左ミドル
そそぐちゃんに貰ったDVDを流し観しながらも、神経の99%はモニターに映るリング上に支配されとる俺。
不知火は1回戦で使った〝現代版 変わり身の術〟で道着が破れたからか、今回は上半身のみ裸での登場。
その顔は引き締まったもんやけど、少しばかり気負い過ぎにも見えるな…
対するガオランは、ずっと微笑みを浮かべたまま。
見ようによっちゃ〝こんな試合、イージーだぜ♪〟って言うてる様にも見える…
さあ!ボディチェックも終わり、いよいよゴングや!!
二次元の世界でしか見た事無い〝ワクワク対決〟…じっくり堪能させて貰うで♪
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〝立ち技最強の格闘技…そんな幻想を持たれておるが、拙者がそのメッキを剥がしてくれる!!〟
〝ニンジュツ? ン~…キイタコト モ ナイネ… ハヤク オワラセテ オカネ イッパイイッパイ モラッテ クニ 二 カエルネ♪〟
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「さぁ~っ!いよいよ始まる〝ロマン対決〟ですが、どうですか大作さんっ!?」
〝あ、良かったぁ…さん付けに戻っとる…〟
「大作さん…?」
「あ、あぁ…えっと…そ、そうですねぇ…ムエタイは誰もが知る格闘技、不知火選手も当然ながら対策を練っている事でしょう。逆にガオラン選手は忍術との対戦が初めてでしょうし、未知の武術相手にどういう闘いを見せるのか…そこに注目っすね」
「なるほど~!そんな注目の一戦もいよいよゴングを待つばかり!!さあっ!今ゴングが鳴ったぁ~~!!お~っと!?開始と同時に不知火が飛び出したぁぁ~~っ!!密着して細かい打撃で畳み掛ける!短期決戦狙いかぁ~~っ!?」
「ガオラン選手がリズムを取る前に密着して翻弄するつもりですかね…いや、しかし…不知火選手は悪手を打っちゃいましたね…」
「悪手…ですか?」
「まぁ見てれば解りますよ…」
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〝フン!貴様らムエタイは、独特のリズムとミドルキックで得意な間合いを保つ…ならば開幕と同時にその間合いを潰すまでよ!!さあ…どう出る?立ち技最強の…なっ!?〟
「ガハッ!」
〝ネライ ハ ヨカッタネ♪ ダケド…ナメナイデ ホシイヨ!!〟
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「う、浮いたぁ~~っ!?攻めていた不知火の身体が、一瞬 宙に浮きましたぁ~!!いや!過去形ではありません!今も2度3度と浮いていますっ!!」
「ガオラン選手が放った最初の1発はカウンターの膝蹴りですね。そして今、思わず腰を折った不知火選手の頭部を抱え込んで、完璧な首相撲の体勢に入りました…不知火選手も芯で喰らうのは上手く外してますが、先ずはあの首に絡みついた腕を外さない事には…この先 地獄っすよ」
「それを解ってか、不知火が上体を反らして必死に振り外しにかかるっ!!」
「まずいっ!!」
「へ?」
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〝クッ…!お得意の首相撲で御座るか…しかし拙者が対策を怠っていると思うか?そんな物はこうして上体を反らせば……っ!?〟
「グォ…カハァ~…ッ!!」
「アマイアマイネ♪ オカシ ヨリ アマイヨ♪」
「グ…グォ…ッ!き、貴様ぁ…っ!」
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「んなっ!?なぁ~んとっ!赤コーナー付近で揉み合っていたはずの両者…しかし今、不知火だけが青コーナー付近に居るぅ~~っ!こ、これは一体…?」
「上体を反らして首相撲を外そうと足掻いていた不知火選手…その身体が伸びきった瞬間をガオラン選手は見逃さず、自ら首相撲を解いて別の一手を指しました…」
「別の…一手?」
「左ミドルです。首相撲を解いた瞬間に両手で突き放し、距離が出来たところに渾身の左ミドル…突き放され間合いが変わった事、そして不知火選手が後方に飛んで威力を殺した事で青コーナー付近まで移動しちゃったんでしょうね」
「な、なるほど…飛んで威力を殺したと仰いましたが、と言う事は今のミドルは効いていない…と?」
「そうは言ってません。威力の2~3割は削げたかも知れませんが、完全に消す事なんて……まして相手は元ルンピニースタジアムの二冠チャンピオンですよ?特にガオランは左ミドルを得意としている。闘った試合の半数近くをあの左ミドルでKO勝ちしているんです」
「は、半数…ですか!?」
「意外に判定決着の多いムエタイの試合で、ガオラン選手は突出してKO勝ちが多い。
左ミドルの打ち合いに慣れているはずのムエタイ選手を、その左ミドルでKOする…これがどれ程凄い事か…想像出来ますよね?」
「し、しかしそう考えると、不知火もダウンしなかったのは称賛に値しますね!距離が開いてしまったとは言え、ここからが仕切り直しに…」
「いや…」
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流石は大作さんや…ちゃんと見抜いとるわ。
ボディへのダメージってのは少し遅れて出てくるもんや。
その証拠に…
不知火は1歩踏み出した瞬間にその場へ膝をついてしもたんや……




