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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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天使と悪魔

そそぐちゃんと大作さんを会わせた疲れから

〝軽く玉手箱の煙を浴びたんちゃうか?〟って位に老けた俺やったけども、休憩明けの激戦の数々は俺に若さを取り戻させるに充分な内容やった。


・現役の修斗ランカーvsブラジリアン柔術王者

・パンクラシストvsUFC出場選手

・元力士vs現役プロレスラー


等々…そのバラエティーに富んだカード編成は、まるで格闘ゲームの世界みたいでワクワクさせられたわ。

で、いよいよや…

いよいよお目当てのメインイベント、柔のタイトル挑戦の時がやってきた…


人気があるとは言え新興団体でもある

〝バレット〟が、初めて各階級のチャンピオンを決めるトーナメントを開催してたんやけども、柔はそれを勝ち上がり今日を迎えた訳や。

しかもこのトーナメント、完全に水面下で行われてたんや。

いわゆる〝ノーピープル マッチ〟やな…

観客の居ない場所で、関係者だけの前で(おこな)ったんやとさ。

だから俺も柔から告げられる迄、王座挑戦の事を知らんかった訳やけども…

普通に考えたら有り得ん話よな?

興行的にも1回戦から客を入れてやった方が盛り上がるやろぅに…

まぁその辺の意図は俺には解らんけど、とにかく柔は〝(いただき)〟に王手をかけた訳や。


柔が挑むのはミドル級…76kg~83kgの契約。

せやけど昔の柔は72~73kgしかあらへんかった…本来なら1階級下のウェルター級や。

つまりは増量して階級を上げた訳やな。

え?なんでかって?

………多分……

俺と()る時の事を見据えて…やろぅな。

アイツが昔のアイツや無い様に、俺も昔の俺や無い。今の俺は100kg前後…立派なヘビー級や。

アイツの骨格でいくら頑張ってもヘビーの身体は作られへん…なら少しでも近づけようと増量したんやと思う…あくまで俺の勝手な予想やけどな。


勿論ヘビー級とミドル級で試合は成立せぇへん。

せやから俺達が()る時には、俺も減量を強いられる事になるやろな。

まぁそれはあくまで未だ先の話!

今はアイツの勝利を願うだけやっ!

そう考えた時やった…

俺の胸の奥が〝トクン〟と鳴った…

頭の中でもう1人の俺が問い掛けて来る…


〝ほんまか?お前はほんまに柔の勝ちを心から願えてるか?〟


〝どういう意味やねんっ?当たり前やろがっ!〟


〝ほんまはもう少し待ってくれ…そない思っとるんちゃうか?俺は未だ何も成せとらへん…だから先先(さきさき)行くな!…それが本音と違うんか?〟


〝なっ…!〟


〝図星みたいやなぁ♪そりゃそうよなぁ…今のお前は単なる新人レスラーの1人でしかあらへん…未だ何者でもあらへんもんなぁ?…焦るよなぁ?…心中察するで♪〟


「黙れ黙れ黙れっ!!」


気付けば俺は声に出して叫んどった…

その異様さに周りの人達が、怯えた視線を容赦無く突き刺して来てる…

それらにブスブス刺されながらも俺は…

〝最初に心の中の天使と悪魔を考えた人って凄いよな…〟

そんなアホな事を考えとったんや。


「ちょ…どないしたんよっ!?」


流石のそそぐちゃんですら驚きを隠せへんらしく、弱冠引き気味で訊いて来よったわ…


「あ、あぁ…ゴメン…少しウトウトしてもぅてな…嫌な夢見たもんやから…」


「……大丈夫?」


「あぁ…ほんまにゴメンやで…」


項垂れる俺の手に、そそぐちゃんの手が重ねられた。そして…


「先の事を考えて焦る気持ちは解る…でも先の事ばかり考えるのが正しいかって言うたら、それは違うと思うで。今アンタがすべき正しい事は、本気でチャラ男の勝ちと無事を願う事や…アンタがほんまに親友なんやったら…ね?」


今まで彼女には数え切れん位に殴られて来たけど、それらを遥かに凌駕する程この言葉は効いた…

俺を理解してくれてる嬉しさと、心を見透かされてた気恥ずかしさ…

何より自分の器の小ささが自分自身恥ずかしかった…

でも彼女のお陰で目が覚めた!

そうや!焦ってもしゃあない!

俺は俺のペースでアイツに追い付く!

今はアイツの努力が実る事を願うのが、親友としての俺の役目や!!


「せやな!ありがとうな!」


俺は礼を述べ、彼女が重ねてくれた手の上に更に自分の手を重ねた。


前にも言ったけど、俺はある決意を固めとる。

それが柔と闘う最短ルートになると自分では信じとる。

正直リスクもあるし、怖ぁ無いって言えば嘘になる…

せやけど、足踏みしても歩いても同じ様に靴は減るんや…

なら俺は少しずつでも前に進んで靴を減らしたい。


そんな事を考えてる間に、柔の入場テーマ曲が流れ始めたんや。


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