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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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朱に染まりしは…

柔も金木も音が鳴りそうな程に歯を食い縛っとる…でも2人のそれでは意味合いが全然違う。

柔は絶好の勝機を逃すまいと…

金木は自分を捕らえた苦痛から逃れようと…


特に金木の形相は凄かった。

まるで虎鋏(とらばさみ)にかかった獣みたいや。

ほんで食い縛った歯の隙間から、短い呼気が絶え間無く聞こえてくる…


コフッ…クフッ…ンガッ!フッ!ハァハァ…


暫く悶絶しながら苦痛に耐えとったけど、

やがて捕らわれた獣は咆哮をあげた。


「ウオォォラァァ~~ッ!!」


空気すら震わせたかと思う様な声と共に、金木が空いている方の足を思いっきり前へと突き出しよった。

ほんでそれは見事に柔の顔面を捉えたんや。

でも流石は柔や、その程度の蹴り1発では離しよらへん。

顎を引いて、デコで受けられる形に頭を動かした。

対する金木もなかなかに執拗や…

1発で離さへんと見るや、立て続けに蹴りを突き出しとる。


2発目…柔が上手い事デコで受けた。


3発目…鈍い音が響いて、金木の踵が柔の顔面にめり込む。

柔の頭部が大きく仰け反った…でも捕らえた足首は離さへん!大したもんやで柔っ!!

せやけど…その鼻からは大量の血が溢れ出しとる…


「…ありゃ折れたのぅ」

隣の島井がボソリと呟いた。


更に4発目…コツを覚えたのか、金木の踵は寸分違わず同じ場所へと突き刺さった。

再び後方へ弾け跳ぶ柔の頭部…

流石の柔も今度は堪え切れず、せっかく捕らえた足首を離してしもた…

すかさず金木が、四つ這いのままで後ろへと逃げ出した。

安全な距離まで逃げるとようやくそこで立ち上がり、足首の具合を確かめるようにグニグニと動かしとる。


柔はというと…

泉の如く湧き出る鼻血を両手で交互に拭いながら、のそのそとゾンビみたく立ち上がる…

顔面も…

胸元も…

袖口も…

自分の血で真っ赤っ赤や。


「な、言うたやろ?アキレス腱固めは危険やねんて。金木が組技を知らんかったからあの程度で済んだけどな…もし俺やったら蹴りなんざ使わずに上体を起こしてマウント取っとるで」


解説者と化した島井がしたり顔でなんか言うとるけど、俺の頭にその内容は全く入って来ぇへんかった…

だってな…俺は確かに見たんや…

ヌメヌメと赤く染まった顔が、未だに笑顔を浮かべてるんを…

まだやっ!まだ柔は終わってへんっ!

金木もそれを見てしもたんやろな…

顔が引きつって青ざめとるもの。


「どしたぁ…金木ぃ~?まだまだこれからやでぇ~…」

柔がまた腰を落として構えた。

せやけど頭部のダメージは大きいらしく、少し身体が揺れてるように見える…


すると金木の奴、自らを鼓舞するみたいに奇声をあげながら一気に間合いを詰めて行く。

そして左右の蹴りを乱打し始めた…

まるで狂ったかの様に…


左のサイドキック…

柔は防御もせずに、そのまま胸元で受け止める…


右の上段回し蹴り…

なんとか左腕で頭部をカバー…


左の上段回し蹴り…

柔がその蹴り足を捕らえようとしたけど、スカってしまい大きな隙が出来てしもた!


「柔ぁぁ~~っ!!」


思わず叫んでいた俺の目の前で、天高く伸びきった金木の足が、重力に誘われるままその踵を振りおろして行った…





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