映画化?
「あぁぁぁ~っっ!!不知火ダウ~~ンッ!!左ミドルには耐えた不知火でしたが、その直後に膝をついたぁぁ~~っっ!!しかもガオランは何1つ追撃を加えていない!これは不可解だぁ~!」
「コレっすよ…ボディ攻撃の怖いところは……」
「と、言いますと?」
「執拗な膝…そして先程の左ミドル…蓄積されたボディへのダメージが、今になって遅れて表面化したんでしょう」
「な、なるほど…」
「そしてボディでダウンを奪われた選手は…十中八九、敗北を味わう。そもそも立てるかも怪しい…内臓へのダメージってのは、それほどまでに深刻なんです。仮に立てたとしても、急激にスタミナを奪われる上にダメージの回復も遅い…〝詰み〟直前ってところっすよ…」
「ではこのままガオランが圧勝すると?」
「勝負の目が、ほぼほぼガオランに出てるのは確かです。でも…」
「でも?」
「詰みを焦って勝負が裏目に出るのもよくある話ですからね…最後までわかんないっすよ」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
〝ぬう…っ!不覚……やはり立ち技最強の誉れに恥じぬ強さよ…だが拙者とて、このままでは終わらぬ!先ずはカウントぎりぎりまで休み回復をはかる。そこからは…細工は流々 仕上げを御覧じろ…ってね〟
〝フ~…ヤッパリ タイボクシング ニ クラベタラ コンナ アイテ イージー ネ……ゼンリョク ヲ ダスコト モ ナイケド メンドクサイ カラ ハヤク オワラセルヨ モットモ…ヤツ ガ タテタラ ノ ハナシ ダケドネ〟
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「立ったぁ~っ!立ちましたっ!不知火、カウントアウト直前で立ち上がり、キッチリとファイティングポーズを取りましたっ!!」
「凄いですね…あれだけ実力差を見せつけられても、不知火選手の目は未だ死んでません。心は折られてない様ですね」
「骨は折れても心は折れぬ!忍は心に刃を忍ばせる!!そういったところでしょうか!」
〝…………骨も折られてませんけどね…そして全然上手い事言えてませんしね…〟
「さあ~試合再……おっと~っ!?ガオランが飛び出したっ!止めを刺すつもりかぁ~~っ!?」
「まずいっ!あの振り上げた腕の角度…肘を狙ってます!」
「ダメージの残る不知火、コレをしのげるかぁぁ~~っ!?」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
〝コレ デ オワリ!グンナイ ネ ジャパニーズ ニンジャ♪〟
「フッ…やはり出したか〝肉切り包丁〟……想定した通りよっ!!」
「ンナッ!?」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「な、なぁ~んとっ!仕掛けたはずのガオランがうつ伏せに倒れているぅぅ~っ!?しかも見た事の無い関節技に捕えられてっ!!大作さん!こ、これはっ!?」
「不知火選手は肘の直撃をすんででかわし、そのままガオラン選手の手を捕りました!そこから逮捕術の様な動きで床に倒し、あの型に入った訳ですが……正直見た事の無い技なんで名称はわかりませんが、腕と足首への複合関節技…しかし場所が悪い!コーナーが近い為、ガオラン選手が少し移動すればロープに手が届きます!!」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
大作さんと同じく、俺にもあの技の名前はわからん…せやけど不知火、面白い技を使うやんけっ♪
肘をかわして捕らえた腕…
そのままうつ伏せに引き倒して、ガオランの左腕に自らの両足を絡ませて羽折りに固める…
更に空いた両手で足首固めまで極めるとはな!
ヴォルク・ハンも真っ青の複合関節技や!!
