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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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首刈り

ダウンは喫したけど意識は鮮明や…

鈴本さんの体重が軽くて救われたわ。

レフリーを務める下條さんがダウンカウントを進める。

俺は焦らず、たっぷりカウント8まで心身を休ませた。

カウント9で立ち上がると同時にファイティングポーズを取る。

下條さんが俺の視点を窺いながら訊いて来た。


「やれるか?」


〝やれるから立ったんじゃいっ!!〟

腹ん中ではそない思いながらも黙って頷く。


「よし…なら再開!ファイッ!!」


残り3分…

再開と同時に仕留めに来るかと思ったけど、鈴本さんは俺の出方を見とる…案外慎重やな。

まぁ俺からしたら助かる話やけども。

膝蹴りのダメージは大した事あらへんけど、ガードし過ぎた両腕のダメージは深刻や…

あとは体重が乗っとる時にローを貰った右足もヤバい…な。

このままの流れやと、レスラーの武器であるタックルと関節技が使えん様になってまう。

短期決戦…しかも接近戦を仕掛けん事には勝ち目あらへんな…

俺は攻め手を決めると、カラカラに乾いた唇を1回舐めた。


「ウッシャッ!」


気合いを吐きながら右の前蹴りを放つ!

鈴本さんがコレを難なくガード…

が、これはフェイントやっ!!

そのまま蹴り足を深く踏み込んでタックルに移行!したものの…

ア、アカン…やっぱまだ体重が乗り切らん…


「フンガァ~ッ!!」


崩れ落ちそうになった身体を無理やり浮き上がらせると、タックルとは違う形とは言え何とか組み付く事には成功した。当初の目的とは違うけど、まぁ結果オーライや。

ほぼクリンチ状態のまま鈴本さんの耳元で囁く…


「へへへ♪やっと捕まえたっすよ…鈴本さん」


すると鈴本さん…


「イヤン…怖ぁ~い…と俺が言うとでも?」


「ま、言わんでしょうね!」


そんなやり取りの最中も、互いに脇を差し合って有利なポジションを取ろうとしとる。

流石にやるなぁ鈴本さん…組技も素人や無いんやし当たり前か…

そう思った時、上手い具合に鈴本さんの左脇が開いた!


〝チャ~ンスッ♪〟


すかさず右手を差し込み、がっちり背中側にフックさせる。

そして投げを打とうとした瞬間やった…

鈴本さんが右足を1歩下げながら、身体を時計回りに開いたんや。

すると脇を差してたはずの俺の右腕が、逆に(かんぬき)みたいに極められる形に…


〝あ、やべ…〟


このまま倒れてしもたら脇固めに極められる!

俺は前傾姿勢にされたまま何とか倒れん様に踏ん張った。


「へえ…頑張るやん。でも残念やな…このまま勝負決めさせて貰うで」


そう言った鈴本さんが俺の右腕を取ったまま、前傾姿勢で低くなった俺の顔面に右の蹴りを放って来よった!

優しい顔してエグい攻めしよるな…

俺は頭を下げて蹴りをやり過ごした!

蹴り足が頭上を通り過ぎたのがわかる…


〝よっしゃ!しのいだ!〟


と、思ってた…

ところが顔を上げた瞬間、俺の目に映ったんは迫り来る鈴本さんの〝左ふくらはぎ〟やった。

つまり鈴本さんは俺の腕を取ったまま、右の蹴りから左の後ろ回し蹴りに繋いでたんや。

今度は頭を下げようにも間に合わへんっ!

せやけど鈴本さんも不完全な体勢での仕掛けや…威力は大した事無いはずっ!

顎引いて歯ぁ食い縛れ!俺!

俺は衝撃に備えて〝覚悟〟を固めた。

ところが…


〝ポフッ!〟


衝撃どころか、優しさすら感じる感覚が俺の首元にまとわりついた…

そう、冬の日にマフラーを巻かれたような…

戸惑う俺の視界がどんどん上を向き、天井が見えると同時に右肘が電流を流された様な痛みに襲われた。


「ガアァァァ~~~ッッッ!!!」


鈴本さんは後ろ回し蹴りの型に入ったけど、狙いは蹴りによるダメージや無かったんや…

狙いは蹴り足を喉元に絡ませて俺の身体を倒す事。そしてそのまま倒れれば自然と腕ひしぎの型になるって寸法や…

完璧に極った関節技は耐える事も逃げる事も出来へん…

俺はエスケープを狙う事すら叶わず即座にタップしとったんや…首に絡まる鈴本さんの左足を何度も…何度も…


「そこまで!!」


レフリーの下條さんが俺達の身体を引き離し、俺はようやく苦痛から解放された。

息も絶え絶えに鈴本さんへ問う…


「な、なんすか今の技?…あんな腕ひしぎの入り方は見た事無いっすよ…」


「ああ…そうやろな…あれはサンボの技でな…首刈り式腕十字…確かそんな名前やったと思う」


「サンボ…首刈り式…ど、どこでそんなん覚えはったんすか?」


「自分も受付カウンターの写真見て知ってるやろ?若くして亡くなった福井さんて人の事…」


「ええ…大作さんの兄貴分て方っすよね?」


「あの人、若い頃に世界中あちこち回っててな…ロシアでコマンドサンボを体得してたんよ。で、当時の会員全員にその技を教え込んでな…今のもその時に習った技や」


「コマンドサンボ!マジっすか!?く~っ!その当時に入門したかった!!」


そんな会話をしていると、いつの間にか大作さんがリングサイドでニコニコしとった。


「よう少年!こてんぱんにヤラれたみたいやな♪」


「ほんまっすよ…新人虐めで訴訟案件っすわ」


「ハハハ♪勘弁してくれや!うち貧乏団体やねんからよ!代わりと言うたら何やけど、ええ情報持って来たからさ!」


「ええ情報…何すか?」


「これや♪」


大作さんがファイルを手渡して来た。

それを開くと企画書らしき物が挟まれてて、そこにはこない書かれとった…


「総合格闘技トーナメント〝武人(もののふ)〟」と…







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