えげつない男
「お~っと!これはっ!?開始7秒で決まってしまうのかぁ~~っ!?」
実況の声でモニターに目を移すと、合気道の三尾選手がコーナーにもたれて倒れとった。
対する不破選手はリング中央付近、相変わらず笑顔を携えて棒立ちしとる…
なんや?何が起こった?
「これは驚きましたっ!開始早々の事で実況が追いつきません!いや…お恥ずかしい話ですが、そもそも何があったのかすら私には理解出来ておりません!!大作さん、今の攻防の解説をお願いいたしますっ!!」
「ぶっちゃけ、自分もハッキリとはわかりません…ただ出会い頭に不破選手が、右の突きを出したのだけは辛うじて見えました…が、問題はその後ですね…
三尾選手がそれに対し、防御を兼ねた〝何か〟をしたのはわかったんですが…頼り無い解説ですんません…」
「そ~ですかっ!あの福田大作をしても理解出来ない複雑な攻防が、一瞬の内に行われた…現時点ではそうとしか申し上げられないのが心苦しい限りですっ!!」
「いや…あの…少し刺があるっすね…その言い方…」
「さあっ!こうしてる間にもダウンカウントは進む!!既にカウント8だが、立てるのか三尾~っ!?」
(あ…全然聞いてない…スルーっすか?…あ、そうですか…)
「お~っと!三尾、何事も無かったかの様に立ち上がったぁ~っ!!」
「たっぷりカウント9ギリギリまで休んで回復を待った…そんな感じっすね。ただ…三尾選手自身が今何をされたのかを理解出来ているか、それが問題ですね…」
「確かに!その謎がわからなくては、また同じ事を繰り返す事になりかねません!!何はともあれ試合再開ですっ!!」
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「ほぅ~…立つかよ?まぁそりゃそうか…合気道使いが自分の〝十八番〟でヤラれる訳にゃあいかんよな?」
〝くっ…!確かに俺は奴の打撃に〝合気〟を重ねた…しかしまさかそこに更なる合気を重ねて来るとは…コイツ……出来るっ!!〟
「さあ…試合再開やで。遊ぼ♪」
「…………」
「どした?来ぇへんのか?あ、そっか!合気道は護身術やもんなぁ。自分から仕掛ける技はあらへんか…よっしゃ!なら又こっちから行かせて貰うわ♪」
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「おっと!?立ち上がりはしたものの三尾、構えたまま静かに不破の周囲をグルグル回っているだけ…これは?」
「合気道は基本的に護身術です、自ら仕掛ける術が無い。パラメーターを防御力に全フリした武術ですからねぇ…不破選手はそこにつけこむ事も出来ますが…いや!不破選手、動きましたよ!!」
確かに大作さんの言う通り、合気道は完全なる護身術や…
俺も短期間とは言え、室田師匠から手解きして貰たから少しは解る。
仮にさっき見逃した攻防で、三尾選手の〝合気〟が通用せんかったんやとしたら、攻撃力を持たへん三尾選手が圧倒的に不利や…
不破選手は対〝合気道〟の技も持っとる上に自分から仕掛ける事も出来るっちゅう事やからな。
「おっと!不破、細かい左ジャブから右のローキック!三尾も身を退いてかわす~っ!」
「綺麗な対角線のコンビネーションですね、不破選手は打撃の基本も出来ている…」
「しかし!かわされても不破、再び同じコンビネーションで追い立てる~っ!!」
「同じ技の組み立ては危険ですね…三尾選手も目が慣れる頃ですし手痛い反撃を…」
「おっと!三尾!身を屈めて不破の蹴り足を捕りに行っ……え?」
驚いた…不破選手は捕られる手前で蹴り足をピタッと止めたんや。
これで三尾選手は虚空を掴んで身体が流れた…
その機を逃す不破選手やあらへん。
体勢の崩れた三尾選手のサイドに回り込み、延髄に手刀を打ち込んだ!
そんで…ゆっくり前のめりに倒れる三尾選手に背後から覆い被さり、そのまま道着を掴んで送り襟締めに入ったんや…
「お、送り襟締め~~っ!!しかし場所が悪い!ロープまで50cm!!少し手を伸ばせば届く距離だぁ~~っ!!」
「いや…」
「え…?お~っと!レフリーが二人を引き離したぁ~っ!!止めた!止めた!レフリーストップだぁ~~っ!!と、同時にゴングが打ち鳴らされる!だ、大作さん…コレは?」
「締め技に入る前の延髄への手刀…あの時点で三尾選手は意識を失ってました。不破選手…なかなかに〝えげつない〟男ですよ…彼は…」
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「あ~ぁ…終わっちゃったよ……んだよ!もっと楽しめる思ぅたのによ!ちぃ~とばかし気合いが足りへんのとちゃうかぁ~っ自分っ!?」
〝…………〟
「ちゅうても聞こえてへんか…ま!勝ちは勝ちや!次の相手に期待すっか♪」
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Dブロック第2試合
2分14秒レフリーストップにより不破 敏郎選手が2回戦進出




