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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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躾(しつけ)

今大会における目玉の1つであり、前半の山場とも言うべきカード…


〝ムリーロ・ロドリゲス〟

vs

〝ジョン・クランシー〟


メジャー団体でも活躍する両者がついに激突するという事で、メチャクチャ注目されとったんやけども…結果は想像以上に呆気なかった。


1R、ロドリゲスが開始と同時にワンツーを放つと、驚いた事に右ストレートがクリーンヒット!

これでクランシーが、一瞬だけ(たたら)を踏んだんや。

それを見たロドリゲス、勝機やと思たんやろなぁ…一気に勝負を決めようと低空タックルに行ってしもたんや。

ところがクランシーにダメージは殆んど無かったらしく、そのタックルに綺麗~な膝を合わせたんよ。これがロドリゲスの顔面に突き刺さり、一撃KOで決着。


しかしロドリゲスは勿体ない事したよなぁ…

タックルなんか狙わんと、あのままパンチの連打で行ってたら勝てとったかも知れんのに…

まぁ…フィニッシュは1番得意な組技でって気持ちも解らん事ぁ無いよ?

この大舞台で色気出したくなるのも解る。

でもあの流れはどう考えても打撃でしょうよ!

てか…ボクシング経験者のクランシーを打撃で倒してた方が話題にもなったやろよ!!

色気の出し方…間違えよったな…

かぁ~っ!勿体ないっ!!


で…今リング上ではチビッ子空手家達の演武が行われてて、その後は大作さん率いる格闘技団体〝グングニル〟から、障害者部門のエキシビジョンマッチが1試合組まれとる。

それが終われば15分間の休憩に入るんやけども…

この休憩で、そそぐちゃんを大作さんに会わせなアカンのかと考えると気が重い…

ホラ!そそぐちゃんの目が既に輝いてるもの!!

散歩の時間が近くなってきた時のワンコみたいになってるもの!!

残像が残る勢いで尻尾振ってるのが俺には見えるもの!!

あ、やべ…目が合ってしもた…

なんやめっちゃご機嫌な顔なってますね…

逆に怖いんですけど…


「なあなあ~?もう休憩までの間に試合は無いんやろ?それやったら今から挨拶行ってもええんちゃうかなぁ~…なんて思ってるんですぅ私ぃ~♪」


忙しなく瞬きしながら、猫なで声でアピールして来るけども…

俺の答えは…


「アカンッ!ちゃんと休憩まで待ちぃっ!!」


そそぐちゃん、大魔人よろしく途端に不機嫌な表情へと早変わり…


「なんやねんっ!ケチィ!本戦でも無いエキシビジョンやろっ!?ならええやんけっ!!」


この言葉には流石に俺もカチンッと来た。


「オイ…コラァ…今の台詞もっぺん言うてみいや…」


「え…いや…あの…」


口調の変わった俺に、そそぐちゃんがたじろいでるのが判る。


「本戦やろうがエキシビジョンやろうが、選手にとっちゃ日頃の成果を見せる為の大事な場所やろがっ!?ましてグングニルの障害者部門は、そういう機会が健常者ほど多く無いねん…尚更大事な場所やって事くらい解るやろがっ!」


「い、嫌やなぁ…じょ、冗談やんか!冗談!!」


「なら…その冗談…グングニル代表、大作さんの前でも言えるんやの?貴方のところの障害者マッチ、本戦じゃないし興味無いですわ…そない言えるんやの?」


「い、いや…それは…」


「これだけは言うとくぞ…ある程度の我が儘は笑って見過ごして来たし、これからもそうするつもりや。でもな…筋目の通らん事や度の過ぎる無礼は絶対に見過ごさんからのぅっ!そこはキッチリ躾るからそのつもりでおったれやっ!!」


「わ、わかった…」


「なら先ず、自分が悪かったこういう時は何て言うんやっ!?」


「ご、ご…ごぉ~…ごめ…ごめ…ご、ごめ…ごぉ~…」


謝り慣れてないから、どもり過ぎて〝ボンチおさむ師匠〟みたいになってますやん…


「自分が悪い時に素直に謝られへん様な子を、俺が大作さんに紹介出来ると思うか?謝らへんのやったら…」


「ご、ごめんなさいっ!わ、私が悪かった…でも誤解せんといてな?大作さんへの紹介がどうこうで謝ったん違うで…ほんまに悪かったと思ってんけどさ…人に謝り慣れて無いから時間かかっちゃって…」


「解りゃええんよ…解りゃ…」


「怒ってくれてありがとう…」


「え…?いや、うん…まぁ…」


珍しくしおらしい彼女に今度は俺が戸惑ってまう…


「流石は私の彼氏やなって…ほんまに感心した。だから今日は会うの諦めるわ!アンタが自ら私を会わせたいって思えた時、その時こそ紹介して!早くそう思って貰えるように私も頑張るし!」


「そっか…なら…あと30分くらい待ってくれな」


「え…?」


「今のそそぐちゃんなら胸張って会わせられるからさ…休憩入ったら会いに行こ?感想を伝える為にもエキシビジョン、しっかり観とかんとなっ♪」


「…うん♪」


こうして再びリングに視線を移した時、グングニル障害者部門の選手が入場してくるところやった。

エキシビジョンやから格上も格下も無く、同じ曲で同時に入場という形が取られている。

照明の落ちた花道に現れたシルエット…

それは異形ながらも雄々しく、曲の壮大さも手伝って強く逞しく映ったんや。

まさに入場曲のイメージ通り…

〝威風堂々〟とした2人が、誰の手も借りずに自力でリングへと足を踏み入れた。










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