再会
「や、柔…っ!!」
俺は思わず声に出してその名を呼んどったんや。
そう…そこに居ったんは、紛れも無く生涯のライバルにして生涯の親友…あの暮石 柔やったんやから。
「ほら!いつまでアホ面さげて突っ立ってんねや!?とりあえず座らんかいな♪」
「お、おお…」
促されるまま席につく俺を、そそぐちゃんと柔がニヤニヤしながら見てる。
「そそぐちゃんから聞いとったけど、かなりデカァなったなぁ…流石はプロレスラーや」
「あぁ…身長も3cm伸びたし、体重は15kg増えた。まぁこれでもプロレスラーとしては小さい方やけどな」
「ますますゴリラ度が増したのぅ♪ケケケッ!」
「やかましいわっ!」
「いや…でもよ勇、真面目な話…お前はゴリラ界ではイケメンやと思うで。自信持てって!」
「だからやかましいってばよ!何を真顔でシレッと悪口言うとんねんっ!!」
「悪口…?これは心外やな…俺は褒めたつもりやねんけど…?」
「お前が言うとるんは〝ブス界の美女〟と一緒やんけっ!それを褒め言葉やと思っとるんやったら、下の毛ぇ生える位から人生やり直せ!アホッ!!」
学生時代に戻ったかの様な他愛もない軽口のやり取り…そそぐちゃんはキャッキャと笑いながらも、そのやり取りには一切口を挟まへんかった。
久々の再会に気を使ってくれたんやろな…感謝。
「ところで柔よ…今日はなんで…?」
「ん?あぁ…あれから全然会ってなかったやろ?だから今のお前を1回見ときたかったんや。そしたらそこの〝バイカノ〟から今日がオフって聞いたもんでな、示し合わせてここで待ってたって訳。ちょっとしたドッキリてぇの?嬉しいサプライズやったやろ?感動で泣いてもええんやでぇ♪」
「この状況でどないやったら泣けるねんアホ!…てか…その〝バイカノ〟って何やねん?」
「バイオレンスな彼女の略に決まってるでしょうがっ!!」
「いや…北の国からの〝子供がまだ食べてるでしょうがっ!!〟みたいなテンションで言われましても…」
そう言いながらチラリとそそぐちゃんを流し見ると…やはり嫌な予感は的中!
飢えた獣みたく牙を剥いて柔を睨んではる!!
「ド~ド~!落ち着いて!なっ!?ここで暴れたらアカンッ!わかるよなっ!?そうや♪ステーキ食お?なっ!?すいませぇ~ん!」
急いで店員さんを呼んで、すかさずTボーンステーキを注文したわ…
これで一応は収まったかに見えたけども、まだ怒りの念をメラメラと柔へ送ってる…
これはいかん!とばかりに話題を変える俺、エライ!!
「それにしても柔…お前は逆に痩せたか?」
「ん~…まぁこないだの試合、試しに階級下げてやったからな…5kgほど減量したんや。無差別級のプロレスが羨ましいで♪」
「まぁな…でも無理やり増やすんもコレはコレでなかなかにキツいんやで…」
それは嘘や無い。
喉まで食い物が詰まってても、水で流し込んで更に食い物を掻き込む…
胃がデカなった今でこそ慣れたけど、入門したての頃モリスエなんかは泣きながら食ってたもんな…
それでもやっぱ減量の方がキツいわな。
とりあえず俺達は、好きな物を食って好きな物を飲める…
せやけどコイツはそういう物を絶って、決められた期間内に身体を作らなアカンのや…
しかもただ痩せるだけや無い。
パワーや体力は維持しながらの減量やもんな。
その上、体重を落とし切れんかったら試合は流れるわ、罰金は発生するわ、しがらみだらけやし。
そんな事を考えながらボ~ッと柔を見つめていると…
「な、なんやお前!俺を見つめよってからに!ま、まさか…ついに〝そっち〟に目覚めたとか言うんちゃうやろなっ!?プロレスの世界には多いって聞くぞっ!先輩レスラーに新たな扉をノックされたんかいやっ!?」
「お前…せっかくそそぐちゃんを止めたったのに、しまいにゃ俺が暴れっぞ?」
「そそぐちゃんには勝てる気せんけど、お前なら全然OKやで♪ケケケッ!」
「かぁ~ムカつくっ!舐められたもんやで!」
そうこうしている間に3人分のTボーンステーキが運ばれて来て、俺達は和気藹々と喋くりながら楽しい時間を過ごした。
そしてデザートのバニラアイスを食べ始めた時、柔の奴が胸ポケットから取り出した何かをテーブルの上に差し出したんや…
見るとそれは、近々行われる格闘技大会〝バレット〟のチケットが2枚。
「これ、2人で観に来てくれんか?」
今日初めての真剣な表情でそう言った柔。
「珍しいな…てか初めてちゃうか?お前が自分の試合に誘って来るんは…」
「それだけ大事な試合って事でしょ?」
そそぐちゃんのこの一言で、俺の胸の奥が激しく暴れた…
「柔…お前、もしかして…?」
「ああ…タイトル挑戦が決まったんや…」
錯覚なんは解ってる…
せやけど急に柔が遠ざかって行く様に俺には見えたんや…




