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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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ガヤ芸人

試合まで2週間となった追い込みの時期。

ラスト1週間はクールダウンに使うんで、実質キツい練習はあと1週間や。

それにしてもティラノの参戦かぁ…

どういう経緯でそないなったんやろか?

そもそも出場するには所属団体の推薦が必要な訳やろ…って事はセレクトが勝算を見越してティラノを推して来たって事や。

格闘路線で行けそうな選手は他にも()る…

にも拘わらずティラノを推薦した真意が読めん。

出場選手が決まってからは、練習中もずっとその事が頭の片隅にこびりついとるんや…

ティラノ…しつこい油汚れみたいな奴っちゃでホンマ。まぁ…実際、アイツは〝汚れ〟やけどな!ハハハ♪

いや!アカンアカンッ!とりあえず今は練習に集中やっ!!

俺は脳内に油汚れに強い洗剤を分泌させて、ティラノを思考から根こそぎ消し去った。


今日は鈴本コーチが所用で居てはらへん。

だからって練習に手を抜く俺や無いで!

よっしゃ!サンドバッグ打ち3分5R行ってみよ~っ!!

パンチンググローブを嵌め、タイマーをセットして…と…


「フンッフンッ!シッ!シッシッ!シュシュッ!!」


俺の息を吐くリズムと弾かれたサンドバッグの打撃音…更にサンドバッグを吊るす鎖の金属音が重なって、なんや音楽を奏でとるみたいや♪

それが俺をトランス状態に連れてってくれたみたいで、不思議な事に全く疲れへん。

よし!ラスト1R!

最後は足を止めて打ち合いになった時のシミュレーションや。

俺は重心を低く保ちながら、空手の正拳突きっぽい打撃を連打する。

やっぱ空手っぽい打撃なら呼吸音も変えんとな…


「セイッ!セイッ!セイッ!」


「Hey Yo~!」


俺の掛け声に重ねて聞こえて来るチャチャ入れ…

暫くは我慢したけど、あまりにしつこいんで思わず手を止めてしもた!


「あのなぁ…俺が言ってんのは〝セイッ!〟であって〝Say!〟やあらへんねんっ!」


「そんなツレない事言いっこ無しだぜMe~n!」


「何がMe~nじゃ…うっせぇよ…うっせぇよ!!」


大事な事やから2回言うたったわ!


こいつの名前は加賀谷(かがや) 祐太郎(ゆうたろう)…通称〝ガヤ〟

俺もグングニルで暫くお世話になってる間に何人かは仲のええ奴が出来たんやけども、コイツもその内の1人や…

直ぐにチャチャ入れて来よる…いや!チャチャ入れな気が済まへん…い~やっ!チャチャ入れな死ぬんちゃうかってレベルのガヤ芸人みたいな奴や。

でも今日はまだマシやで…

コイツの相方みたいな奴で沢木(さわき) (たける)ってのが居るんやけど、そいつは今日休んでるからな…騒音も半分で済んでるんやから。

〝ガヤ言うたろう〟と〝騒ぎ立てる〟のコンビ…揃ったらどんだけ五月蝿いか、想像しただけでゾッとするやろ?

しかし…名は人を表すって言うけど、コイツらの名前は出来すぎとるな…


「あのよー…俺はあと2週間でビッグマッチな訳よ…マジで邪魔せんといてくれるか?試合終わったら幾らでもお前のクソしょ~もないギャグにも付き合ったるからよ…」


「あ!テメェ俺の芸人としてのプライドを傷つけたな!?も~勘弁ならねぇ!こうなったらお前が爆笑するまで俺はギャグをやめない!」


「おい…ジョ○ョの〝君が泣くまで僕は殴るのをやめない〟みたいに言うなや!てか…お前芸人ちゃうやんけ!!ったく…」


相手する時間が勿体ない…

気持ちを入れ直した俺は、コイツのせいで邪魔された最終ラウンドを最初からやり直す事にしたんや。

(〝セイッ〟やと又このアホがチャチャ入れて来そうやから…掛け声を変えなアカンな…よっしゃ!ならコレで行こ♪)


サンドバッグ前に立ち…腰を落とし…

気合いと共に正拳のラッシュを打ち込む!!


「セイヤッ!セイヤッ!セイヤ~ッ!!」


「聖闘○…」


「セイヤッ!」


「少年はみ~んなぁ~♪」


「………」


「さてはその正拳ラッシュ…ペ○サス流星拳やなっ!?」


「テメェ!ブッとばす!!」


俺は奴をソッコー取っ捕まえて、ビクトル投げからの膝十字に極めてやったわ!

てか…アレ…?こんなスムーズに技を極める事が出来るって…もしかして…俺…強くなってる!?


「君の前・○・前世から僕は♪」


「いや!もしかして入れ代わってる!?じゃ無くて、もしかして強くなってる!?やから!!

てか、心の中で呟いた事にまでガヤるなっ!!」


こうして面倒な事になりながらも、今日の練習も無事に消化しました。

あ、因みに…判ってるとは思いますが、このアホが爆笑を取る事は最後までありませんでしたとさ!チャンチャン♪



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