
「彼…不破という男からは、互いに技を競い合うという姿勢が見えない…あるのは相手を一方的に蹂躙しようという意識。明らかにスポーツ格闘技とは一線を画しています…」
「……おっと?寺野が動くぞっ!カウント8にしてようやく立ち上がる素振りを見せた!間に合うのかぁ〜っ!?」
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へ…へへ…いや…参ったねこりゃ…三猿とはよく言ったもんやで…左目は完全に見えへんし、顎の骨もイッてしもたかも知れん…てか…マウスピースしとらんかったら舌噛みちぎってたかもな…何よりも問題は…や……耳の奥がキィーンなってもうて何んも聞こえへん…
最後のアレで鼓膜イワされてもうたらしいな…
まさに見ざる・言わざる・聞かざる…やで…
てか…ダウンカウントも聞こえへんねんけど、今なんぼ迄進んでんのや?そろそろ立たんとヤバいよな…?
確かに奴は強いわ…せやけど1発も喰らわさん内に負けられへんがな!
気合い入れたらんかい!俺の脚っ!!
「フンガァ〜ッ!!!」
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「お〜〜っと!寺野!カウントアウトぎりぎりのところで雄叫びと共に立ち上がったぁ〜っ!!」
「しかし……見て下さい、寺野選手の左目…」
「はい…?あ〜〜っ!?寺野の左目周辺が、お岩さんの様に腫れ上がっている〜〜っ!!」
「やはり先程の掌底で骨イッちゃったみたいっすね…コレはドクターチェックが入りますよ…」
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なんや?レフリー…邪魔すんなや…今からあのクソボケをシバきに行くんやからよ!
なんでコーナーに戻すねん!?
え?ドクターまで入って来たがな…
あぁ…そういう事か…ドクターチェックが入る程にヒドい面しとるんやな俺…
なんせ何んも聞こえへんから何を言うとんか解らへんがな…とりあえず頷いとこ…
「寺野…目は見えてるか?」
コクリ
「コレ何本や?」
お?指立てよったな…て事は本数を訊いて来てるんやな?
あ〜!左側に寄せなって!そっちは見えへんねん!!
せや…咳込むフリして首傾けて右目で見たろ♪
「ゴホッゴホゴホッ!失礼…え〜っと3本ッスね」
「う〜〜ん…見えとるみたいやけど、この腫れ方は骨折の疑いがあるなぁ…レフリー、やっぱ止めて検査させた方が…」
「やはりそうですよね…わかりました…」
ん?レフリーとドクターが深刻な顔で何か喋っとる…
マズいっ!コレ、止められるパターンやんけっ!!
え〜っと…どないしょ?どないしょ?…せやっ!!
「ドクター殿!並びにレフリー殿!」
「ん?」
「危険と思われるのも無理は無いと存じます!せやけど…3分!3分だけ俺に時間下さいっ!!あと3分やって俺がアイツを仕留められへんかったら、そん時は止めて下さって結構!俺も文句は言いませんよって!何卒、何卒〜っ!平に、平に〜っ!!平に〜クリントン!!」
「……クソおもんないぞ!脳にまでダメージ喰らっとんちゃうか?でもまぁ、そんだけ軽口叩けるんやったら大丈夫なんかもな…レフリー!コイツの言う通り3分だけ様子見よか?で、アカンかったら容赦無く止めたれや」
「え…いいんすか?」
「コイツ…軽口叩いとるけど、目付きだけは獣みたいや…ここで無理矢理止めたら暴れ出しかねんさかいな」
「わ、わかりました…なら3分だけ…寺野、立てっ!ええか?お前の言う通り3分だけやぞ!それでアカンかったら止めるからな!?ええな!3分やぞ!!」
お?レフリーが手招きしとる…立てってか?
ん?また指を3本立てて何んか喚いとる…しつこい奴っちゃなぁ…
本数ならさっき答えたやんけ!でも答えんと止められかねんし…しゃあないな…
「3本っす」
「…ドクター…コイツ…ほんまに止めんで大丈夫っすか?」
「……」




