関係者招待席にて
今、俺は神戸ワールド記念ホールに居る。
勿論、柔の王座挑戦を見届ける為や。
流石は人気上昇中の格闘技イベント「バレット」
当然会場は満員札止め!!
しかし、それよりも…
柔の奴から貰ったチケット…
こともあろうか関係者招待席!
周りは格闘技界の有名人だらけで俺がガチガチに緊張しとる中、そそぐちゃんは隣でキャッキャ言うて騒いどる…
「なぁなぁ見てっ!あそこに座っとるん修斗の世界ランカー中谷一哉選手ちゃうんっ!?
うわっ!こっちはグングニル代表の福田大作様やんっ!!」
あ、案外ミーハーなのね…なんか意外…
てか、大作さん来てはるんやっ!?
なら挨拶行っとこかなぁ…でも俺の事なんか覚えてくれてはるやろか?
そんな事を考えているとそそぐちゃんが…
「アンタ…さっきから何を1人でブツブツ言うとるん?病気か?脳の病気なんか?」
脳の病気て…相変わらず口が悪い…
「いやいや!そんなんちゃうよ…ただグングニル代表の大作さん、1回お会いした事があるからさ、やっぱ挨拶しといた方がええかなぁ…って考えてたんよ」
「えっ!!マジでっ!?福田大作様と面識あんのっ!?」
福田大作〝様〟?
「え…うん…まぁ、1回会っただけやし面識あるって程や無い…それに俺の事なんか覚えてへんやろからなぁ…」
「アホゥッ!なら今すぐ挨拶行って思い出して貰わんかいっ!!そんで私の事も紹介したれやっ!!」
い、いつに無く口が悪い…いや…これが通常運転か…
「ちょ、ちょう待ちぃな!てか…何でそんなに興奮しとるんな!?」
「そんなん決まっとるやろっ!!大ファンだから!理由…それ以外におありかな?」
でしょうね…
火のついた彼女がここから更に畳み掛ける!
「私が格闘技をやろうって思った切っ掛けの人やねんっ!神戸サンボーホールでのグングニル旗揚げ戦を観て、私の中で何かが弾けてんっ!だからそれ以降ず~っと憧れの人やねんっ!ず~っと会ってみたいと思っとってんっ!!」
グイグイと距離を詰めながら語る彼女に圧倒されつつも…
「わ、わぁった!わぁったって!でもさ…それならそそぐちゃんの所属する〝烏合衆〟代表の朝倉さんに頼めば会わせて貰えたんとちゃうん?あの2人めっちゃ仲ええらしいやんか?」
するとそそぐちゃん…右の拳で自分の左手を叩きながら、苦々しい顔で吐き捨てる様に言いよった…
「それやねんっ!それがムカつくねんっ!!あのボンクラァ…何回会わせてって頼んでも〝ん、また今度な…〟ってはぐらかしよるねんっ!ど~も会わせるのを避けとるフシがあるんよなぁ…」
朝倉さん…賢明な判断かと。
「で、そそぐちゃんは大作さんの何処に魅力を感じたん?やっぱ世間で言われとる様に太陽の如き人物像?」
「ん、まぁそれもある。でも何より…」
「何より?」
「顔がめっちゃタイプやねん♪まさに理想!」
そ、それを彼氏の前で平然と言える君はやっぱ凄いわ…
「でも残念ながら大作さん彼女おるで?」
「そんなんわかっとるわっ!別に付き合いたいとかそう言うんとはちゃうねんっ!アンタかて好きなアイドルの1人くらい居るやろ?だからってそのアイドルと付き合いたいとは思わへんやろ?会えたら嬉しいってくらいで?」
「まぁ…好きなアイドルは居らへんけど…その感覚は解るわ」
「それに大作様が惚れた女性なら絶対素敵な女性やん?むしろ会ってみたいくらいやわ♪」
「もし…もしもやで?会ってみて気に入らん女性やったら…どないするつもり?」
「叩き潰したるっ!!」
彼女さん…今すぐ逃げてっ!!
「だからほらっ!とっとと挨拶行って、ついでに私を紹介してんかっ!!」
「あ、あぁ…わかった…」
俺が覚悟を決めて席を立ったタイミングで、会場の照明が一気に落ちた…どうやらイベントが始まるらしい。
「ほらぁっ!アンタがモタモタしとるからやんっ!!」
いや…君が異常な熱量で想いを語ってたからですやん…
勿論そんな本音は言えず…
「ゴメンゴメン!休憩時間に必ず挨拶行くからさ、その時に紹介するわ」
そう言って宥めておいた。
それでも尚、唇を尖らせてブツブツ文句言うてたけどな…ハハハ
とりあえずイベントは始まった!
豪華なカードが目白押しやけども、あくまで目当ては柔の試合や…そして奴の試合はメインイベント。
逸る気持ちを抑え、それまでは〝1格闘技ファン〟として楽しみながら、その時を待とうと思う。




