三猿
さてと…あのアホが無事に決勝進出を決めた事やし、俺もチャッチャと奴に続くかのぅ♪
ほんでもって決勝はプロレスラー対決!しかも同期での対決や!
どっちが勝ってもプロレスラーの株は世間で爆上がりやで!!
ま、もっとも勝つんは俺やねんけどな♪
さぁて勇よ、首根っこなんてケチな事は言わん!
手首も足首も身体中の“首”を洗って待っとれや!!
あ……乳首は洗わんでええど…
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「さぁ〜!いよいよ準決勝も第2試合となりましたっ!!大作さん!勝負の世界において“たられば”がタブーな事は承知の上でお訊きします!仮に寺野が勝ち上がればプロレスラー同士の決勝という事になる訳ですが、その辺りはどうお考えでしょうかっ!?」
「そうですねぇ…確かに夢のある話ではありますが…その実現に立ち塞がるは、世界トップクラスのプロレスラーだったバイソン選手を屠った男ですからねぇ…ハッキリ言わせて貰えば、寺野選手はプロレスラーとしても格闘家としてもバイソンより遥かに格下です。その彼がバイソン選手に何もさせないまま勝った不破選手にどこまで喰らいつけるのか…?それに…どうしてもバイソン選手が迎えた不幸な結末がチラついてしまう…
あの不破という男には危険な香りが纏わりついてます。俺が今願うのは勝つにせよ負けるにせよ、寺野選手が無事にリングをおりる事…その1点です…」
「確かにその通りですね…私の素人目から見ても、あの不破という男の危険度はわかります…先程の両者の入場時、会場の反応を見ても不破がヒール扱いになっている事は明らかですし、観客の皆さんもあの男に何かを感じ取っているのかもしれませんね…」
「湿っぽいのはらしくないっすよ勝瀬津さん!!もう試合が始まりますし、いつもの名調子での実況お願いしますよ♪」
「そ、そうでした!私とした事が…
さあ〜っ!リング上に解き放たれた、勝ち上がりし2匹の獣っ!!互いに牙を剥き睨み合っているぅ〜〜っ!
先に玉座へ手をかけた不惑勇へと研ぎ澄ました爪を奮うのはどちらの獣となるのかぁ〜〜っ!?」
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おうおう…俺に対する歓声や拍手の多い事よ…
本来ホームであるはずのプロレス会場でもこんな歓声受けた事あらへん…えらい人気者になったもんやで♪
と…言いたいとこやけど…俺が人気ある訳や無くてコイツが嫌われ過ぎとるだけっちゅう話や。
ヒールレスラーの専売特許をかっさらいよってからに、俺の立場があらへんやんけ!
そんだけブーイング浴びとるん見たら、逆にジェラシー湧くわっ!!
てか…この毛先遊ばせた優男があのバイソンを…
まだ信じられへん…何にせよ楽な相手や無い事だけは確かや。
待っとれよ勇!コイツに勝ってお前の身体中の首を攻めたるからなっ!!
あ……くどい様やけど乳首は攻めへんよって…
お!レフリーが呼んどるな…ボディチェックとルール説明の時間てか?
よっしゃ!一発“メンチ切り”(ガンを飛ばす事)に行ったろかいっ!!
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へぇ…俺とバイソンの試合を観た後やのにメンチ切って来るたぁ大した度胸やん…
フフッいっちょからかったろかいな♪
「へぇ〜!アンタが次の生贄かいな?なんや申し訳あらへんなぁ〜…」
「あんっ!?」
「いやね…アンタもプロレスラーやろ?俺さっきもプロレスラーを殺っちゃったやん?この上でアンタまでイワしてもうて、決勝でもプロレスラーを潰してまう訳やからさぁ…プロレス業界やプロレスファンに申し訳あらへんなぁと思ってな♪」
「ケッ!よく言うで!!ちっとも申し訳あらへん様な顔しとらんやんけっ!!」
「あ…バレた♪?」
「始める前にコレだけは言うといたる…プロレスラーを舐めんな…」
「おお…怖っ!覚えときまひょ♪」
へぇ…ただのボンクラレスラーかと思うたら、なかなかどうしてこのガキ…大した気を吐くやないの!
ちったぁ愉しませて貰えそうやん♪
せやけどスマンなぁ…お前が“生贄”になる筋書きは変わらへんのや…
ワイの不破式が第2のブラジリアン柔術として、MMAの世界で躍進する為にその身を捧げたれやっ!!
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「いよいよボディチェックも終わり、両者がコーナーに下がりましたっ!!」
「不穏な空気というか…会場全体が緊張感に包まれてるのを感じますね…」
「さあっ!今ゴングが鳴ったぁ〜っ!いきなり突っ掛けるかと思われた寺野だが、意外にも静かな立ち上がり!」
「やはりバイソンの事があるので慎重になってるんでしょうね。カポエィラ戦の時と違い、ガードもしっかりあげています…舐めてない証拠ですね、いいですよ寺野選手…」
「おや?ここで不破が構えを解いて、無防備のままで寺野に歩み寄るっ!なんだっ!?どういうつもりだぁ〜っ!?」
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「て、てめぇ!なんの真似やっ!?さっき舐めんなって言うたばっかやろがっ!!」
「舐めてへんよ…舐めてへんけど…少々ガッカリしたかいなぁ…」
「……?」
「開始と同時にグワァ〜ッと攻めて来てくれるか、もしくはプロレスラーらしくガードもせんと俺の攻撃を受け切ってくれるか…と期待したんやけどなぁ…どっちの期待も裏切られたんでガッカリしたって訳よ」
「ハンッ!そんな挑発に乗るほどアホや無いで!それに出来るもんやったらヤッとるわいっ!コレはアンタの強さを理解しての事や…いわば敬意を払っとるんやから感謝せぇやっ!」
「せやろなぁ…プロレス以外の格闘技を知らんアンタやったら手も足も出せんわなぁ…そう思ってな!こうやってノーガードで近付いて、手も足も出せる様にしたったんよ♪」
「テ…テメェ…っざけんなよコラァッ!!」
「オホッ♪思ったよりパンチ速いやん!せやけど当たらへんなぁ〜♪」
「クッ…!」
「それはそうと…“三猿”って知っとるかぇ?」
「さ、三猿?なんやお前まで俺の事を猿呼ばわりかいっ!て事は…残りの2匹は……勇と…モリスエか?」
「……誰やねんそれ…?」
「え〜いっ!うっさいわさっきから!!ワレと喋る為にリングにおるんとちゃうんじゃボケッ!コレでも喰らえやっ!!」
「せやな…アンタの言う通りやな…ほんなら三猿ってのが何か教えたりまひょっ!!」
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「お〜っと!!互いが間合いのまま何やら会話を交わしていたが、シビレを切らしたかの様な寺野のローキック一閃!!」
「いや!不破選手、一気に中へ入ってローの威力を殺しました!マズいっ!」
「コ、コレはっ!?」
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「不破式殺法…術式“三猿”!!」
“ダッ!”
“ズドンッ!”
“パンッ!!”
「ガ…ハ…ッ…」




