決戦直前
対戦相手の比嘉一茶選手…
身長は170cmちょい…体重かて80kgあるか無いかって感じや。
でも小さくは見えへん…全てがゴツいから。
ムキムキのマッチョってのとも違う…
ん~…上手く説明するんが難しいんやけど、全身のパーツを全て四角で作ったら人間はこうなる…って感じやねん!解る!?
顔も四角い!身体も四角い!腕も脚も全~部が四角いねん!!
子供が落書きしたロボットみたいな印象やねん!
あ…一応言っとくけどdisっとる訳や無いで!!
むしろ褒めとるんやで!!
と、まぁ…言えば言う程に言い訳がましくなるからこの辺にしとくわ…
沖縄空手の使い手やから空手着で試合するんかと思ってたけど、上半身裸に膝上までの真っ赤なハーフタイツかぁ…なんか意外やな。
そこまでの矜持は持ち合わせとらんのか…
それとも道着着用の不利を嫌うリアリストなんか…
それよりも気になるんが表情や。
リラックスしきってるっちゅうか…
見下されてるって感じすら受ける…
いや!リアルに舐められてるんかも知れん!!
ホラ!だって今、目が合うた瞬間に鼻で嗤いよったもんよアイツ!!
グヌヌ…おのれぇ~…プロレスラーなんざぁ目や無いってか?
よっしゃ!そっちがその気ならギャフンと言わしたろうやないかいっ!!
「おい…勇…お前…今…何か興奮しとらんか?」
セコンドに就いてくれた鈴本さんに見透かされるワイ…
「だって…アイツ俺の事を舐めてんスよ…」
「舐めてる?本人に何か言われたんか?」
「いや…何か見下されてる気がするし、さっき目が合った瞬間に嗤われたんス!!」
すると鈴本さん、深い溜息と共に俺の右肩へ手を置いて…
「ええか勇…それを人は被害妄想と呼ぶんやで」
「ついでに言うなら自意識過剰…な」
もう1人のセコンド新木康夫さんも、俺の左肩に手を置きながらそない言いはった。
あ…この新木さんて人、グングニル創始者の1人でありながら若くして亡くなられた、福井崇さんの兄弟分。
障害者の部でトレーナーしながら、試合の時にはレフリーもやりはる。
因みに見た目は完全にゴリラ。
過去にも俺の周辺にはゴリラの称号を得た人物がたくさん居ったけど、この人が断トツでゴリラ。
この人こそがゴリラ。
ゴリラが平伏す程のゴリラ オブ ゴリラ。
初めて見た時は…
〝逆玉手箱の煙でも浴びたか?軽く先祖帰りしてるとしか思えんのだが…〟
って思ったもの。
俺が歴代ゴリラに想いを馳せてる間に、レフリーが俺と比嘉をリング中央へと呼び寄せた。
すると鈴本さんと新木さん…俺の肩から手を離し、それをそのまま思い切り背中に叩きつけて来よった!!
〝~~~ッッッ!!!〟
余りに突然の衝撃と痛みに、俺は声にならない呻き声をあげる。
そして歯を食い縛った表情のまま2人の方に振り返ると…
「やって来た練習を信じて行って来い!」
「絶対に勝てる!出来る子や♪」
2人とも凄ぇ良い顔で俺を見てやがんの。
ズルい…あんな顔見せられたら文句なんて言われへんがな。
俺は笑顔で親指を立てて見せ、直ぐ様リング中央へと向かった。
背中では紅く色づいた2枚の紅葉が、ズキズキと鈍い痛みで俺を後押ししてくれてたんや。




