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中指 立てたら  作者: 福島崇史
180/248

縦か横か?

「ロシアの強き人よ…日本語は通じぬであろうが伝えておこう。(それがし)はこれから右の拳を貴殿に叩き込む。某の最大の武器…見事受け切ってみせいっ!」


〝?……フフン ソウイウ コトカ…ナニヲ イッテイルカハ ワカラナイガ ナニガ イイタイカハ ワカッタ……イイダロウ ウケテタトウ! ニホン ノ サムライヨ!!〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「おっと?舘が右の拳を差し出しながら、アレクサンダーに何やら話し掛けている…大作さん…コレは?」


「恐らくですが…この拳を打ち込むぞ!と…そういうアピールでしょう。アレクサンダー選手も頷いているところを見ると、どうやらその意味を理解したみたいっすね。ある意味、舘選手からの挑戦状をアレクサンダー選手が受け取った…そんな構図と言えますね」


「なるほど~っ!それは熱いっ!!格闘マンガ等の創作物でよく見る光景だあぁ~っ!!」


「…………(うん…まぁ…遠からず…)」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「参るっ!!」


「ПΡИЙТИ!(来い!)」


「せやあぁっ!!」


〝フフフ…アマイナ…キミノ タタカイカタ ハ リサーチ ズミダヨ ダカラ コウスレバ♪〟


「んぬっ!?」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「行ったぁぁ~~っ!舘、何のフェイントも無く、真っ直ぐ過ぎる程に愚直な右ぃ~っ!」


「いきなりの縦拳…そんな物が通用しない事は解っているはず…妙やなぁ…」


「お~~っと!珍しく大作さんの予想通りアレクサンダーがブロック!しかも縦拳を通さない様に、腕を垂直では無く水平に並べてのブロックだぁ~~っ!」


「こ、言葉のトゲが…ま、まぁそれは置いといて……アレクサンダー選手も舘選手の試合は観てたでしょうからね、普通のブロックでは貫かれる事はインプット済みでしょう。お?まだ流れは止まってませんよ!」


「アレクサンダー!ブロックすると同時にカニバサミで飛びついたぁ~っ!」


「飛びつき膝十字っ!!しかし場所が悪い…コレは舘選手、無理せず直ぐにエスケープするでしょう」


「な、なぁんと!?又も大作さんの予想が的中!!舘が迷わず目の前のロープを掴んだぁ~っ!」


「いや…あの…だから言葉のトゲがですね…」


「これで舘は先程のダウンに続き2つ目のロストポイント!」


〝き、聞いちゃいねぇ……〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


〝フッ…やはり通じぬかよ……だが(それがし)には(コレ)しか無いのだ。貴殿に勝つには(コレ)を当てるしか!〟


〝ムダ ニ オワッタナ…サァ ツギハ ナニデ クル?ニホン ノ サムライヨ…〟


「せりゃあぁぁ~~っ!!」


「ナッ!?」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「な、なぁんと舘!先程と同じく、何の工夫も無いまま右の縦拳を打ち込むぅ~~っ!!やはりそんな物が通用するはずも無く、今度もアレクサンダーが難なくブロック~ッ!からのタックルでテイクダウン!!舘が直ぐ様ガードポジションに入ったぁ~っ!」


「妙やな…」


「はい?」


「いや…舘選手ほどの選手なら、あんな攻めが通じない事は解っているはず…何か狙いがあっての事なのかなぁ…と…」


「確かに妙ですね…おっと!?アレクサンダーが舘のガードポジションを簡単にパスガード!難なくマウントポジションを取ったぁ~!ルールでパウンドが認められていないとは言え、やはりマウントポジションが有利なのは明白!アレクサンダー直ぐ様腕を捕りに行ったぁ~っ!!」


「しかし今度も直ぐにエスケープ…舘選手、無理はしませんね…」


「これで舘は3つ目のロストポイント!皆さんご存知の通り、5つの持ち点が無くなった時点でTKO敗けとなるこのルール!舘がどんどん追い詰められて行く!!対するアレクサンダーは未だポイントを失っておりませんっ!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


大作さんの言う通り、舘ほどの選手やったらあんな攻めが通じない事は理解しとるはず…

俺もそこに違和感を覚えた。

流石に無理って思ったんか、舘が少し攻め手を変えたんや。

左のジャブ2発から右のローキックに繋ぎ、左前蹴りを挟んでから渾身の右縦拳!のつもりやったんやろな…

ところが…や…

ジャブは綺麗に捌かれ…

ローは腰を引いてスカされ…

前蹴りはサイドにかわされただけや無く、その蹴り足までも掴まれてしもぅた…

軸足を刈られてそのままアキレス腱固め。

舘は渾身の右縦拳を出す前に反撃されてエスケープする始末…

これで4つ目のロストポイント。

もう後が無い。

エスケープもしくはダウンした時点で試合終了や…どうする?舘!?


