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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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異色対決

花道に姿を現した大河内選手…

それを見て俺は愕然とした。

満員の客席からは驚愕とも感嘆とも取れる、何とも言えへんどよめきが沸き起こっとる。

なんせ出て来たんが、(よわい)60は過ぎてるであろう小さなオッサンやねんもの…

いや確かに選手ミーティングの時に見た顔ではある…見た顔ではあるけど、まさか選手本人とは思わへんやん?

トレーナーとか道場関係者やと思うがな。


160cm程の身体を濃紺の袴で包み、足元は裸足。セコンドも就けず単身でゆっくり歩くその様は確かに達人然としとる。

しかもカラカラに乾いて脂の欠片も見当たらへん顔に、薄く笑顔を浮かべとるもんやから余計にそない見える。

かつて古流柔術や中国武術ってのが幻想の対象になってた時代は確かにあった。

せやけどなぁ…ブラジリアン柔術の登場とMMAの発展により、それらのメッキはどんどん剥がされてしもたからなぁ。

近代格闘技を見慣れて目の肥えた観客が、今更この手の類いに期待するとは思えへんのやけど…

何を思って大作さんはこのオッサンを出場選手に選んだんやろか?

まぁ…ヤンキーvs達人っぽいオッサン…マンガみたいな対戦で話題性はあるわな。


両者のコールが済み、レフリーからのルール説明とボディチェックの時間…つまりは選手同士の〝恒例〟雑談タイムや。

まぁモニター越しじゃあ会話は聴き取れへんから、読者の皆さんには現場から生の声をどうぞ!! (メタ発言)


「オラッ!ジジイッ!てめぇセコンドも就けずに俺と()るつもりかっ!?えらい舐めてくれんじゃねぇか…アァッ!?」


「フフン♪そういうお前さんもセコンドは無しみたいやおまへんか…まぁお友達はぎょうさん()るみたいで羨ましい限りやけどなぁ」


「へっ!心配すんな…コイツらにゃあ一切の口出し手出しはしねぇ様にキツ~く言ってあらぁよ。俺ッチにとっちゃあリング上だろうが街中だろうが関係ねぇ…男と男が向き合ったら、そいつぁ何であろうが〝喧嘩〟だぁ…喧嘩にセコンドなんざ必要無ぇだろうがよ!」


「ほぅ…〝ナリ〟はともかく、若いのにええ心構えやおまへんか。全くもってワシも同じ考えやぁ…気が合いまんなぁ♪ジェネレーションギャップ?何それ…美味しいの?って感じでんな♪」


「……テメェ…面白ぇジジイだな。気にいったぜぇ…この喧嘩でキッチリ白黒つけたら、1回サシで酒でも呑もうや…俺の道案内、テメェの財布でよ♪」


「オ~怖っ!よぅ言うわ!てか…あんさん未成年でっしゃろが!ヒャッヒャッヒャッ♪」


「ケッ!マジメかよっ!?ハ~ハッハッハッ!」



え…何を話したんか判らんけど、2人して突然笑い出したんですけど?…やだ怖い…

ほんでもって…例の如くレフリーが険しい顔で両者に注意しとるわ。

コレは何を言っとるか判るで。

〝私語は慎め!〟や、間違いないわ。

で、2人がまだ笑いながらコーナーへ下がる。

せやけど振り返ってゴングを待つ時には、もう闘う男の顔に変わっとったわ。

てか…柴木の奴、特攻服着たままやねんけど?

あのまま試合するんかいやっ!?

俺がそんな事を考えた時、異色対決の始まりを告げるゴングが鳴ったんや…

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