100mダッシュ
柔は溜め息をつくと、諦めたかの様に問い掛けて来よった
「ハァ~…勇、ほんまにヤル気かいや?」
「当たり前やっ!俺が相手に中指立てたら、それはシュートのサインやっ!!今更、抜いた刀をクルリと鞘へ戻すみたいな真似出来へんやろがぃっ!!」
「ま、せやろな…」
柔は完全に諦めてくれたらしい。
でも、そのタイミングで今度は目の前のゴリラが吠えよったんや。
「何をゴチャゴチャ言うとるんじゃい!!ヤルんかヤラへんのかっ!ハッキリしたれやチビ助っ!!」
俺は飼育員気分でそれを宥める
「まぁまぁ…そないウホウホ言うなや…
生憎バナナは持ってへんけど、代わりにたっぷり遊んだるからよ♪」
宥めたつもりやねんけど、逆効果やったみたいやな…
「こ、殺す…絶対に殺す…」
呟くゴリラの顔がみるみる赤くなった…
「柔っ!これ頼むわっ!!」
俺は持っていた鞄を柔に預けると、一気に駆け出したんや。
「逃がすかゴラァ~ッ!!」
案の定、怒り心頭のゴリラは追っかけて来よる。
しめしめや…しっかりついてくるんやで♪
次の角を右に曲がれば、50m程で公園がある。
決戦の舞台はそこやっ!!
ゴリラ君、巨体の割りに足は速かった…
1度も引き離される事無く、俺にピッタリついて来よったからな。
つまりはそんだけ身体が出来上がっとるっちゅう事やろ?これは楽しめそうや♪
俺、ゴリポン、柔の順で公園に到着。
トータルで100m程を全力疾走し、全員が膝に手をついて息を整える。
中でも2人分の荷物を抱えて走った柔は、特に息切れが酷かった
「ハァハァ…勇…いき…なり…走り…ゼハァゼハァ…出すな…や…ゼェゼェ…」
「…フゥ~…すまんすまん…スゥ~ハァ~…しかし、この程度でその息切れ、少しトレーニングが足りんのとちゃうか?」
「ハァハァ…スゥ~ハァ~…ぬかせっ!全然平気じゃいっ!!」
柔の痩せ我慢が炸裂したところでゴリポンに目をやると…流石は名門柔道部の主将や…殆んど息は乱れてへん。
「チビ助ぇ…いきなりランニングさせてくれてサンキュやでっ!これでお前を殺すウォーミングアップが出来たっちゅうもんや」
「応!それはお互い様やから礼には及ばんよ♪てかさ、お互いまだ名前言うてなかったな。俺は不惑 勇、そこの育友高校の3年で18歳やっ!で、お前は?」
「ワシは島井象山!!滝山高校柔道部の主将やらせてもろとる…ワレと同んなじ18歳やっ! 」
「…えっと、それは…人間の年齢で言うとって事か?」
「……ワレ…マジで殺すかんな」
そんな会話を交わしながらも、俺は周囲に目を配ってた。
遊具や木、石や柵の位置を把握する為に…
俺が何故この公園を闘いの舞台に選んだか、先ず第1に下がアスファルトや無くて土である事!
これだけでも投げられた時のダメージは半減する。砂場を使えば効果は尚更や。
そして第2に掴める物が豊富にある事!
組まれた時にそれらを掴めば、テイクダウンを防げる可能性が高まる…
前に観たヒクソンvs山本でも、この戦法にヒクソンは手こずっとった!
だから周囲の物の配置を覚えたんや。
狡い戦法やと笑いたけりゃ笑えばええっ!
自分でも解っとる…
でもな、これは試合やないねんっ!
路上には路上の闘い方ってのがある…
環境利用闘法ってやっちゃ!
でもな、どんな闘い方しようがフィニッシュホールドはプロレス技と決めてるっ!
それだけは譲れへんっ!!
島井…
オホッ♪ええ目で俺を睨んでくれとるやないかいっ!それでこそ倒し甲斐があるっちゅうもんや!!
さぁて…ほんならジャイアントキリングと洒落こみますかぁ♪
俺は不敵な笑みを島井に返すと
「島井っ!楽しもうやっ!!
柔っ!見届け人、しっかりと頼むでっ!!」
そう叫んでから構えを取ったんや