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「さあっ!後が無くなった舘!背水の陣でどう動くのかっ!?」


「先程までの単調な攻め…そこに狙いがあったのかどうか…ここで答えが出ますね」


「そうですね!大作さんの予想が最後まで当たってしまうのか!?そんな事になれば世も末!まさに世紀末ですが、その点にも注目して参りましょうっ!!」


〝世紀末て……とっくに過ぎてますけど?世紀末!〟


「お~~っと!?舘、またもや右の拳を大きく引いて力を溜めている~っ!まさか又あの攻めを繰り返すのかぁ~っ!?」


「もうポイントをロスト出来ない…これが外れれば敗ける事は承知しているはず…間違い無く何か狙ってますよ舘選手は」


「行ったぁぁぁ~~っっ!!此度もいきなりの実直愚直な右の縦拳~~っ!!」


「いや…」


「え?」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


〝これが(それがし)の出す最後の一撃となろう…当たれば(それがし)の勝ち…当たらなければ貴殿の勝ちだ。では…参るっ!!〟


〝コリナイ オトコダ…ニホン ノ サムライ ガ ソノテイド トハ……スコシ ガッカリ シタゾ…ダガ ココマデダ コノ コンタクト デ スベテ オワル… コイッ!〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


不思議な事にその瞬間、モニター越しやのに2人の動きがスローモーションに見えたんや。


己の拳を疑う事無く…

己の拳に全てを乗せ…

まさに乾坤一擲の一撃を繰り出した舘。


対するアレクサンダーは、完全に見切っているとばかりに自信満々の表情。

そして顔の前で両腕を水平に並べて、縦拳対策のブロックに入る。

ところが…


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「あ、あ、あ、当たったぁぁぁ~~っ!!

この試合初めて舘の拳が当たりましたぁぁ~~っ!アレクサンダーが前のめりにゆっくり沈むっ!!そしてレフリーがダウンを宣告した!追い込まれた舘が、ついにポイントを奪ったぁ~!

ダウンカウントが進むが、アレクサンダーはピクリとも動かない!いや…その様子を見たレフリー、カウントを止めて腕を頭上で激しく交差!!ゴングがけたたましく打ち鳴らされ、アレクサンダー陣営がリングに雪崩れ込むっ!」


「なるほど…これが狙いやったんか…」


「と、言いますと?」


「最後に放った舘の攻撃…当然アレクサンダーは縦拳が来ると読んで、対策の水平ブロックに構えた訳ですが…実は縦拳では無く、通常の正拳だったんです!」


「え~っと……つまり?」


「垂直ブロックだと縦拳がブロックをすり抜けてしまう、だからアレクサンダーは水平ブロックで対策した訳ですよね?ここまではOK?」


「はい…」


「舘はそこを逆手に取って、最後の一撃は拳が横向きのままの正拳突きを放ったって訳です。これなら水平ブロックの隙間を簡単にすり抜ける。つまりそれまでの単調な攻めは、アレクサンダーに縦拳を警戒させる為…最後まで水平ブロックをさせる為の布石だったって事ですね」


「な、なるほど~っ!!そこまで狙っていたとは舘、なかなかの策士ですね!そして大作さん…おめでとうございます!」


「えっと…はい?」


「いや!今大会で初めて予想が全部的中したじゃないですか!だからお祝いをと♪」


「あ、あ、ありがとう…ございます…」

(このオッサン、大会終わったら1度ゆっくり話す必要があるな…)


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


結果だけ見れば舘の作戦勝ちや…

でもギャンブルに勝っただけの危うい薄氷の勝利…地力はアレクサンダーの方が上回ってた。

それでも勝者は舘…強い方が必ず勝つとは限らへん、格闘技の怖さを再認識させられた試合やった。

結局リング上でアレクサンダーの意識は戻らず、担架での退場とそのまま病院への直行を余儀なくされた。


リング上で四方に深々と頭を下げてからリングを下りた舘…この男がティラノの次の対戦相手や。

相性は最悪と言うてええやろな…

え?何でかって?

だって舘の試合運びを見る限り、クレバーなイメージやん?

それに対してティラノは、世界ランキングに入るレベルの単細胞馬鹿ゴリラやからのぅ…

かつての仲間として心配しちゃうなぁワイ♪


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