不破敏郎という男
待機しとった救急車で病院へ運ばれたバイソンやけど…
到着した時には既に死亡しており、治療もせんまま死亡確認がなされただけやった…
てか、ドクターがリング上で診た時には既に死んどったらしい。
この事で運営は、大会そのものを中止するかどうかで揉めに揉めた。
約30分も進行が中断された事で客席もザワついてたわ。
そりゃあんな場面を観た後での中断やもんな…
流石に不穏な空気を察するわ。
でも大作さんは続行を決断したんや。
確かに死亡事故は悲しい事に違いない…
でも選手は皆、大会参加前に誓約書を提出してて、その中の項目に
〝あらゆる怪我、もしくは死亡の可能性も承諾する〟って一文がある。
それを考えると、残酷な様やけど死亡事故すらも怪我と同等の扱いって事になり、怪我人が発生しても大会を中止しない以上は、死亡者が出ても中止をしないって結論に達したらしい。
で…何処で聞きつけたんか、こういう事に耳が早いマスコミの連中が、不破の控え室へと大挙して雪崩れ込んだんや…
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「格闘時報の島上と申します。先ずはバイソン選手が死亡したという事についてですが…今どういったお気持ちでしょうか?」
「お気持ちねぇ…ん~…特には無いかなぁ…」
「人1人が死んだのに…いや!あえて言うなら貴方が殺したのに、それについての感想は全く無いとでもっ!?」
「は?オタク…何を甘ったるい事言うてんのん。逆に俺が殺されてた可能性もあるんやで?いや、俺だけや無い…出とる選手は全員がその覚悟を背負ってるんよ。観るだけで何の覚悟も背負っとらん外野が、どうこうと口出しする事ちゃうと思うけどな…」
「………」
「すいません、週刊テンカウントの坂崎と申しますが、別の質問よろしいですか?」
「どうぞ」
「プロフィールを拝見すると〝古武術〟としか記載されてませんが、所属流派について詳しくお聞かせ頂けるとありがたいのですが…」
「あぁ…それね。正式には〝不破式殺法〟やねんけど、今の時代にダサ過ぎるネーミングやろ?だから古武術としてエントリーしたんよ。ま、優勝したら流派名は明かすつもりやったけどね。なんせ目的があるさかい♪」
「目的…?と、言いますと?」
「戦国時代に生まれた組み打ち術のト部流活殺術ってのがあるんやけど、その名の通りに当時は活法と殺法の両方があったんや。んでもって…ある時、不破雪之丞って天才が現れたんやとさ。あ、この人が俺のご先祖さんね♪しかも殺法の技術がズバ抜けとったらしいわ。当時は乱世の時代や…当然ながら活法よりも殺法が持て囃される…そんな流れで、活殺術から〝殺〟の部分だけを特化させた分派が生まれたんよ。それが不破式殺法や。ここまではOK?」
「はい…」
「で、そんな技術体系やから当然 門外不出。極秘裏に継承されて来た訳。でも考えてみぃな?今の平和ボケした世の中で殺法が必要か?しかも極秘裏て…格闘マンガやあるまいし…なぁ?」
「は、はぁ…」
「せやから俺が不破式で表舞台に出たろぅと思ってな。ずっと日陰の道を歩いとった〝この子〟に陽の目を見せたろうっちゅう訳よ♪」
「つまり?」
「この大会で優勝すれば自ずと注目されるやろ?で、正式に不破式の道場を開いたろと思ってな。謎のベールに包まれた流派に人は惹かれるもんや!しかもそれが本当に強いってんなら絶対に人は集まる!これで俺も大金持ちやがなぁ~♪」
「そ、それが貴方の目的…だと?」
「せや♪何か問題でも?」
「い、いえ…」
「この先も試合あるさかい、そろそろブンヤさんにはご退場を願いたいんやけども…最後に1つだけ言うとくわ。今も言うた通り、不破式は〝殺法〟や。この後に俺と当たる連中にも、殺し技を躊躇無く使わせて貰う…死ぬ覚悟が無い奴ぁ今の内に辞退せえって伝えといてぇな。ほんじゃあね♪」
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これが知り合いの記者さんから聞いた内容や。
こいつがティラノの次の相手…
ティラノ…こいつぁガチでヤバい奴やぞ!
マジで褌締め直さんと、お前まで喰われるぞっ!!
そんな不安を抱く中、俺の試合の呼び出しが掛かったんや…
相手は不知火流忍術の不知火鉄心!
ティラノに対する不安は一先ず置いといて、先ずは俺が褌を締め直さんとなっ!!




