GoGo!Heaven
示現流…昔、何かのマンガで見た事あるだけやから、俺もそんなに詳しいとは言われへん。
でもそのマンガに描いてあった示現流の特徴は、二の打ちや三の打ちを考えず、初彈に全てを賭けその一撃をもって相手を倒す…ってもんやった。
その必倒の一撃を繰り出す為の構えが、比嘉の見せた〝蜻蛉の構え〟や。
なるほど…〝刀〟を〝手刀〟に変えて応用するたぁ考えたやんけ!
多分…色んな武術や格闘技を取り入れ、自分なりに消化しアレンジを加えた空手…それが奴の沖縄空手なんやろ。
奴の使う空手が〝比嘉手〟と呼ばれとるのも頷けるで。
ほんでもって目の前の奴は、又もや蜻蛉の構えを取っとる…
さっきは偶然にも上手い具合にガード出来たけど、受けた腕がまだ痺れとる。
あんなもん何度もガードしとったら、その内に腕が使いもんならん様になってまう…
と、なると…やる事ぁ1つや!
策は決まった…さぁ打って来いや比嘉!
「お!その顔…なにかぁ策ぅ思いついたみたいね?ならぁ遠慮のぅ行かせて貰うよぅ♪」
言い終えると、比嘉の空気が変わった!
全身からメラメラとした物が立ち込めとる…
来るっ!!
俺が殺気を感じると共に気合い一閃!
奇声とも取れる叫びをあげて比嘉が飛び込んで来た!
俺は奴の手刀から目を離さず、ギリギリまで引き付けてから身を沈めた!
せやっ!定番中の定番、カウンターの低空片足タックルや!
軽くサイドステップして、横から奴の左足に抱きつく。
そんでもって肩で膝を押しながら捕まえた足を引く!
すると驚くほど簡単に、比嘉の背中がマットについとった…
〝!?…な、なんや…この違和感?なんやっけ…こういう感じを表す慣用句あったよな…?え~っと…せや!思い出した!暖簾に…いや…糠にやっけか?…まあええわいっ!〟
とにかく手応えが無さ過ぎたんや…
で、そんな事を考えとる内に、奴の両足が蔦みたいにスルスルと俺の首もとに絡みついて来たんや!
〝さ、三角締め!?こ、こいつ…〟
「アンタがタックル合わせて来るのは分かってたさぁ。だってぇ俺でもそうするもの。だからカウンターのタックルにぃ、更にカウンターの寝技を合わせたさぁ♪」
「お、お前…や、やっぱり…じ、自分から倒れ込んだんや…な?」
「そうよ~!空手がぁ打撃しか無いって思われるのも心外やかんねぇ…そもそも空手が〝何でもあり〟だってぇ所を見せてあげるさぁ♪」
「ざっけんなぁ~っ!!」
俺は上体を反らして奴の身体との密着を避けた。
すると絡まっとった足と首の間に隙間が出来、奴の三角締めは型が崩れた!
「おっしゃ~っ!!」
思わず叫んだ俺に、嗤いながら比嘉が言う…
「甘いよぅレスラー君♪」
すかさずターゲットを伸びきった腕にシフトした比嘉、アッちゅう間に腕十字を取られそうになっとった!
〝こ、こいつ…うめぇ…〟
ロープは目の前にあるけど、レスラーの俺が空手家より先にエスケープするなんざぁ格好悪いやんけっ!
そんな意地だけで手をフックさせて必死に堪える。
すると比嘉の奴、こんな事をぬかしよった!
「プロレスラーを寝技でぇ倒す空手家…いやぁ俺ぇ有名になっちゃうかもねぇ♪」
これが俺の闘志に燃料を投下したんや!
「プロレスラーを…プロレスラーを舐めんな空手屋ぁぁ~~!!」
絡みつく奴の身体を持ち上げながら立ち上がり、俺はそのままコーナーポストを目指した!
「え…?え…?ちょ…ど、どこ行くさぁ…?」
俺が奴の身体をコーナーのてっぺんに置くと、驚きからか掴まれてた腕は呆気ないほど簡単に抜けた。
そして奴の後を追う様に、俺もコーナーから生えた左右のトップロープに飛び乗ると…
「どこ行くかって?教えたるわ……天国じゃいっ!!」
叫びながら奴の首を両足で挟む様に飛び付き、そのままリング目掛けてバク宙!!
せやっ!雪崩式フランケンシュタイナーでブッこ抜いたったんや♪
不幸やったんは、奴がプロレスラーや無くて空手家やった事…
喰らった事無い技への対処がわからず、脳天からリングに串刺しなっとった。
体勢を整えて奴を見た時、奴が棒崩しみたいにゆ~っくりリングに倒れるとこやった。
で…次に見た奴の顔は、白目を剥いて口から泡を吹いとったわ。
でも何故か嗤ってたんよね…やだ怖い。
レフリーが駆け寄り、直ぐさま頭上で腕を交差させる。と、同時にゴングが乱打され、大歓声の中で俺の1回戦突破が確定したんや。




