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中指 立てたら  作者: 福島崇史
186/248

勘の鈍い人

〝ポウッ!!〟



「があっ!」

俺は右目の違和感に思わず叫んだ。


〝な、何や?視界が白い(もや)に包まれたみたいや…

その上、涙が止まらへん…〟


俺が目に気を取られとる間に、陳の奴が抑え込みから逃れてしもうた。

それでも目を抑えたまま立ち上がらへん俺に、レフリーが無情にもダウンを宣告した…

せやけど、打撃を受けた訳でも無いのに目を抑えとる俺に、異変を感じて声を掛けて来た人物がおったんや。


「レフリー!ちょい待ちっ!!」


リングサイドで待機しとるドクターやった。


「へっ!?」


すっとんきょうな声で応えたレフリーにドクターが言う…


「あんさん、何処に目を付けとんのや?今の攻防で選手が目にダメージを受ける様なシーンがあったか?そこに疑問を感じへんのやったら、あんさん…レフリー失格やで」


「い、いや…そう言われましても…」


辛辣な言葉にレフリーがタジタジや。


「医者の立場で言わせて貰うとこれは異常な光景や。せやからドクターチェックをさせて貰う!あんさんもワシも選手を守るのが仕事って点は同じや。文句は言わせへん…ええな?」


有無も言わさへん雰囲気でドクターが凄む…


「わ、わかりました…なんか…すんません…」


そう言うとレフリーは、タイムを宣言し試合時間の経過を止めた。

すかさずリング内に入って来たドクター…


「ほれセコンド!何をボ~ッとしとるか!早ぅ椅子を出さんねっ!!」


「あ!は、はいっ!!」


あの鈴本さんや新木さんですら、すっかり老ドクターに呑まれてしもとるわ…すげぇな、この爺さん…

で、椅子に座った俺の目をライトで照らしながらドクターが問う。


「フム…やっぱり眼球に傷やらの異常はあらへんな…観とった限りじゃ打撃も貰っとらんし、指を入れられた訳でも無いわなぁ…何か心当たりはあらへんか?」


せやねん。何も貰ってへんのに突然視界が奪われたんや…俺自身も何が何やら訳ワカメ…って答えようと思った時、1つ思い出した事があった…


「そう言えば…」


「そう言えば?」


「視界が無くなる直前に、なんか破裂音みたいなんが聞こえましたわ…〝パンッ〟てよりかは〝ポウッ〟って感じの…」


「ほぅ…破裂音ねぇ…なるほどなるほど、そりゃあ眼球に異常は見つからんわなぁ…」


ここで新木さんが、ロープから巨体をズイッと乗り出してドクターに訊く…


「な、なんか判ったんすか!?」


それに視線も向けずにドクターが答えた。


「あぁ…こりゃあ空気やなぁ」


「く、空気っ!?」


俺、鈴本さん、新木さん、レフリー…その場に居た全員の声が綺麗にハモッた。


「まぁ…古武術なんかやと、口の中で固めた痰を飛ばして目潰しに使うなんて話は聞いた事があるが…いや、まさか空気たぁ恐れ入ったね…」


「ど、どゆ事っすか?」


尋ねたレフリーを一瞥しながら答えるドクター…


「こんだけ言うて解らんのか!勘の鈍い奴っちゃのう!せやから空気や空気!それ以上でもそれ以下でもあらへん!!」


「いや…あの…何か…すんません…」


レフリーの謝罪、早めの再放送…


ここで誰かさんと違い、勘の良い鈴本さんが補足の言葉を入れてくれた。


「つまり…口の中で圧縮した空気を吐き出して目を狙った…と?」


「おぅおぅ、お前さんはよう解っとるの♪ま、そういう事っちゃ。試しにお前さんらもやってみればええ…圧縮させた空気を吐き出してみぃな?」


その場の各々がそれを試すと…


〝ポウッ!〟

〝ポウッ!〟

〝ポウッ!〟

〝パウッ!〟


1人だけ音の外れたレフリーをドクターが又もや睨む。


「ったく!お前さんは何をやらしても勘が鈍いなっ!!」


「いや…なんか…すいま…」


「いちいち謝るな!イライラするけんっ!!」


食い気味に謝罪を遮るドクター…

レフリーの謝罪、2度目の再放送は打ち切り…ハハハ♪


「で、レフリーよ…これは反則にあたるんかっちゅうのが問題やのぅ。道具を使(つこ)うた訳やあらへんし‥かと言って純粋な格闘技の技でも無い‥その辺はどない考えとるんや?」


「えっと…あの…直ぐに本部席と話し合います!」


「おぅ!そないしとくれや。んじゃまぁワシの仕事はここまでや…視界は心配せんでもええ、時間が経てば回復しよるさかい。ほな、あんじょう気張りぃや」


「あの…ありがとうございました!」


「ん?いや、かまへんかまへん。ドクターっちゅう立場上こんなん言うたらアカンのやろけど…ワシはアンタのファンやさかいな、応援しとるけぇ頑張ってくれや♪」


そう言うとドクターは、背中越しに掌をヒラヒラさせながらリングを下りて行った。

なんや…格好ええ爺さんやで♪


審議に入ってから約5分が経つ。

長めの審議に会場もザワついとるわ…

せやけどお陰でボヤけとった視界も、ドクターの言う通りすっかり回復したで!

そして6分が過ぎた頃、ようやくレフリーがリングに戻って来た。


「只今の攻防について御説明申し上げます!

陳選手が圧縮した空気を吐き出し、不惑選手の視界を奪うという事態が発生しました!ルールに息で相手を攻撃してはならないという項目は御座いませんが…審議の結果、これをスポーツマンシップから外れた行為と見なし!陳選手に警告1とロストポイント1を与え!先ほど宣告した不惑選手へのダウンは無効として試合を続行致しますっ!!」


〝すわっ試合中止か!?〟

そんな空気に包まれていた会場が、歓声で一気に爆ぜた!


「不惑…もう行けるかっ!?」


訊いて来たレフリーに俺は満面の笑みでこう答えたったんや…


「ほんま勘の鈍い人やなぁ…それは愚問やでっ!!」

…と。





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