軽身功
「アンタがそう来るなら、ワタシにも考えがアルね…」
そう言うと陳は、いきなり側転で間合いに入って来た。考えもせんかった動きに思わずガードを固めてしもた俺…
〝しもた!後手に回ったらアカン!!〟
思い直して直ぐにガードを解いたんやけど…
「何処を見てるアルか?こっちヨこっち♪」
〝コ、コイツ…いつの間に後ろに!?〟
咄嗟にバックブローを放ったんやけど、手応えは無く空を切っただけ…
「フフフ…遅い遅い!そんなんじゃ虫も殺せないネ♪」
陳の奴、俺のバックブローをバク転でかわして間合いを取りよったんや。
「コンニャロ~ッ!ちょこまかと動きくさって!!テメェは猿かっ!あぁっ!?」
「猿?いやいや!コレは猿拳じゃナイね♪アンタみたいな筋肉バカは知らないだろうけど、コレは軽身功って言うアル」
〝軽身功…知っとるぞ!身軽に飛んだり跳ねたりする、今風に言えばパルクールみたいなもんやったな…〟
俺はもちろん知っとったけど、敢えて知らんフリをしといた。
「軽身功?」
「説明するのも面倒ネ。だから…アンタの身体に直接教えてあげるヨ!!」
そう言うと奴は、左右に素早くステップしながら間合いを詰めて来た!
俺は迎撃すべく薙ぎ払う様な左ミドルを放つ!!
が……驚く事に陳の野郎、俺の蹴り足を踏み台にしてトップロープに飛び乗ったんや!
そしてそのままロープを走った!んでもって気付いた時には、俺の背後にあるニュートラルコーナーの上におったんや。
「アンタらみたいに重いプロレスラー、こんな真似出来ないデショ!?コレで終わりね!キエ~ッ!!」
奴は奇声を発しながら、俺の振り向くタイミングに合わせてコーナー最上段から飛び蹴りを放って来よった!
だから俺は…
「何が〝キエ~ッ!!〟じゃボケッ!」
そう言いながら首を僅かに横へずらし、眼前に迫った奴の足裏をすんでの所でかわした。
その事で奴の蹴り足は俺の右肩上を通過。
それをソッコーで抱え込み…
「つ~かま~えた♪」
そのままパワーボムの要領でリングに叩きつけてやったんや!!
「フンギィッ…!!」
踏まれた蛙みたいな声で呻く陳。
せやけど俺もそこで動きを止めたりせぇへん!
そのままサイドに回って横四方固めに入った!!
すると陳は初めて戸惑った顔を見せ…
「な、なんで対応出来た?プロレスには無い動きのはず…そ、それなのに…!」
だから俺は奴の耳元でこない囁いてやったんや♪
「おたく…ルチャ・リブレってご存知?」
身軽な素早い動きで相手を翻弄する…
それはまさにプロレスで言うところのルチャや。
ほんでもって俺はモリスエを相手にルチャを体験済み…陳なんかより遥かに重いモリスエの空中殺法を…な!
「勉強不足やったなぁカンフーマスター♪プロレスにも軽身功はあるんやでぇ…俺の同期にソレを使う奴がおってな、そのお陰でアンタの動きにも対応出来たんや!今ソイツにキスしてやりたい気分やわ♪」
「くっ!」
俺に抑え込まれた陳が必死で足をロープに伸ばす!
せやけど陳よ…お前1つ大事な事を忘れてへんか?
俺がそう思った時、陳の足先がロープに触れた。
必死でエスケープした事をレフリーにアピールする陳。
そしてレフリーが無慈悲な言葉を奴に返す。
「NO!足でのエスケープは無効だ陳!!」
そう…この大会、手で掴んだ場合のみエスケープが認められる。
そんな大事な事を忘れるたぁドジっ子やのぅ…えぇ?陳よ!
この体重差や!寝技に入った以上は逃がさへんでっ!!
俺はそこからマウントポジションへの移行を試みた。もちろん狙うはそっからの腕十字や!
せやけど奴が足を立てて上手くステップオーバー出来へん…
「くっ!悪あがきを…イライラさせてくれるやんけっ!」
奴の足を両手で抑えつけ、そこに体重をかけながら跳ねる勢いでステップオーバー!
〝やったでっ♪〟
そう思った瞬間、右目の視界が奪われたんや…




