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中指 立てたら  作者: 福島崇史
197/248

準決勝

控え室を出た所で、壁に凭れた男の姿が見えた。

セコンドの鈴本さんと新木さんが警戒したのが判る…

が、その顔を見た鈴本さんがその正体に気付き呟いた。


「き、君は…」


「すんまへんな…試合直前の無礼、許しておくんなまし…」


深々と頭を下げた男…それはかつての同門、ティラノやったんや。


「おい…勇!一言だけ言うとくぞ!こんなとこでコケんなよっ!言いたい事はそれだけや…邪魔したな…」


「待てやティラノ!」


「あん?」


「お前…人の事を心配しとる場合ちゃうやろが!お前の次の相手…不破は…アイツは…」


俺の言葉を遮る様に掌をこちらに向けたティラノ


「みなまで言うな!俺かてアホとちゃう…お前の言いたい事はわかっとる!」


「そうか…ならコレだけは言わしてくれ…」


「なんや?」


「今、お前は〝俺かてアホとちゃう〟って言うたけど、お前は立派なアホやぞ!しかも世界ランキングでも上位やぞ!そこは自覚しとけよっ!!」


「やかましいわっ!どうせならもちっとマシな一言を言うたれやっ!!」


そんな出来事を経て、俺は今リングの上に()る。

反対側の赤コーナーでは、不知火が腕組みしたまま静かにこちらを見つめとる…

睨むでも無く、どちらかと言えば優しさすら感じる目線や…

気になったんは、奴が再び道着を着用しとる事や。

不知火の道着は1回戦で破れた為、2回戦では上半身のみ裸で闘っとった…それが何故?

少し引っ掛かる…

鈴本さんも気になったんやろな…


「勇…気付いとるか?」


「はい…」


「じゃあ1回戦の事も覚えとるよな?」


「勿論っす…」


「ならそれでええ…警戒せぇよ…」


「うっす…」


そう…不知火の道着は破れやすい素材で出来とる。

ほんでその性質を利用して、掴んで来た相手に道着を破らせて自分は技をすり抜ける〝現代版 変わり身の術〟を使いよったんや。

せやから投げ技でも絞め技でも、道着を掴んで仕掛ける技は御法度や…


リング中央でレフリーが俺達を手招きする。

いよいよ始まる…コレに勝てばいよいよ決勝進出が決まるんや!

何度も聞かされたルールの確認事項が左耳から右耳へとすり抜けて行き、俺はレフリーに促されるまま右手を差し出した。

すると不知火はバカにした様に鼻で笑うと、それを握り返す事も無く赤コーナーへと戻って行きよったんや!ムキィ~ッ!!


「落ち着け…心は熱く、頭は冷静に…や」


イラッとしたままコーナーに戻った俺を、鈴本さんが静かな口調で(なだ)める。


「しかし勇よ!戻って来る時のお前の顔ったら丸っきりゴリラやったぞ♪思わず道具箱にバナナ無いか探したがな♪ガッハッハッハ!」


もう1人のセコンド新木さんが俺をからかうけど、アンタにゴリラ呼ばわりされるのはマジ心外っすわ…

なんせこの人…レントゲン写真を見た医者が驚く程、ゴリラに骨格が近かったんやから…

そんな事を考えとると、レフリーから〝始めるぞ〟と目配せされた。

黙って頷くと、対角線上の奴も黙って頷く。

そしてついにゴングが鳴った!


俺は様子を見る気なんかサラサラ無かった。

短期決戦を仕掛けるべく、コーナー際でまだ構えにも入ってない奴を目掛けて、一気に両足タックルを仕掛けたんや!


〝入った!〟


タイミングはバッチリ!

俺は取った事を確信した!!

が…俺の視界から奴の両足が突然消えた…


〝へ…?〟


なんと不知火の奴、俺のタックルを上へ逃げたんや!

掴んだロープで反動をつけ、一気にコーナーポストに跳び乗りよった!

そしてそのまま宙返りして俺の背後に降り立ったんや!!


〝ヤベェ…俺がコーナーに詰められて形勢逆転やんけ…!〟


そう思った時…

不知火の奴が、しかめっ面で脂汗を吹き出しながらリングに片膝をついたんや…




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