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
〝チッ!擦った肘で米噛みを少し切られたか…だが捕らえたぞっ!これぞ不知火流 蜘蛛糸絡め!貴殿が逃げ切るか、拙者が極め切るか…いざ勝負!!〟
〝クッ…!イ、イタイ…ヨ……コンナノ タイボクシング ニハ ナイヨ……デモ コンナ コト デ マケラレナイ! ロープ メノマエ ネ!!〟
「させるかっ!!」
「ンガァァ~ッ!!!」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「ジリジリと逃げるガオランに、そうはさせじと不知火が更に絞り上げるっ!!ロープまでは約20cm!届くか?届くのかっ!?」
「ガオラン選手の執念も凄いですね…彼は自分のファイトマネーだけで11人もの大家族を養ってるらしいですが…恐らく彼の脳裏には今、家族1人1人の顔が浮かんでるんでしょうね…」
「なるほど!まさにハングリー精神!年老いた両親と幼き子供達の為に、不様と言われようとロープ目指してリングを這うっ!!素晴らしい美談です!映画化希望っ!!」
〝いや…大家族とは言うたけど、家族構成までは知らんし…間違いなく映画化される事もあらへんやろ……もし映画化したら監督呼びつけて説教するわ…〟
「さあっ!ロープまで後10cm程っ!!逃がすまじと不知火が体重をかけるっ!!わたくし、夏場のビールが如き勢いで固唾をガブ飲みしておりますっ!!」
〝なんじゃその喩え…〟
「ジリジリと芋虫の様に牛歩の歩みでロープを目指すガオラン!もうロープは目の前だぁぁ~っ!!」
〝虫やら牛やらワチャワチャしてますやん…大丈夫かこの人…?〟
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
〝ぬうっ!逃がす訳には行かぬっ!この機を逃がせば、拙者にはもう余力がござらぬ…っ!!〟
〝モ、モウ メノマエネ…!ホラ スコシ テヲ ノバスダケ…カンタン ナ コトネ……ノバスンダ ガオラン! ソノサキ ニ カゾク ノ エガオ マッテルヨ…!!〟
「ぬうぅぅぅ~~~っ!!!」
「ガアァァァ~~~ッ!!!」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「咆哮する2匹の獣~っ!さあっ!どうだ?どうなる?今にも指先がロープに触りそうだぁ~~っ!!」
「っ!!…こ、これは……」
「届いたぁ~っ!今ガオランの右手がシッカとロープを掴みましたぁ~~っ!!レフリーが両者の身体を引き離す!!」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
〝ト、トドイタヨッ!ボク ジブン ニ マケナカッタネ♪〟
〝ぐっ…こ、これまでか……見事に御座る!この勝負…主の勝ちで……〟
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「おぉ~~~っとっ!?ここでゴングが打ち鳴らされたぁぁ~~っ!!!ガオランの前でレフリーが手を交差している!!どうした?一体何があったぁ~っ!?」
「あ…っ!」
「へ?」
「勝瀬津さん…ガオランをよく見て下さい…」
「と、言いますと…?…………お~っと!!ガオランの左肩が!?明らかに右肩と高さが違うぅぅ~~っ!!!ダラリと垂れ下がり、まるで力が入っていない様子っ!!」
「我慢し過ぎましたね…アレは関節イッちゃってますよ……勝利への執念が強過ぎて、痛みすら感じて無かったのでしょう…」
「なぁんと言う事だぁ~っ!ガオラン、年老いた父と病に臥せる母…そして貧困に飢え学校にも行けない子供達の為に痛みすら忘却していたと言うのかぁ~っ!わたくし、感涙を禁じえません!!これはもう映画化決定ぃ~~っ!!」
〝色々と設定増えとるし…映画化希望が映画化決定に昇格しとるやんけ……〟
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
まだやれるとゴネるガオランの元へ、ゆっくりと歩み寄った不知火…
そしてそこで両膝をつくと、リングに頭を擦りつけたんや。
え?土下座かって?
ちゃうちゃう!そんな野暮なもんや無い!
コレは〝座礼〟……
不知火なりに最上級の感謝…そして尊敬の念をガオランに示したって訳や。
それを見たガオランも気持ちを察したんやろな…
一瞬だけ吹っ切れた表情を見せると、自ら不知火を立ち上がらせ、その左手を高々と掲げさせたんや。
そして笑顔で抱擁…
絵に描いた様な後味のええ幕引きやった!
これにて不知火選手が次戦に進出。
シュートボクシングの薄井選手とBブロック代表の座を賭けて闘う訳やな。
そして次はCブロックのシード選手、コマンドサンボのアレクサンダー・ロシモフが登場や!
相手は日本拳法の舘選手…
さてさてどうなる事やら♪




