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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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総合格闘家とは?

「柔っ!!」

思わず叫んだ俺は、柔の元へと駆け出したくなる衝動を必死に抑えた。


「な、なんや…?な、何があったんや?」

一瞬でも視線を外してしもた事を悔やみながら、説明を求める様に島井を見る。

そんな俺に…


「アホゥ!狼狽えんなやっ!ワレも親友やったら信じて見守ったらんかいっ!!」

島井は檄をくれた。


「わあっとる…わあっとるんやけど…よ」


それでも落ち着かない俺を見て、島井が長い鼻息を吐き出す。

「しゃあない奴っちゃのう…心配すんな。アイツがそない直ぐにヤラれるタマかいやっ!」


「せやけど…」


「それに今の攻防で、柔も金木が何んの格闘技を使うんか判ったやろから…な」


「え?」


「今、何があったんか…それが知りたいんやったな?」


「ああ…」


「飛び蹴りからそのまま、空中で飛び後ろ回し蹴りに移行しよった…中国武術で言うところの旋風脚に近い動きやった」


「で、でもよ、柔は腹を抱えとるぞ?なんでや?」


「その二段蹴りはしっかりガードした…でもそれで気が緩んだんやろな、着地と同時に金木が放ったボディへの後ろ蹴りをモロに喰らいよった」


「じゃ、じゃあやっぱ金木は空手使い…って事なんか?」


「いや…やっぱあれは空手や無い。中国武術でも無い。あれは…」


「あれは?」

俺は生唾を飲み込んだ。


「あれはテコンドーや…せやろ山田?」

島井が山田へと視線を移すと…


「かぁ~…もう見抜いたか!やるのぅ島井。流石は俺の兄弟分やで♪」


山田が笑顔を向けながらそれに答えた。

てか…君達はいつの間に兄弟の契りを交わしたのかな?

そんな俺の疑問は置いてけぼりで、山田が更に続ける。


金木(かねき) 泰男(やすお)…これは帰化した日本語名でな。アイツの本名は(キム) 泰男(テナム)…いわゆる在日と呼ばれてた男や」


「やっぱりのぅ…名前を聞いた時からそんな気はしとったが、奴の動きを見てワシも確信したわ」


予期せず爆誕したゴリラブラザーズの会話に、人間である俺が口を挟むのは申し訳無く思ったけども…

恐る恐る言ってみる…


「そ、そうなん?俺は全くわからんかったんやけど…」


「それはワレがアホやからやろ」

「それはお前がアホやからやろ」


返ってきたのはゴリラ2匹から息の合ったサラウンド…

なんやろか、この凄え敗北感は?


「ぐぬっ…」

歯を喰い縛った俺に島井が言う。


「ほら…まだ終わった訳ちゃうど。こっからは目を離さずちゃんと見とけ…ワレの親友が反撃に移るのを…よ」


その言葉で我に返った俺は、言われた通りに2人へと視線を戻した。

すると…踞ったままの柔が、金木と何やら会話を交わしていた。



「へへへ…えらい優しいやないか…えぇ金木よ?ダウン奪っときながら追撃して来ぇへんとは…よ」


「フフン♪これはサービスや。

でもお前にとちゃうぞ。本来なら不惑と林田の勝負で終わってたはずの団体戦、それを大将戦まで()らせてくれた不惑の顔を立てて…って意味や。あまりに一方的で終わらせたら申し訳無いやろが?」


「なるほどねぇ…」

ようやく柔が立ち上がり、膝に着いた汚れをパンパンと払い落とした。


「金木…」


「ん?」


「俺は総合格闘家やけど、俺なりの総合格闘家像ってのがあってよ…少し聞いてくれるか?」


「…ま、ええやろ」


「へっ!やっぱ優しい奴っちゃな♪時間が経てば俺は尚更回復するっちゅうのによ」


「なぁに気にすんな…どう転ぼうが俺が勝つんは変わらへんからよ。で?」


「あぁ…総合格闘家…投げ技・打撃技・関節技、それら全てを使えて、あらゆる状況に対応出来る。これが一般的な総合格闘家のイメージやろ?」


「まぁ…そうやのぅ。佐山 聡や前田 日明が道を開いて、ブラジリアン柔術の登場で完成された…それが今の総合格闘技。もっとも初期よりも寝技の優位性・重要性が高くなっとるがの」


「へぇ…やっぱ格闘技の知識はそれなりに持っとるんやな。でな、俺なりの総合格闘家像って話やけども…いや、違うな…俺が目指してる総合格闘家像って方が正しいか…

まぁとにかく、俺の中の総合格闘家ってのは、ボクシングの試合に出ても、柔道の試合に出ても、レスリングの試合に出ても、空手の試合に出ても、何の試合に出てもそれなりの結果を残せるって事やねん。

色んな格闘技の技を広く浅くや無くて、どの格闘技の技も高いレベルで使いこなす…それが俺の理想像や」


「…お前…それ…欲張りが過ぎんか?」


「ハハハ♪やっぱり?でもよ、どうせなら高みを目指したいやんけ♪」


「フフン…まぁ言いたい事は解るがのぅ。

でもな、俺からすれば今の寝技至上主義な格闘技界の流れは気に喰わん。せやからお前みたいな総合格闘家を、打撃のみで倒す事に快感を覚えるんや…俺にはお前が御馳走に見えるでぇ」

金木が舌舐めずりしながら再び構えた。


「そりゃ光栄やな…なら俺も打撃で張り合うなんて失礼はやめて、全力で〝おもてなし〟するしかないのぅ…」

完全に回復したらしい柔も、半笑いで構えを取る。

その構えは最初と同じ、総合格闘家としてのそれやった。


長かった会話も終わり、仕切り直しとなった2人の闘いが再開される。

日が落ち、街灯というスポットライトに照らし出された俺達のリングで…

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