コウジュツ
「さあ~っ!今ゴングが打ち鳴らされました!!青コーナー側の大河内、開いた両手をゆったりと前に出した構え。そこには気負いが微塵も感じられません!しかも1回戦では着用していなかった、オープンフィンガーグローブを嵌めている!対する赤コーナー側の陳、上下とも黒のカンフー着に身を包み、両の拳を正中線前に構える!奇しくも同じくゆったりした構え!今大会初の、見た目普通のおじさん対決にして小柄対決!そこにゆったり対決という見所が加わったぁぁ~~っっ!!」
〝は?ゆったり対決って何…?〟
「大作さんも言葉を発っさず静かに見守っております!!」
〝いや…閉口って言葉知ってる?呆れて言葉が出ぇへんって意味なんですけどね…〟
「静かな立ち上がり、どう見ますか大作さん?」
「へ?あ、あぁ…そうですね…意外っちゃあ意外ですが、恐らくは陳選手が先に動くかと」
「ほぅ…それは又どうして?」
「大河内選手の1回戦を観るに…古流柔術を名乗ってはいるものの、その動きは合気道に酷似していました。つまり〝待ち〟が主体の技術体系だと思われます。対する陳選手ですが…あの構えを見る限り、八卦掌や太極拳の様なカウンター主体の物では無いと思います。八極拳や心意六合拳の様に攻撃的な流派ではないか…と」
「なるほど!本日はなかなか当たらない大作さんの見立てですが、果たしてどうなるでしょうかっ!!」
〝ハリネズミばりのトゲトゲですやん…え?ひょっとして俺の事…嫌い?〟
「お~~っと!?動いた動いたっ!!先に動いたのは何と大河内っ!!又もと言うべきか、やはりと言うべきか大作さんの予想は外れてしまったぁぁ~~っ!!」
〝ブッスブス刺して来ますやん…〟
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大作さんには悪いけど…俺は大河内から動くと思っとったから、別に意外でも何でも無かった。
1回戦で大河内がボクシングを使った事、大作さんは忘れてたんちゃうやろか?
しかし…まさか合気道っぽい構えからステップインしてジャブの連打とはな…意表を突いたええ初手や。
せやけど…
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〝ヒャッヒャッヒャッ!どないでっか?カンフーの大将!ワシみたいな爺ぃが、あの構えからパンチで来るとは思わんかったでっしゃろ♪
お?せやけど中々に捌くんが上手いやおまへんか…〟
〝フン!バカな爺さんアルね…アタシがアンタの1戦目を見てナカッた思うカ?そう来るのは想定済みネ♪で、ボクシング相手には…こうねっ!フンヌッ!!〟
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「お~っと!陳、大河内のパンチを掻い潜り中に入ったぁ~っ!クリンチかぁ~っ!?」
「いや…」
「な、何と~っ!大河内がロープ際まで吹っ飛んだぁぁぁ~~っっ!!だ、大作さん!コレは一体…!?」
「靠術です!」
「コウジュツ…?」
「はい…いわば体当たりの一種で、背中からぶつかる八極拳の鉄山靠が有名ですが、陳選手は入り身と同時に肩を大河内選手の鳩尾に叩きつけましたね…コレはキツいですよ。もしかしたら…この1発で決まってしまう可能性も…」
「お~っと!立った立った!大河内、何事も無かったかの様に立ちましたぁ~っ!!大作さんの予想に反して大河内が立ったのですっ!!
ま・た・も!大作の予想は外れてしまったぁ~っ!!」
〝……もういっそ俺を殺して下さい…
しかも最後は呼び捨てなっとるし…〟




