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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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森羅万象

「フィ~…危ない危ない!自ら跳んで威力を殺さへんかったら、今の一撃で終わってたかも知れまへんなぁ~…流石はカンフーマスターや♪」


「カンフーマスター?バカ言わないアルよ。ワタシなんて技術が使えるだけの駆け出しも駆け出しネ。」


「なるほど…そういやぁアンタら中国武術家は、宇宙の真理を理解してそれと一体化するのが最終目標やったか…いや、何とも御大層な事やおまへんか♪せやけどなぁ…あっしにはそんな御名分はおまへん。なんせ…人間をブッ壊す為だけの武術家ですからなぁっ!!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「お~~っと!!又も大河内が先に飛び出したぁ~~っ!しかも…蹴り!?今大会で初めて見せる蹴り!飛び込む様に放ったのは前蹴りだぁぁぁ~~っ!!」


「しかし陳選手は完全に見切ってますね…僅かに下がっただけで…いやっ!?」


「な、なぁ~んとっ!?大河内!すかされた蹴り足で陳の右足を踏んでいるぅぅぅ~~っ!」


「しかも親指を、陳選手の親指と人差し指の間にある窪みへ突き立てています!お互いに裸足だから可能な技ですが…地味にキツいですよアレ!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


〝ヒャッヒャッヒャッ!かかりましたな♪前蹴りは疑似餌や!動きは止めさせて(もろ)ぅたで!ほんなら手首…捕らせて貰いますよって♪〟


「フンッ!やっぱアンタ…アホゥね」


「んなっ!?」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「な、なぁんと~~っ!?手首を捕らえたはずの大河内が、逆に腕を極められ跪いているぅぅ~~っっ!?だ、大作さん…こ、これは?」


「凄いですね…陳選手…いや!凄いのは中国武術か…アレは…擒拿(きんな)です!」


「キンナ?」


「中国武術で用いる関節技の総称で、関節技と言ってもその技術体系はサンボより合気道に近い物です」


「つまり…寝技より立ち関節が多い…と?」


「自分の知識だけでは一概に言えませんが…概ね合ってるかと思います…」


「し、しかし…これは…決まってしまうのか?

大河内、自由な左手を必死にロープへと伸ばすが…明らかに遠いっ!ロープは遥か彼方ですっ!!それはまるで天竺を目指す旅路の如くぅ~~っ!!」


〝いや…勝瀬津さん…ちっとも上手く無いっすソレ…〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「残念だったネ…アンタ達のやってる事なんて、とっくの昔に先人達が完成した事アルよ♪」


「へっ!ぬかせぇバ~ロ~!こちとら武術家よぅ…腕の1本くれぇ捨てる覚悟だってんだ!」


〝ミチッ…ミチミチ…ミチッ……バグッガココッ〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「な、なんとっ!大河内が前転して技から逃れたぁぁぁ~~っっ!し、しかし…一体どうやって?」


「な、なんて男や…大河内…っ!」


「はい?」


「大河内選手…自ら肩関節を外し…ました。しかも外せる体質という訳や無く…無理矢理に。

アレじゃ肩の靭帯も恐らく…」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「へっ!どうでぃっカンフー野郎!こちとらお(めえ)らとは覚悟の度合いってもんが違……へっ!?」


「技から逃れても油断大敵ネ♪」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「非情~~っ!立ち上がり振り向いた大河内へと、陳が非情にして無情な一撃ぃ~~っ!!大河内の頭頂部にメリ込んだぁぁ~~っ!!」


「あの飛び込み様の打ちおろす打撃!劈掛拳(ひかけん)かっ!?」


「ヒカケン?あの…YouTuberの?」


「それはヒカキンなっ!!ったく…劈掛拳てのは、八極拳士が八極拳と合わせて学ぶ事の多い武術です。身を擦り合わせる程の接近戦が得意な八極拳ですが、劈掛拳は遠距離からの攻撃を得意としている…〝劈掛で飛び込み八極で決める〟つまり合わせて学ぶ事で、互いの欠点を補い合っている訳です」


「ほぅ…しかし大作さんは博識ですねぇ…格闘技や武術に関してだけですが♪」


「勝瀬津さん…やっぱアンタ、俺の事が嫌いっしょ?」


「レフリーがダウンを取ったぁ~っ!ダウンカウントが始まる~っ!!」


〝あ…否定すらしてくれへんのや…〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「し、しくじりましたわ…わ、技から逃れた…瞬間…ほんの0コンマ何秒か…完全に気を抜いてしもうた…」


「人間のする事だもの…そういう事もあるネ。

でもアタシ達が目指す宇宙の真理…そこに間違いなど無いアルヨ。所詮は人間…森羅万象には遠く及ばないネ…解ったアルカ?」


「へっ!へへ…へへへ…言ってろバ~ロ~!次は人間様が…その真理ってぇのを…超えてやらぁよ…でもよ…とりあえず今は…身体が動かねぇ…わ…

少し…寝かせて…くれ…や…」


晩安(おやすみ)ネ」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「試合終了~~っ!ダウンカウントの途中だが、レフリーが腕を交差させたぁ~~っ!!」


「ここから見る限り、一言二言話してる様に見えましたが…限界だったのでしょう、意識が飛びんだみたいですね…」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


決着の瞬間、俺は握り続けて汗でビチョビチョになっとる拳を更に強く握りしめとった。

俺の次の相手が決まった瞬間やからな…

本格的な中国武術使いと闘った経験は無い。

楽しみではあるけど、正直怖さの方が強い…

あの大河内が何もさせて貰ぇへんかった、その事実が俺の両肩に重石を担がせる。

いやっ!そんな弱気でどないすんねん俺っ!!

対戦まではまだ時間がある!対策を練れば勝てん相手やあらへんっ!!

問題は…や…

どないやって中国武術への対策を練るか…やな…


俺がいつも通りに〝アホ〟を発動しとる時、控え室のドアが落ち着きの無いノックの音を響かせたんや…

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