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中指 立てたら  作者: 福島崇史
175/248

褒めて!

忙しなく回ったドアノブ。

んでもって開かれたドアの向こうに居たのは…


「そ、そそぐちゃん!?」


「チャオ♪てか…何、その意外そうな反応は?」


「い、いや…別に意外やった訳や無いけど、出来ればノック位はして欲しいかなぁ…なんて…」


「あ!そうそう!!んな事より渡す(もん)があったんやったわ!!」


〝んな事って…〟


「はいっ!コレ!!」


「ん?DVDプレイヤー?」


「そ!えっとそれからコレ!!」


そう言うと彼女は、有名レンタルDVDチェーンの袋を手渡して来た。


「次の対戦相手が決まったやん?だから対策練りたいやろなぁと思って、近場の店で買って来たったで!褒めて♪」


「対策って…」


袋を覗くとDVDが2枚入っとった。

そろりと取り出してみると…


「……」


「お?嬉しぃて声も出ぇへん感じ?照れんでええから、喜びはもっと全身で表現したらええんやで♪で、褒めて!」


「そ、そそぐちゃん…コレって…」


「ん?いや、次の相手が中国武術か合気道やって聞いたからさ、どっちになってもええ様に2枚買って来てん♪あ、お金の事なら気にせんでええよ!ワゴンで1枚100円売りしてた奴やから。

で、とりあえずは褒めて♪」


「……」


「褒めて♪」


「あ、あぁ…」


「あ、あぁ…じゃなくて!そろそろ褒めよっか!?」


「いや、あの…な、何て言えばええんか…」


「はよ褒めろやっ!!」


「お、おう…た、助かるわ…ありがと、気が…利くね…さ、流石は愛しの…そ、そそぐちゃんやわ…」


「せやろ!?せやろっ!?んも~!そんなに言われたら私も照れるわぁ~♪せやねんなぁ~気が利いちゃうんよなぁ私ったら♪

あっ!対策練る大事な時間を邪魔したらアカンね!!次の試合からは客席で観とるから、ソレで勉強してキッチリ勝つんやで!!んじゃアディダス♪」


「あ、あぁ…ありがとね(んでもって、それを言うならアディオスな!)」


嵐が過ぎ去ると俺は、溜め息をつきながら手渡された2枚のDVDへと目をやった…

1枚は中国武術の対策用と思われる、ジャッキー・チェン主演の映画…

そんでもう1枚は合気道対策用らしき、スティーブン・セガール主演の映画…

セガールと言やぁ〝沈黙シリーズ〟が有名やけど、そそぐちゃんの奇行のお陰で俺もまんまと沈黙させられたわ。

そんなバタバタの間にBブロックのシード選手、ムエタイのガオラン・ソーシリパンが入場するところになっとった。


タイの伝統音楽が流れる中、ゆっくりとしたリズムで花道を進む。

ムエタイ選手が闘いの前に舞う事でお馴染みの〝ワイクー〟の様な動きを時折見せながら…

その肉体は細身ながらも申し分の無い仕上がりや。

ベタな表現やけど、全身これバネ!ワイヤーを人型に編んだみたいな筋肉をしとる。

コスチュームこそ見慣れたムエタイのソレやけど、両の拳には通常のグローブや無くオープンフィンガーグローブが嵌められとる。

こうなるともう、ムエタイっちゅうより〝素手のムエタイ〟と呼ばれるムエカッチューアに近いな…

あ!今風にラウェイって呼んだ方がわかりやすいか。


たっぷり時間をかけ、ようやくリング下まで到着したガオラン。

先に入場しとった忍術の不知火が、ゴッツイ目付きでそれを見下ろしとる。

く~っ!たまらんのぅ♪

ムエタイvs忍術…ゲームやマンガでしか見れん対決やもんな!!

そんな〝ロマン〟溢れる対決、1秒たりとも見逃せん!!

そう思った瞬間、スマホにLINEの通知が鳴った。

そそぐちゃんからや…

何気なしに開いてみると、そこにはこない書かれとったんや…


〝ちゃんとDVD観ろよな。後で感想文書かせるからね!〟


〝いや…あの…そそぐちゃん…バカなの?

丸々2本観たら3時間位かかっちゃうでしょうがっ!次の試合までに観れる訳ねぇだろっ!!〟

なんて事は当然返せず…


〝倍速で観て、参考になりそうなシーンだけ定速で観るよ。ほんとありがとね!〟

と、返しておいた。

こんな気遣いしてる俺…誰か褒めて!




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