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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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決心

柔との再会から数日が過ぎた…

あれ以降、俺の心はザワザワしたままや。

そりゃそうよな?

アイツはタイトル戦が決まったってのに、俺は未だ下っ端のぺーぺー…

焦るなってのが無理な話や。

高校の時に交わしたアイツとの約束が頭を過る…


〝互いにタイトルを獲って王者同士で闘おう〟


頭の中で想像してみる。

仮に若武者杯を優勝で終えて、出世街道に乗れたとしてや…

そこから中堅選手との絡みで目立って、メインイベンターになれるまで何年かかる?

メインイベンターになれたとして、今度はタイトルを獲るまでに何年かかる?

幸い…ってのは適切な喩えや無いかも知れんけど、うちは小さな団体で選手層も薄い。

他の団体に比べたら駆け上がるのは早いかも知れへん…せやけど俺が王座に就くまで、柔がタイトルを保持し続ける事は不可能やろ…


それにもう1つ俺を悩ませとる事がある。

今回アイツが挑戦するタイトル…

ここ数年で世界的人気と知名度を上げた格闘技イベント「バレット」でのタイトル戦や。

世界中の一流どころが集まるリングと言って過言や無い。

と、なると…仮に俺が今所属してる団体「セレクト」でタイトルを獲ったとしても、〝王者〟としての格が釣り合うとは思われへん。

いや、ディスっとる訳や無いで。

客観的に見て…って話や。

俺が王者になった時、アイツが王座を保持してる可能性は低い上に王者としての格すら違う…つまり問題は山積みってこっちゃ…


「ン~~ッ!!」


俺が頭を掻きむしりながら唸ったタイミングで、部屋にティラノの奴が入って来た。


「……どした?便秘か?」


「便秘やったらトイレで唸っとるわいアホッ!」


「なんやなんや…メチャクチャご機嫌斜めやんけ?」


「お陰様でな!」


クッ!…最悪のタイミングで最悪の奴に絡まれてしもた…


「なんか悩み事か?」


「まぁな…ちょっとした考え事や…」


「ほほぅ…ならこの俺様が聞いてやろぅやないか、君に道を拓かせてあげようやないか♪」


「……お前に聞いて貰うくらいやったら、そこら辺におる野良猫に話す方がマシやわ…」


「いやいや!照れんで宜しい!何でも話してみぃ♪ホレッ♪ホレッ♪」


んぐっ…こうなってしもたら話さん事にはテコでも動かんなコイツは…ほんま厄介な奴に絡まれてしもたで…

そんな訳で俺は、アホでも理解出来る様におおまかな事を噛み砕いて話したんや。


「ホエェ~!まさか今をときめく格闘家、暮石柔がお前のツレやったとはなぁ…しかもそんな約束まで…」


「ほんま…えらい差をつけられてしもたわ」


「でもよ、うちは他団体からのオファーも多いし交流って事には寛容やん?その辺に近道があるんとちゃうけ?」


この言葉で脳天から足先まで電流が走った。

コイツの口から〝寛容〟なんて難しい言葉が出たのにも驚いたけど、他団体に目を向けて無かった自分の視野の狭さを恥じたんや。

それをこんなアホから気付かされるとは…


「よっしゃ決めた!ティラノありがとなっ!」


俺は礼を述べて立ち上がると、ある決心を胸に道場へとトレーニングに向かったんや。

悩んでてもしゃあない!

その決心を実行するには、先ず若武者杯での優勝が絶対条件やからな!




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