祝福と自問
「必死のパッチでキックの連打…お疲れさん♪」
「なっ…！？」
「悪ぃけどよ、やっぱ効かねぇわ…軽い。お前の打撃は速いけど軽過ぎるんよな」
「て、てめぇ…！！」
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「お～っと！？決まったと思われたハイキックだが、寺野が芦久瀬の左足首を掴んでいる～っ！！それも右手だけ！ワンハンドでの鷲掴みだぁ～っ！！」
「これは驚きましたね…モロに首筋へヒットしたのにビクともしないとは…あのバカげてる程に太い首と僧帽筋ならでは…と言ったところでしょうか？いや……それにしても…」
「解説の大作さんをも呆れ顔にする離れ業だ！寺野、ここからどう反撃に出るのかっ！？」
「まぁ普通に考えれば倒して関節技を狙うでしょうね。いや…えっ！？ちょ…マジかっ！？」
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「さぁて…せっかく取っ捕まえた事やし、この〝あんよ〟どない料理したろかいのぅ♪」
「てめぇ！離せコラッ！！」
「っと～！残念やったな！へへっ…空いてる足での蹴り…そいつぁプロレスでも定番の流れやからな、読んどったわいな♪」
「クッ…！！」
「んならいっちょ盛り上げたろかいっ！せ～のっ！フンヌッ！！」
「え…？いや、ちょっ…」
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「な、なぁ～んとっ！寺野っ！！芦久瀬の足首を握ったまま回転を始めたぁぁ～～っ！！ま、まさかコレは…やるのか？やってしまうのかぁぁ～～っ！？」
「さ、流石にワンハンドでのジャイアントスイングは……え？いや…芦久瀬選手の背が…マットから……浮き…ましたね……」
「浮いたぁ～っ！スピードは無いが、ゆっくりとリング中央で回り始めましたぁ～っ！１回転！２回転！３回転！何回転まで行くのかぁぁ～～っ！？」
「て、適度なところで離さんと、あの技は仕掛けてる側も目が回ってダメージ受けますからね…」
「７！８！９！おっと！１０回転目にしてついに離したぞ寺野～っ！飛ばされた芦久瀬は後頭部をコーナーポストで痛打っ！！しかし寺野も直ぐには追撃は出来…え？アレ…？」
「いや！行きましたよ寺野選手！コーナーで座り込んだままの芦久瀬選手の顔面に、串刺し低空ドロップキック！！これはエグい…」
「弾けるかと思われた芦久瀬の頭部！しかしコーナーポストとの板挟みでダメージの逃げ場が無いっ！！座したまま前に倒れ込んだぁぁ～～っ！！まるで部屋の片隅で忘れ去られてるテディベアの様だぁぁ～～っっ！！」
「これは流石にレフリーも止めるでしょうね…」
「大作さんの仰る通り！直ぐ様レフリーが腕を交差っ！！っと！？それと同時に芦久瀬陣営からタオルも投入されましたっ！！これはさしずめTKOの二重奏だぁぁ～～っ！！！」
〝う、うまい事言うな…〟
「セコンドとドクターに囲まれる芦久瀬！勝ち名乗りを受けながらそれを見下ろす寺野！勝者と敗者の陰影が浮き出る残酷なコントラスト～ッ！」
〝この人…前々から色んな喩えを用意してたんやろな…〟
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「目ぇ覚めたか芦久瀬…なら１つ言わせて貰うわ。強がっとったけどな…俺はお前の蹴りが怖かったで。お前があと１５kg体重増やしたら、そん時もっかい闘ろうや♪」
「へっ！やなこった…もうプロレスラーとは闘りたくねぇし、特にお前とはお断りだよ。へへへ♪」
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２人が何やら会話を交わした後、何とも言えんええ顔で握手しとるのをモニター越しに観てる俺やけど……
内心穏やかや無いってのが正直な気持ちや。
悔しいっ！ただただ悔しいっ！！
ティラノの奴…プロレスラーとしてこの上無いええ勝ち方しよった…それが何より悔しいっ！！
ティラノよ…プロレスラーとしての純度をそこまで研ぎ上げたんか…
あの頃のお前とは別人と考えなアカン程に…
俺はどうや？俺はお前ほどに成長出来たんか？
お前の目に俺はどう映ってる？
祝福と自問…複雑な心境の中、モニターの向こうではCブロックの第２試合が始まろうとしとったんや……
