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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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魔の休憩時間

グングニル・障害者部門のエキシビションマッチ…

頚椎損傷により右腕の麻痺を抱えている嶋田(しまだ) 晃輝(こうき)選手と、事故で左腕の肘から先を欠損した高木(たかぎ) 圭一郎(けいいちろう)選手…


凄かった…

両者共に凄かった…

それしか言えへん。

もともと言葉の引き出しが乏しい俺やけど、完全に語彙力が殺される程に感動した。

僅か10分だけの晴れ舞台やけど、本戦に挑んでるかの様に全力を出してはった。

嶋田選手の右腕は、折り畳まれた状態で固まってる…

高木選手の左腕は肘までしかあらへん…

それでも全力で…本気で…相手を殴り、蹴り、投げ、抑え、極めようとしてた。

その様子は観客の心を動かすんに充分やったらしく、エキシビションの間はずっと大歓声が惜しみ無く送られとったわ。

よくエキシビションの事を〝白黒つかへん勝者無き闘い〟なんて言う奴もおるけど、試合終了時に誰かが飛ばした声…

〝どっちも勝ちやっ!!〟

この言葉がこのエキシビションの全てを物語ってる…そない思った。


「どないやった?」

そそぐちゃんに訊いてみる…


「……なんか、さっきまでの自分が恥ずかしいわ…私なんかが感想言うのも烏滸(おこ)がましい気がして…何も言われへん…」


「そっか…でも今から大作さんに会うんやし、絶対に感想求められるで?そん為の答え…1つくらいは考えとかんとなぁ」


「ん…じゃあ一言だけ伝えるわ…神々しかった…って」


「神々しい……ほんまソレよな!言い得て妙やと思うわ!!」


「誰が〝良いエテ公〟やっ!人がしおらしくしとる思て、どさくさ紛れに悪口言いよったらイテまうどゴラァッ!!」


「……」


〝良いエテ公〟では無く〝言い得て妙〟である事、ならびにその意味を彼女に教え終わったところで休憩時間となった。

いよいよ大作さんに会う訳やけども…その前にっ!


「ええか?そそぐちゃん…思った事を直ぐ口に出さんと、言うても大丈夫な事か一旦は頭で考える事!」


「でしっ!」


それ…アカン子がする返事…

通称〝バカはい〟ですやん…

一抹の不安を抱えながらも大作さんのもとへ…


「お疲れ様です!」


「お~っ!来てたんか!プロレス界期待の新人♪」


「いやいや!やめて下さいよ~」


「謙遜しなさんなって♪で、そちらの別嬪(べっぴん)さんは?」


「やだ♪別嬪やなんて!大作さんたら噂通り正直な人やわぁ♪」


そう言って舞い上がったそそぐちゃん、事もあろうか大作さんの左腕辺りをバンバンと叩く…

しかし自分が〝やらかした〟事に気付いたらしく…


「あ!私ってば初対面で何て事を!!ゴ、ゴゴゴ…ゴメ…ゴメ…ゴゴゴゴゴッ…」


そそぐちゃん…先ずは謝る事に慣れよっか…

(ども)り過ぎて、スタンド出て来る時の効果音みたいになってるから!


「ハハハッ!気にせんときぃ!元気があってええやん!しかもなかなかのパンチ力やな自分♪」


大作さん…流石の人間力っす…感謝!


「えっと…この子は毒島そそぐさんといいまして…僕の…まぁ…その…彼女…的な…」


「的ってなんやねんっ!的って!ハッキリ言うたらんかいっ!!」


「そそぐちゃん…一回頭で考える約束…覚えとる?」


「あ…」


このやり取りを見て大作さんが腹を抱えて笑う…

そして一頻り笑った後で涙を拭きながら…


「なんや自分ら、俺に会うからって色々申し合わせて来たんかいな?そんな気を使わんと自然に自然に♪てか…君があの毒島そそぐちゃんかぁ!朝倉から色々と聞いとるけど、ほんまにそのまんまやなぁ!ハハハ♪」


「あのボケェ…やっぱ良く無い事を色々吹き込んでたんですね!帰ったらシメたらなアカンな…」


「いやいや、素直やし格闘技のセンスもズバ抜けとるっていつも褒めとるで!まぁ…元気過ぎるって嘆いてもおったけどな…ところでうちのエキシビション観てくれたんか?」


「もちろんっス!」「もちろんです♪」


「どないやった?よければ感想聞かせてくれるか?出場した2人にも伝えたいし」


ここでは俺が先に答えて、そそぐちゃんに一回頭を整理する時間を与えねば…


「俺、アホやから言葉の引き出しが少ないんスけど…更に語彙力が消されるくらいに凄かったとしか…すいません月並みな事しか言えんで…」


「いや、ほんまに美味いもん食ったら〝美味い〟しか出て来んし、ほんまにおもろいもん見たら〝おもろい〟しか出ぇへんもんや…だからそれは最上級の感想やで、ありがとな!」


大作さんの視線がそそぐちゃんに移る…

さあ、そそぐちゃん!落ち着いて一言、〝神々(こうごう)しかった〟って言えばええだけやから!そう心で強く念じた時、ついに彼女がその口を開いた!


「香ばしかったです」


「…はい?」


いや、そうなるわな大作さんっ!

香ばしいって何やねんっ!!

しかも言うた本人が言い間違った事に気付いて無いしっ!!

よし…ここは俺の手助けが必要やな…

俺は彼女の脇腹を肘でつつき小声で…


〝神々しいやろ!今、香ばしいって言うてしもてたで!〟


まさか時代遅れの〝船場吉兆〟ごっこをするとは思わんかったけど、これでようやく過ちに気付いた彼女、笑えるくらいに取り乱しながら…


「あぁぁ~っっ!すいません!!言い間違えですっ!!!香ばしいや無くて、神々しいって言いたかったんですぅぅぅ~~っっ!!!」


「あ、あぁ…なるほどな!おかしい思たわっ!しかし君は噂に(たが)わぬジャジャ馬ぶりやなぁ♪ちゃんと乗りこなしとる勇くんは凄いで!」


これを聞いたそそぐちゃん、何を勘違いしたのか顔を赤らめながら…


「そ、そんなぁ…まだ数える程しか乗せてませんってば♪」


ド下ネタやないけっ!!


その後も冷や冷やしっぱなしの休憩時間が終わり、ようやく席に戻れた時には疲労困憊…

どれくらい疲れたかって?

座席に深々と身を沈めた俺が、そそぐちゃんに発した第一声がコレだもの…


「俺…白髪と化してない?」



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