リングソウル
あの試合以降ヲータ先輩は引き籠ってしもて、合同練習どころか飯の時間にすら顔を出さへん様になってしもた…
俺が責任を感じる必要は無いんやけど、やっぱ初弾の一撃で決めてしもた事は〝プロレス〟としてアカンかったなぁ…とは思ってる。
まあ1発のハイキックで沈んでまう、先輩の脆弱性に問題があるって言うたらそれまでやけども…
それはそうと、今日は久々に1日完全フリーの休日やねん♪
普段なら雑用やらで完全なる休日なんて殆んどあらへんのやけど、若武者杯を頑張ってる俺達へのご褒美やってんで、会社がボーナス代わりに休ませてくれたんや。〝粋〟な事しよるやろ?
これも地域密着型のローカル団体やからこそ出来る事…全国規模のメジャー団体やったらこうはいかへん。
なんせオフの日も、移動やらなんやらで潰れる事は珍しく無いみたいやしな。
ま、そんな話は置いといて…
せっかくのオフってんで、久々に そそぐちゃんとデートの約束をした訳さ。
で、今は三ノ宮駅で彼女の到着を待ってるところや♪
待ち合わせ時間を35分も過ぎてるけどな…
ま、まぁ…こんな事は慣れっこやけども…
なんせ彼女が待ち合わせ時間に到着するのは、ツチノコ見つける位に珍しい事やって思っとるから…ハハハ…ハハ……ハァ~…
「お待たせっ!」
突然の声に振り向くと、悪びれもせず笑顔を浮かべる彼女が立っとった。
数ヶ月ぶりに会う そそぐちゃんは、少し女性らしくなった様に見えた。
そんな彼女を暫し見つめていると…
「あんっ!?何ガンくれてんねん?ただでさえ時間遅れとるんやから、サッサと行くでっ!!」
やっぱ前言撤回…ちっとも変わって無かったわ…
しかも自分が遅れときながら謝りもせずにこの言い草…酷くね?
先々行く彼女を慌てて追いかけ…駅の南側、そごうがある交差点の信号でようやく追い付いた。
「ちょ、そそぐちゃん、歩くん速いわ…」
「あん?何そこらへんの頭パッパラパーな女子みたいな事言うてんねんっ!滅多に会われへんのやからあちこち一緒に見て回りたいやん!
デデンッ♪ここで問題です!その為にはどうすりゃいいと思う?」
「……速く歩く…」
「正解っ!神戸からお越しの不惑さん1ポイント獲得っ!」
わぁい♪そそぐちゃんからポイント貰っちった♪
…と、なるとでも?
そもそも回答者、俺1人やし…
そもそもここも神戸やから神戸からお越しもクソも無いし…
そもそもポイント貯まったところで得する事無いし…
「何を憮然としてんのよ!?せっかく会えたのに嬉し無いん?」
「いえ、まさか、そんな事は…」
「ならチャッチャとついといでっ!!」
「あい…」
○I○I、Loft、ミント神戸、ハンズとウィンドウショッピングを楽しみ、今はスタバで軽食をとりながら休憩中。
「はぁ~…やっぱ色んなもん見てたらストレス解消なるなぁ♪」
〝へ?ストレス?そんなもん貴女にあるんスか!?〟
なんて事は勿論言えるはずも無く…
「なら良かったよ、歩き回った甲斐もあるわ」
と、差し障りの無い言葉を返す。
すると彼女が急に顎に手をやり、自分の図上45°の辺りを見ながら…
「いや!待てよ…いっぱい可愛い物や欲しい物は見たけど、何一つ入手はしとらん…逆にこれはストレスなのでは無かろうか?うん!そうや!これはストレスなる行為やったんやわ!!危ない危ない…危うく騙されるとこやったわ…」
どないやねんな…
すると そそぐちゃんが珍しく時計に目をやった。
「4時かぁ…まだ早いなぁ…」
「ん?何かこの後で予定でもあんの?」
「あぁ…アンタと行きたい所があってな、6時に予約入れてあるねん♪」
「俺と行きたい所…?」
「ん、まぁそれは後でのお楽しみって事で♪
それより時間まで行きたい所とかある?色々歩き回らせちゃったし、今度は私が付き合うで?」
「じゃあ…お言葉に甘えて…ラブホ…」
「殺すぞっ!!」
「冗談です…さぁせん…」
半分本気だった提案はあえなく却下され、予約している場所が神戸駅と元町の間にあるってんで、その後もブラブラしながら高架下商店街、通称モトコーを神戸方面へと歩いた。
そうこうしている間に予約時間の10分前となり、俺達はその場所へと向かったんや。
「着いたで!ここやっ♪」
「こ、ここは…」
そこは神戸のプロレス&格闘技ファンなら知らん奴はおらへん程に有名な店「リングソウル」
いわゆるプロレス&格闘技専門のスポーツbarや。
昔はプロレス関連のグッズも多数取り扱う店やってんけど、今はbar&レストランとして経営してはる。
「さ!こっちこっち!」
そそぐちゃんに促されるまま細い階段を2階へと昇る。
すると…
「よう!久々やな!待ってたで♪」
そこには〝あの男〟が俺達の到着を待ってたんや。




