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中指 立てたら  作者: 福島崇史
169/248

舘の縦

「おやおや?全然当たら無ぇなぁ!どした?日本拳法てのはその程度かよ!えぇ?舘さんよぅ♪」


「……」


「はんっ!だんまりかよ!?負け惜しみ言う気も失せたってか?ま、幾らでも打って来な!どうせ当たら無ぇから。なんせ俺の名前は名倉 蓮…〝殴られん〟ってのが売りなんでな♪」


「ならば…参るっ!!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「お~っと名倉!舘の反撃をヒラリヒラリと全て華麗にかわして見せたぁ~っ!如何ですか大作さん?ここまでの展開はっ!?」


「そうですねぇ…やはりボクサーのディフェンス技術は格闘技界屈指と言わざるを得ません…が!まだ序盤ですからねぇ。それに……」


「それに?」


「いくらボクシングのディフェンス技術が優れているとは言え、それはあくまで打撃の応酬を想定して築かれた物…しかし日本拳法は総合格闘技ですからねぇ。そして舘選手はまだその片鱗を見せてはいない…なんにせよこの後の展開に注目ですね」


「なるほど~!おっ!?言ってる傍から舘が動いたぁ~~っ!!膝関節を狙っての横蹴り…から止まらず腹部への横蹴り!!しかしコレも名倉が難なくかわす~っ!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


〝ケッ!馬鹿の一つ覚えみてぇな横蹴りかよ…当たん無ぇっつ~の♪さっき俺が見せたロー、あれ見て気付か無ぇのかよ?俺はボクシングと並行してキックボクシングもやってんだよ♪しかもタイ人コーチ直伝のムエタイ式だぁ!てめぇの直線的な蹴りなんざぁ喰らって堪るかよ♪〟


〝クッ…当たらぬか……こやつ…やはり蹴り技の心得もある様子…と、なれば!!〟


〝へっ!どうせまた下への蹴りでガード下げさせて、空いた顔面を狙うってんだろ?いいぜ…あえてヤラせてあげようじゃないの♪そら!打って来な!!〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「おっと!舘!!先程と同じく、ガードの下がった名倉に突きの連打だぁ~っ!しかしコレまたヒラリヒラリとかわす!もはや宙に舞う木の葉のようだぁ~っ!そして舘!少しテレフォン気味の右ストレートッ!!しかしコレも名倉が左方向へのダッキングで(くぐ)ったぁ~っ!!」


「いやっ!」


「へ…?」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


〝だ~か~らっ!てめぇのパンチなんざぁ当たん無ぇっつ~の♪おっ!?えらい大振りの右じゃん!絶好のカウンターチャンスだけどよぅ…もう少しお客さん楽しませてぇから、ここはかわしといてやるよ♪〟


〝勝機っ!!〟


〝え?な…?こ、こいつ…!?〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「な、なぁ~んとっ!?これまで直線的な前蹴りと横蹴りしか出さなかった舘が、初めて本格的な廻し蹴りを見せたぁぁぁ~~っ!!」


「しかも名倉選手の逃げ道を塞ぐ形での左ミドル!流石の名倉選手も面食らった様子ですね!!更にすかさず右ミドルへの繋ぎ!ダッキングでかわされぬ様、意図的にミドルを打っているんでしょう…名倉選手がこの試合初めて真っ直ぐ後ろに下がりました!!」


「た、確かに!ついに名倉がコーナーを背負ったぁ~っ!!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


〝チッ!まずったぜ…まさかこいつもムエタイ式の蹴りが出来るたぁよ…でもよコーナーに詰められたからって焦る俺じゃあ無ぇぜ♪確かにココじゃあかわすスペースは無いが、全部ブロックしてやらぁな。んでもって…てめぇが打ち疲れた頃合いを見計らってとどめを刺してやんよ♪〟


〝名倉選手…確かに貴殿のディフェンス技術は見事だった…が!貴殿は1つ大事な事を忘れている様だ。悪いがココで決めさせて貰うっ!!〟


〝右フック…ガード!よしっ!続けて左フック…ガード!よしっ!!んで右ボディ…からの左ストレートだろ?わかってんだよタ~コ♪しっかりとガードし…て……アレ…?何コレ……視界が…白い?

やべぇ!なんかわかんねぇけどやべぇ!とりあえず手を出さねぇと……〟


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「あ、当たったぁ~っ!ついに舘の拳が名倉の顔面にクリーンヒットッ!!し、しかし大作さん…あれほど鉄壁のディフェンスを見せていた名倉が何故急に…?」


「縦拳ですよ…」


「縦拳?」


「ええ…日本拳法の特徴の1つです。通常、打撃系格闘技のパンチはこう…拳が横向きの状態で放たれます。しかし日本拳法は拳を縦にして放つ…これにより幅が狭くなり、相手のガードの隙間を通り抜けるんです。ボクシングやキックボクシングの世界でも、この技でタイトルを獲った日本拳法出身の選手が何人か居ますよ…」


「なるほど…おっと!?名倉…頭部を後方に大きく弾かれながらも、右のパンチで反撃を試みる!しかぁ~し!コレは緩やかぁ~…全く力無い動きだぁ!!舘がその手首を掴み、立ち位置を入れ替えたぁ!!」


「舘選手…決めに来ますよ!立ち位置を入れ替えたのはその為でしょう…ホラッ!!」


「おおっ!?舘、捕らえた名倉の右腕に飛びついたぁぁ~っ!これは飛びつき腕十字っ!!意識の朦朧とした名倉にも容赦の無い攻めっ!!しかし名倉も流石!あのダメージを受けながらもしっかりと手をクラッチして防御の体勢を取っている…しかもエスケープを狙ってか、ジワジワとロープ方向へ身体の向きを変えながらっ!この大会初のロープエスケープなるかぁぁ~~っ!?」


「いや……」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


〝クソッ!クソッ!!負けたくねぇ…いや!負けらんねぇ!この大会は俺がもっかいボクシング界でノシ上がる為の踏み台なんだぁ…それを…こんな…こんなところで…負けらんねぇんだよっ!!〟


「名倉選手…その勝負に対する執念は見事っ!!しかし残念ながら…この体格差ではエスケープ出来る望みは皆無っ!無駄なダメージは与えたくない…潔くギブアップしては貰えぬか?」


「へっ!言ってろタ~コッ!誰がてめぇなんかに〝参った〟すっかよ!!」


「……残念ながらやむを得ん…な」


〝ボグッ!!〟


「ンギャァァ~~~~ッッ!!!!」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「だ、大作さん…今…嫌ぁ~な音が…実況席(ここ)まで届いたんですけど…?まさか折れたなんてぇ事は…」


「腕が伸び切ると同時にイッちゃいましたね…

まぁよく〝折れる〟って表現を使いますが、実際は肘関節の脱臼ですね…

今のはレフリーも止めるタイミングが無かった。残念な事故としか……」


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


モニター越しでも名倉選手の肘が〝への字〟に曲がるのがハッキリ見えた…

大作さんの言う通り、これは不幸な事故としか言い様が無い。

しかし舘選手…ムエタイ式の蹴りといい、日本拳法必殺の縦拳といい、最後の最後まで温存したのが勝因やろな。

それまで劣勢を装って名倉選手を調子に乗らせる…なかなかの策士やんけ。


まぁ兎にも角にもCブロックまでが終了した訳や。

次はいよいよ最終ブロックのDブロックが始まる…

第1戦は柔道の瀬尾(せお) 宇一郎(ういちろう)vsシュートレスリングの内名(うちな) 劇丸(げきまる)の対戦か…

展開は全く読めんけど、皆さんは続きも読んでね♪





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