巨木
実況のオッサン…悪ふざけが目にあまるんで、この試合に関しては俺が実況させて貰うやで。
開始と同時に余裕の表情で手招きするバイソン。
それに対して不破は困った様な表情で頭を掻いとる。
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「カマ~ン モンキー♪」
「ン~…アンタさぁ、せっかくヤル気満々でグローブ着けて来たんやろ?ならアンタから来れば?言ってる事解る?アンダスタ~ン?って…やっぱ解んねぇか。じゃあコレなら解るかい?
come on a blockhead !!(来いよ のろま野郎!!)」
「ヌ~…ッ!ファッキン ジャップ!!」
「そうそう!そうこなくっちゃな♪」
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二言三言の会話を交わした直後、バイソンが真っ赤な顔で右の拳を振り上げよった!
それはもう、テレフォンパンチなんて呼んだら電話が怒るんちゃうか?って程にスローモーなパンチやった…
少しでも武の心得がある人間やったら絶対に喰らう訳があらへん。
そう思ってた時期が私にもありました…ええ…
せやっ!驚く事にそれが不破の顔面を直撃しよったんや!!
その瞬間、不破の首が〝もげた〟かと思う程に捻れた。
そりゃそうや!いくら遅いとは言え、あのパワーやもの…威力が無い訳あらへんっ!!
ところが不破の奴、鑪を踏んだだけでダウンは免れよった!
とはいえロープ際まで下がってしもた!
当然の様に追撃するバイソン!!
さっきの大振りとは違い、コンパクトにまとめた打撃を連打する!ところが…や…
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「シンク ユー!ボーイ!!(沈めてやるぜ!坊や!!)」
「へっ!そうはイカのキンタマやでぇ♪」
「ホワット!?ンガァ~…!No~ッ!!」
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不破の奴…バイソンが放つ連打の拳に、肘を的確に合わせよった!
なんちゅう目の良さをしとんねん…
いくら遅い打撃とは言うても、連打に肘を合わせるなんてそう簡単に出来るもんや無いぞ…
当然ながら痛みでバイソンの動きが止まった。
そこに不破が飛び込んでの打撃!
しかも拳や無いっ!熊手みたいに曲げた指の関節で、バイソンの〝人中〟を打ち抜きよった!!
それでもバイソンは倒れへんっ!
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「へぇ…流石にタフやん♪さっき貰ったパンチのパワーもなかなかやったでぇ…〝落葉〟を使ても威力を殺し切れんかったからなぁ。
しかし…拳を潰されても倒れへん…人中を打たれても倒れへん…何食やぁそんな身体になんだぁ?」
「ガッデェ~ムッ!!」
「お?いいねぇ!いらっしゃい♪」
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打撃じゃ分が悪いと悟ったバイソン、叫びながら今度は両手を広げて掴みにかかった!
流れる様な動きでそれを潜って、そのまま横に逃げる不破。
バイソンも更に追い掛ける。
その時や…
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「うおっほ♪チャンス到来!も~らいっ♪」
「ホワットッ!?」
「不破式殺法…鍬落とし」
「ガッ…!!………」
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不破は掴みに来た腕を捕らえ、追って来るバイソンの勢いを利用して背負い投げを放った!
しかも…自ら膝をついての背負い投げ…
これで投げられると必然的に顔面から地面に落ちる…メチャクチャ危険な投げ方や!
顔だけで倒立したみたいな形になったバイソン、今ゆっくりとリングに倒れこんだ…
その様は、木こりの斧で切り倒された巨木みたいやった…
そんで…倒れたバイソンの首は、ありえん角度で背中側に埋まっとった…
リングサイドからは悲鳴があがり、当然ながらレフリーも即座に試合を止める。
ドクターが呼ばれるより先に、鬼の様な表情でリングに飛び込んで来た。
バイソンの首筋を触り…
眼球の様子を見て…
苦虫を噛んだ様な表情を浮かべた。
スタッフが5人がかりでバイソンを担架にのせて運び出す…
そして待機していた救急車でそのまま病院へ直行した。
そしてこれが…
バイソンを…
生きたバイソンを見た最後の場面になってしもたんや……




