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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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初スパーリング

鈴本さんが近くに居た会員を2人呼び寄せる…


「今から不惑くんとスパーやるから下條くんはレフリー、小柳津くんはタイムやってくれる?

ルールはロストポイント制公式ルールで時間は5分…ええか?」


「うすっ」


「了解です」


先輩お2人が準備を終え、いよいよ初スパーの始まりや…

スパーやから一応ヘッドギアとレガースも着用しとるけど、ダメージが〝0〟になる訳や無い。

前の試合を観る限り、鈴本さんは打撃が得意なはずや…リーチもかなり長い。

気をつけんとな…

鈴本さんがマウスピースを咥え、俺もそれに倣う。

そしてレフリー役に指名された下條さんが、俺達をリング中央に呼び寄せた。


「じゃあ始めるっすよ…準備はいいっすね?」


俺も鈴本さんも無言で頷いた…

その直後にゴングが鳴る。

気付けばリングの周りには会員達が集まっとった。その視線の殆んどが俺に向けられとる…

容赦ない好奇の矢がブスブス刺さる…

しかぁ~しっ!今はそんなん気にしとられん!

目の前の鈴本さんに俺の力を示すだけやっ!!


鈴本さんはアップライトに構え、軽快なステップを踏んどる。

更に時々構えをスイッチさせ、俺を惑わせにかかる。

総合ルールとは言え、打撃に全振りした動き…

自分の長所を活かす闘い方。

ロープエスケープが有るからこそ出来る事やな。

俺はとりあえず頭部だけをがっちりガードしながら、常に鈴本さんを正面に捉えられる様に動く。

手は拳では無く開いておく…もちろん即座に捕まえられる様にや。


「どした?これは君のテストみたいなもんやで?君から仕掛けて来たらどないや?」


ピョンピョンと跳ねながら鈴本さんが言う。

あからさまな挑発…


「その手には乗らんすよ♪体重差が大きい以上、アンタはカウンター狙いっしょ?俺から動くんは不利っすから」


「お?流石にバレとるみたいやな…なら俺から行くかぁ…」


鈴本さんのステップが止まったと思った刹那、ガードしてる俺の腕を衝撃が襲った。

飛び込みざまの左ジャブ!

流石に速い…が!威力的には大した事あらへん。

直撃ならまだしも、ガードの上なら恐れる必要は無い。

そう踏んだ俺はガードを固めたまま前へ出た。

もちろん組みに行く為や!

ところが…止まらへん…鈴本さんの連打が…

ジャブ連打から左右のフック、ストレートやアッパーまで!それら全部がガードしてる腕を狙って放たれとる!!


〝こ、この人…腕を殺しに来やがった…〟


痺れる腕が限界に近づく…

このままやとガードが弾かれて直撃を貰ってまう!

そう危惧した俺は、パンチを潜ってタックル狙いへ!!

まさに移行しようと右足に体重を移したその時、タイミングを見計らった様な奥足へのローキックが俺の太腿で爆ぜた。


〝う、上手い…!〟


足の力が抜け、腰が落ちそうになる…

しかしそれを何とか堪え、左足に体重を移行させてタックルの動きを続行する。

しかし…

その時にはもう鈴本さんの姿は視界に無かった。

さっきのダメージで体重のかからへん俺の右側へ回り込みながらの右ミドルキック!

咄嗟にガードは間に合ったがもうアカン…

腕が上がらへん…

腕は垂れさがり、左足にしか体重のかかってへん案山子(かかし)みたいな俺に、鈴本さんは容赦無い一撃を叩き込んで来た…

右ローキック!俺の左足をも殺しに来たんや!!

喰らったらヤバいっ!

左の脛を上げてガードする為、右足に体重を移す。

が、やはり未だダメージは回復していなかったらしく…腰がガクンと沈んだ。

膝をつきそうになったが、鑪を踏んでそれを堪える。


しかし鈴本さんもその機を逃す訳は無く…

位置の下がった俺の顔面に容赦無く膝を突き刺したんや…

鉄臭さが鼻に広がる…

そしてそのまま仰向けに倒れた時、タイムを計ってる小柳津さんの声が聴こえた。


「2分経過!残り3分です!!」


俺はジムの天井を眺めながら、こんなことを考えてた…

〝え?まだ2分…?あのウォッチ…サバ読んでない?〟





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