プロレスvsカポエィラ
芦久瀬 強…
本番ブラジルで修行したカポエィラ使い…
それくらいしかコイツに対する知識はあらへん。
身長は180cm無いくらい、体重なんか70kgそこそこやろ…そんなサイズで俺っちと張り合おうたぁ笑わせるやないかいっ!
そのウザッてぇドレッドヘアー、引っこ抜いたるから覚悟せぇや!
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フゥ…初っぱなの相手はプロレスラーかよ…
ったく!せっかくガチガチの格闘家を倒して、カポエィラの有効性を証明するつもりだったのによ。よりによって〝見せ物〟が相手たぁ…ついてねぇぜ。
まぁいいや♪その〝ハリボテ〟の筋肉、蹴って蹴って蹴りまくってやっからよ、直ぐに倒れたりしねぇで少しは楽しませてくれよ♪
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おっ?ゴングが鳴ったのぅ♪
さぁて…どない出て来る?カポエィラ使いさんよ…
へっ!低い姿勢でユラユラとヘンテコなステップかよ?ゲームやマンガでは見た事あったけど、ほんまにするんやなぁその動き。
そんだけ低い体勢やと、捕まえたらソッコーでパイルドライバーやパワーボムを狙えるのぅ♪
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へへ…オメェの考えてる事ぁわかってるぜ。
捕まえさえすりゃ何とかなる…そう思ってんだろ?
ならやってみろよ…さあ、その鈍重な身体で捕まえられるかい?鬼さ~ん、こ~ちらっ…てな♪
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モニター越しに見る限り、ティラノの表情はリラックスして見える…
せやけどガードが低過ぎるのが気になる。
アイツ…やっぱ相手を舐めてるんちゃうやろか?
確かに体重差は30kg程あるけど、それでも頭部にエエのが直撃したらKOされる危険はある。
まして蹴り技の防御に慣れてへん上に、カポエィラの蹴りは軌道が特殊や…
ティラノ…充分に気ぃつけぇよ……
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「さあっ!ついに始まりました!Cブロック第1試合、プロレスの寺野竜士vsカポエィラの芦久瀬強の一戦!
お辞儀したような姿勢で、ユラユラと身体を左右に揺らす芦久瀬!
対する寺野は、ろくにガードもしないままジリジリと間合いを詰めています!
どうですか大作さんこの試合は?」
「そうですねぇ…寺野選手は不惑選手の同期レスラーなんですが、あの構えや動きを見る限りでは異種格闘家との闘いには慣れていない様ですね。
芦久瀬選手が打撃を出せば、全て当たりそうな程にスキだらけ…少々不安に感じますね…
おっ!動きましたよっ!」
「えっ!?お~っと!先に動いたのは芦久瀬だぁ~っ!腕立て伏せみたいな体勢から寺野の膝を狙って蹴りぃ~っ!前に出る寺野の足止が目的かぁ!?それを取ろうとした寺野だが、スカッて前につんのめったぁ~~っっ!」
「ま、まずいっ!」
「芦久瀬!この機を逃さないっ!!伏せていた上体を起こし、体勢の崩れた寺野目掛けて速射砲の如きキックの連打ぁぁぁ~~っ!!
当たる当たるっ!プロペラの様な左右の廻し蹴りが面白い様に当たるぅぅ~~っ!!!」
「右の後ろ廻しから左の後ろ廻し…しかも追撃を上下に打ち分けてます!他の格闘技ではあまり見られない繋ぎ…相当に体幹が鍛えられてますね。しかし寺野くん、あれだけ喰らってもガードを固めないとは…流石はタフなプロレスラーと言いたいところですが、このままやと試合を止められかねないっすよ…」
「プロレスラー寺野竜士!ここであえなく散ってしまうのかぁぁ~~っ!?」
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な、何しとんねんティラノ!?
いくら何でも貰い過ぎやっ!!
このままやとTKO敗けになるぞっ!!
せめて頭だけでもガードせんかいっ!!
そん時…同じ控え室に居る誰かが、バカにした口調で言いよった。
「あ~ぁ!ダメだこりゃ♪よくこのレベルで出て来たなコイツ♪所詮はプロレスラーかいな♪」
俺は声の出所を睨み付けたが、誰が言ったかまでは判らへん…
俺の視線に気付いた連中は皆、バツが悪そうに目を反らしよった。
でもその時、他の控え選手があんぐりと口を開けて、信じられん物を見る目でモニターを指差したんや。
それと同時にモニターの向こうから歓声が湧く!
振り返りモニターに目を移した時、俺も他の連中と同じ様に開いた口が塞がらんかったんや…




