プロレス馬鹿
1回戦もBブロックまでが終わった。
シード選手は2回戦からの参戦やし、実質半分が終わったって事になるな。
んでもって、いよいよワイの出番っちゅう訳や!
Cブロックの第1試合…思いっきり盛り上げたろやないかいっ!!
と、テンションを上げとったら、ふいに控え室のドアが開いたんや…
振り返ったら、そこには見慣れたアホ面が立っとった。
「なんや…裏切り者の勇やないか。何しに来たんや?」
「フッ…やっぱお前の中じゃ、俺は未だ裏切り者のレッテル貼られたまんまか…ティラノよ?」
「ったりまえじゃ!死ぬまで消えるかいっ!!それより質問に答えんかいっ!何の用じゃ?」
「いや…知らん仲や無いしな、ただ単に激励のつもりやってんけど……迷惑やったみたいやな」
「激励っ!?ハッ!えらい余裕やのぅ!?んな暇あったら次の試合の為にシミュレーションしとけやっ!それにやぁ…勘違いすんなよ…お前…」
「勘違い?」
「確かに俺とお前は同期入門の顔馴染みや…せやけど馴れ合うつもりなんざぁ一切あらへんからのぅっ!お前を直接ブチのめした上で優勝し、俺がプロレスの最強を証明する!その為にエントリーした事を忘れんなっ!」
「わかっとる…試合直前やのに邪魔して悪かったな…モニター越しにお前の武運を願っとくわ…」
そう言うと勇はゆっくり背を向けた。
俺はその背中を見て、どうしても言わずにおれなんだ…
「おいコラッ!」
「ん…?」
「俺以外の奴に敗けたら承知せんどっ!しっかり勝ち上がって、俺に敗ける為に首根っこ洗っとけやっ!!」
「フフフ…相変わらず〝とっぽい〟奴やな…
でも…何か嬉しいわ。じゃな」
そう言って笑うとアイツは静かにドアを閉めた…
同じ控え室に居る他の選手達が、遠巻きに俺を見とるのが判る。
そりゃ俺とアイツの関係は知っとるやろから、好奇の目を向けられてもしゃあないわな…
ハァ……しかし俺って何でこんな風になってまうんやろ…
ほんまは「頑張れよっ!決勝で会おうやっ!!」
ただそれだけを言いたかったんやけどなぁ…
アイツの顔を見たら、素直になれずついムキになってまう。
心の中ではとっくに許しとるくせにな…
俺もまだまだガキっちゅう事か…ハハハ……
せやけどアイツに勝って、俺のプロレスが最強って事を証明する‥その気持ちは嘘や無いっ!
勿論〝プロレス最強論〟には一切の疑いも持ってへん。
そこで大事なんは〝どのスタイルのプロレス〟が最強か?って事や。
プロレスと一言で言うても種類は色々や…
だからこの場でアイツのプロレスやなく、俺のプロレスが最強やって事を見せつけたる!
1回戦の相手は芦久瀬 強…カポエィラ使いや。
格闘ゲームや格闘マンガで、カポエィラ使いが〝最強キャラ〟やった試しが無い。
生け贄には丁度ええやないかいっ♪
お?そろそろ入場か…
ほな、一丁かましたりますかっ!
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
ティラノの奴…変わっとらんかったな♪
素直になれへんところもあの頃のまんまや。
あの態度が本心から出たもんやなんて思う程、俺だってガキやあらへん…アイツなりの激励やって解っとる。
激励に行って逆に激励されとったら世話無いけどな…ハハハ♪
それはそうと…デビュー以降、悪役でやって来たティラノがこのルールでどない闘うんか?そこに興味がある。
当然ながら凶器も反則技も使われへん…
〝アレ〟はプロレスという特殊な格闘技やからこそ許されるもんや。
ガチガチのスポーツ格闘技でアイツがどう立ち回るか…見ものやで…
それともう1つ心配事がある。
ティラノは良くも悪くも正真正銘の〝プロレス馬鹿〟や。
他の格闘技や武道に一切興味を示さへん。
〝プロレスこそ最強!プロレスで最強の男こそ世界最強の男!!〟
それを信じて疑わへん…
俺もそう信じたい…せやけど理想と現実は別物や。アイツが対戦相手を舐めてなかったらええんやけど……
確か1回戦の相手はカポエィラ使いやったな…
今や踊りのイメージが強いカポエィラやけど、MMAで結果を残しとるカポエィラ使いもおる…
決して弱ぁ無い。
そこんところを肝に命じて挑めよ…ティラノ!
祈る様な想いでモニターに目を移すと、両者がリング中央で向き合ってるところやったんや。




