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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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いや、引くわぁ…

状況報告…

先に入場して、青コーナーで〝あの人〟を今か今かと待っとるとこや。

1年とは言え一応は先輩という事で〝あの人〟に華を持たせたって感じ。

おっ!リングアナがマイクを握り直した…いよいよご登場って事やな…


「赤コーナーより…ヲタクの星!ヲータ秋葉選手の入場ですっ!!」


明るいテンポの曲が流れたと思ったら、いきなりセリフが入った…


「死んでも夢を叶えたい!いいえ!死んでも夢は叶えられるっ!!………」


こ、これは!?最近ヲータ先輩(パイセン)がハマってたアニメ〝ゾンビランドサガ〟のOP曲「徒花ネクロマンシー」ですやん…

しょっちゅう部屋から流れて来てたから嫌でも覚えてしもたわ…

てか…そこのセリフ!可愛い女性声優の声やったはずやのに、ヲータ先輩(パイセン)が自ら喋ってますやんっ!!

うわぁ…顔が紅潮してはる…めっちゃ悦に入ってますやん……いや…引くわぁ…


ご満悦の表情でリングインした先輩(パイセン)、気が済んだらしく満面の笑みでマイクをリングアナに渡してはるわ…

元々持ってたマイクと2本持ちになったしもたリングアナが苦笑い…いや、そこは怒ってええと思うでっ!!

選挙の演説みたいにマイク2本持ちで俺達のコールをすると、まんまとハウリングしてしもて観客全員が耳を塞いでたわ。

逃げる様にしてリングを下りたリングアナ…

心中お察しします。


コールが終わり、今度はレフリーによるボディチェック…やねんけども…

言い忘れてたな、先輩(パイセン)の試合コスチュームの事…

あのね…すんげぇヒラヒラしてるの…

今時、女子プロレスラーでもこんなヒラヒラした選手おらへん…

だって…服装までそのアニメのキャラクターを模してるんやもの…

平たく言やぁコスプレっすわ!コスプレッ!!

一瞬「ふざけんなっ!!」と思ったさ…ええ…

でも冷静に考えたら、ヲタクとして正しい選択なんかも知れんわな…

事実、客席の一部を占めるヲタク応援団だけは盛り上がってるもの…そこだけ…やけどな。

俺のチェックを済ませたレフリーが、苦々しい顔で先輩(パイセン)のチェックを秒で済ませよったわ…あんまり触りたくないんやろな…

心中お察しします。


さて!ようやく試合開始や!気を取り直して全力で行かせて貰うでぇ~!!

俺が気合いを入れる為に頬っぺをピシャッピシャッすると同時にゴングが鳴った。

まぁ…ファイプロでのシミュレーションの結果は正直気になる…

しかも俺が敗ける時は毎回同じ敗け方をしてたって事は、何か新しい技なり技術なりを身につけたと見た方がええやろ…

かと言って慎重になり過ぎるんも良くないな…

先ずは様子見で…コイツやっ!


「シュッ!!」


俺は鋭く呼気を切ると、思いっきり右のハイキックを放ったんや!


〝え?アレ…?いや…はい?〟


戸惑う俺本体をよそに、放った右足は吸い込まれる様に先輩(パイセン)の側頭部へ…

そして糸が切れたみたいにグシャリと倒れる先輩(パイセン)

白目を剥いてるのを見て、レフリーが即座に試合を止めてしもた…


「え~っと…はい?」


思わず呟いた俺の後ろでゴングがけたたましく打ち鳴らされ…


「試合時間6秒!KOにより青コーナー不惑選手の勝利ですっ!!」


勝ち名乗りを受けながら、俺はもっかい呟いてたんや…


「アレ?…え~っと…はい?」


ー・ー・ー・試合後の控え室・ー・ー・ー


「モリスエ…1つ尋ねるが…先輩(パイセン)の勝ちパターンって何やったんや?」


「それなんスけど…実はヲータさん、色んなトップレスラーのフィニッシュホールドを自分の技に設定してたんス…使えもしないのに…

その中でも内藤哲也選手のデスティーノがお気に召したらしく、使用頻度やパワーを高く設定してたんス…だからいつもそれがフィニッシュホールドだったっスね…」


いや、引くわぁ…



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