林田の謎
お互いに名乗りを終えて、いよいよ臨戦態勢に入った俺達。
相手は素人とは言え喧嘩屋…
一応、軽く構えを取って様子を見るか。
(コイツがただの喧嘩屋なら組技なんか使われへんやろ、打撃一辺倒…それもパンチがメインで来るはずや)
そう考えた俺はあまり重心を落とさず、軽いステップを踏みながら両手を目の高さまで上げた。
林田はと言えば、仰け反ってると言ってもええ位に背筋を伸ばし、右手をポケットに突っ込んだまま顎を突き出しとる…
まぁ絵に描いたようなチンピラスタイルやな。
しかし喧嘩が始まったっちゅうのに、片手をポケットに入れたままて無防備にも程があるやろぅよ…ヤル気あるんかいや?
しかも上向きに突き出したその顎、狙ってくれって言うてるようなもんやで…
コイツ、ほんまに喧嘩屋か?
俺の怪訝な視線に気付いたらしく、林田が挑発なんぞして来よった。
「どないした来んのかいっ!?怖いんかいやぁ~…ったくしゃあない奴っちゃのぅ♪ほんならこれでどないや?」
そう言うと、あれだけ伸ばしとった背筋をほぼ直角にまで折って見せ、舌を出したチャラけた顔をユラユラ揺らしとる。
そのふざけた顔は今、丁度殴りやすい高さにある。
いや…
コイツがわざと俺が殴りたくなる高さに持って来たんや。
なんでか?
当然、そこに罠を張っとるっちゅう事やろな。
それが何かはわからへん。
せやけど、俺から仕掛けん事にはどうにも動かんつもりらしい…
(………………………)
えぇいっ!考えとってもしゃあないっ!!
こうなったらお前の罠とやらに飛び込んだろやないかっ!!
俺は後ろ足のヒラメ筋に力を溜めると、一気にそれを解放した。
地を蹴り、電光石火で懐へと飛び込む!
そんでそのムカつく顔にワンパンで決着やっ!!
と、その時、林田の右手がポケットから抜かれるんが見えた。
(カウンター狙い…?)
フフン♪甘いでぇ林田…身長も体重も俺の方が勝っとるんや、このまま強引に行かせて貰うでっ!!
すると案の定、奴はその右手をフック気味に横から振って来よった。
構へん構へん♪
たとえ相打ちになったところで打ち勝つんは俺やっ!
ほぉら!顔面頂きっ♪…
(あ、あれ…?)
確かに奴の顔面に拳は当たった…
せやけど全く手応えがあらへん…
それどころか、なんやこの衝撃?
ギリギリでガードを捩じ込んだけど、ガタイで勝る俺の方が弾き飛ばされたやんけっ!?
それで打ち抜けんかったから、手応えを感じんかったっちゅう事か…
でも何でや?
ありえんやろ…
細身のコイツに俺よりパンチ力があるなんて…
弾かれながらも体勢を整え、追撃に備えて構え直す。
が…
奴はそれ以上打って来ず、またポケットに右手を入れて突っ立っとる。
相変わらずニヤニヤしながら…
く~っ…ム・カ・つ・くっ!!
しかし絶好のチャンスやったのに、何でコイツは連打して来ぇへんかったんや?
ほんでもって何でまたポケットに手を入れとるんや?
先ずはその謎を解く必要がありそうやな…
よっしゃ!ほんなら…
俺はその秘密を暴こうと、ある作戦を実行に移す事にした。




