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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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〝次〟の約束

ティラノが迷走しとった頃のキャラ

〝ソルジャー寺野〟

その出で立ちで現れたのには呆れたし、どういう闘いをするんか嫌な予感しかせぇへん訳やけども…

流石はティラノやわ…

期待を裏切らへん奴やで…

あのアホ!まんまと嫌な予感を的中させてくれよった!!


ゴングが鳴ると同時に奇襲のドロップキックを仕掛け、ヒョイってかわされた挙げ句にソッコーでマウントポジション取られてやんのっ!

バカなのっ!?

ねぇバカなのっ!?

舘ほどの手練れにそんなんが通用する訳あらへんやろがっ!!

幸いこの大会はマウントパンチが禁止やから良かったもんの、MMAの試合やったら敗けとったぞ!!


舘が肘でティラノの頬骨をグリグリしながら隙を窺う…

対するティラノもエビの要領で跳ねたり、腕で舘の足を押してマウントから抜け出すチャンスを窺う…

地味ながらもヒリついた展開が続く。

しかし地味な展開って奴は観客にとって退屈でしかない…暫くしたら案の定ブーイングが起こり始めたんや。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「へっ!へへへ…ええんか?武道家さんよ…お客さんがイラ立ってるみたいやでぇ?」


「ふん…戯れ言を…」


「と、言いながらもアンタがイラついてるのが俺にも伝わって来とるけどな?いや…動揺か?まぁアンタら武道家さんはブーイングなんて受ける事あらへんやろからな…無理あらへんわな♪」


「この悪態は私だけに向けられた物では無い…いわば貴殿も連帯責任にて同罪であろうよ?」


「へへ…へへへへ…ハッハハハ」


「気でも触れたか…?」


「同罪?残念やったな!俺はヒールやぞ?ヒールにとっちゃブーイングなんてのは喝采みたいなもんやっ!!」


「ぬ…ぬおっ!?」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


ティラノの奴が両拳の親指を鋭角に曲げて、舘の脇腹…肋骨の一番下辺りを挟む様に押し当てた!

痛みで仰け反った舘の上体を、下から振り上げた両足で絡め取って後ろに倒すっ!

あれは〝格闘技界の賢者〟こと、高阪剛の得意技〝TKシザーズ〟やんけっ!!


しかもマウントから抜け出したティラノが先に立ち上がった!

急いで後を追う舘に対し、そうはさせへんとばかりに放った低空ドロップキックが膝を直撃!!

立ち上がるタイミングを削がれた舘が再びリングに膝をつく!

又も先に起き上がったティラノ!何をするかと思えば、よりによってこんな勝機に自らロープへ走りよった!

更には戻り際に大きく腕を振りかぶる!

明らかにラリアット狙いなんがバレバレやんけ!!

バカでしょ?

ねぇアンタ、バカなんでしょ!?



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「悪ぃがアンタの見せ場はさっきのマウントで終わりやっ!コイツで決めさせて貰うでぇっ!!」


〝フン…ドロップキックにラリアット…私も舐められたものよ…そんな物を立て続けに喰ら…んなっ!?〟


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


鳥肌もんやった…

あのアホ…

振りかぶった腕の軌道を、横振りから縦振りに変化させよったんや…

つまりは縦に振り下ろす〝袈裟斬り〟式のラリアット…

そう…あれは…

あの技は…

俺が初めて編み出したオリジナル技〝村雨〟や。

アイツ…味な真似してくれるやんけ…

縦振りやと普通のラリアットと違い、吹き飛んで衝撃を逃がす事が出来へん。

まして膝をついた状態の舘なら尚更や。

意表をつかれた舘が前のめりに倒れ込む…

ところがレフリーがダウンを宣告する気配を見せると、それよりも先にティラノが舘の頭を自分の股に挟み込みよったんや!


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「お~っと!ダウンなんかさせへんでぇ♪このままやと〝あのアホ〟の技で勝った事になってまうさかいなぁっ!」


「ぐ…ぬ、ぬおぉぉ…」


「お?まだ意識はあるみたいやのぅ♪ほんなら最後の意識でしかと見さらせぇ!コレが俺のフィニッシュブローじゃいっ!ふんぬっ!!」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


ティラノがそのまま舘を逆さに抱え上げた!

ツームストンパイルドライバーか?

いや…あのアホ…

片腕を舘の股に通す形にロックし直しよった!

あれは…ゴッチ式パイルドライバー!!

ただ落とすだけや無く、上から押し付ける力が加わる事で威力が増す必殺の技!!


まっ逆さまに落とされた舘の首が歪に曲がり、解放された肉体は力無くリング上に〝大の字〟を描いた…

勿論レフリーは直ぐさま試合を止める。

9分58秒…ティラノがブロック代表の座を射止めよった。


この試合でアイツが使ったのは…

ドロップキック、変形ラリアット、パイルドライバーの3つだけ…

シンプルでクラシックな技ばかり…

それだけにプロレスの…いや!プロレスラーの怖さや凄さが際立つ勝ち方やったと思う!

ほんま凄い奴っちゃで…

ほんま凄いアホやけど♪


ん?担架に乗せられた舘に、ティラノが正座の状態で何やら話し掛けとる…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「悪ぃな舘さん…俺はプロレスラーにあるまじき行為をしてしもた…

相手の見せ場をも作り、相手の技を受けきった上で勝つ…それがプロレスラーやのに、俺はそれが出来んかった…

それは舘さん…アンタが怖かったからや。

臆病な俺を許してくれ…な?」


「これはまた異な事を…それに舐めて貰っては困る…私の攻撃を受け切るなどと…

私の拳が当たれば立ってられる者などおらぬよ。〝次〟にやる時はそれを証明して見せよう」


「〝次〟か…そうやな!楽しみに待ってるで♪」


「うむ…貴殿の武運を祈っておる」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


運び出される舘を正座のまま頭を下げて見送るティラノ。

そして舘の姿が見えなくなると、徐に立ち上がってモニターに繋がるカメラに向かって一瞥くれよった。

その時、俺には解った…

奴が俺に向けて送った目線だって事も、奴が何を思っているのかも。


大丈夫やティラノ!

俺も同じ事を思っとる!!

決勝で当たれば、どちらが勝ってもプロレスラーの優勝や!

その場で俺の〝格闘プロレス〟と、お前の〝王道プロレス〟どちらが上かハッキリさせよやないか!!


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