二大恐竜再び
ゴングが打ち鳴らされてもアモーンは踞ったまま…
勝者コールの為に近づいたレフリーを突き飛ばし、トリケラがアモーンへと更に迫った。
ほんで動かへんアモーンにストンピングの雨を降らせよったんや!
「ほらっ!どしたっ格闘エリートさんよっ!?いい様じゃねぇかっ!ああっ!?」
それでもアモーンはされるがまま。
頭部だけを庇って動かへん…
いや…動けへんのか…?
それを見たティラノがどうやらキレた様子。
気持ち悪い程の無表情で…
「ちぃ~とあのボケしばいてくるわ…」
静かな口調とは裏腹に、ロケットみたいな勢いでリングに飛び込んだ。
そんでもって、そのままトリケラにショルダータックルをかましよったんや!
「オラッ!クソボケッ!!」
「ウゴッ…!」
モロに喰らったトリケラがロープ際まで吹っ飛んだ。
俺もその間にリングインし、直ぐ様アモーンの様子を見に行ったんや。
「おい…大丈夫かいやアモーン!?」
「へへ…しょっぱい試合してしもたな…ざまぁ無ぇわ…」
自嘲気味に嗤いながら呟く…
その横ではティラノvsトリケラの舌戦が始まっとった。
ニヤリと笑いながら立ち上がったトリケラが言う。
「これはこれは…誰かと思えば〝へっぽこヒール〟の寺野くんではありませんか…」
「んだとコラッ!?」
「いやね…君のヒールがあまりに酷かったもんで、僕が本当のヒールってのを教えてあげようかと思った次第でしてね♪」
「よう言えたもんやな!テメェこそ何だそりゃ!?隈取りメイクにレガース…中途半端なナリしやがってよ!恥ずかしく無ぇのかっ!!ああんっ!?」
「あぁ…コレ?1つ言い忘れましたが、僕がこれから歩むのは只のヒールでは無いんでね…」
「あんっ!?回りくどい言い方せんとチャッチャと言うたらんかいっ!!」
普段以上に丁寧な口調が、ティラノのイライラを加速させとるみたいやな…
「僕が行くのは〝ヒールシューター〟とでも言っておきましょうか…格闘家としての実力とヒールレスラーの悪行を兼ね備えし者…」
おいおいトリケラ…だんだん〝中二〟色が強くなって来とるぞお前…
「ハンッ!下らねぇなぁオイッ!!結局はどっちつかずで中途半端なだけやんけっ!!お前みたいな真面目っ子にヒールは向いてへんわいっ!ヒールは俺に任せて、お前は大人しゅう格闘路線のベビーフェイスやっとれやっ!!」
「ほう…?どうやら僕にヒールの座を奪われるのが怖いと見える。しかし心配は無用です。
僕はヒールシューターとして本格レスラーの道を、君はへっぽこヒールとしてコミックレスラーの道を…そもそもの歩む道が違うので♪」
「んだとテメェ~ッ!!」
ティラノが突っ掛かるところでモリスエが間に入った。
「ちょ…ちょっと待つっス!この若武者杯は総当たりっス!嫌でもお二人は闘る事になるっスから決着はリングで決めるっスよっ!!」
この台詞にティラノ、舌を鳴らしながらも落ち着きを取り戻す。そんでもって…
「トリケラよ…前回の事覚えとるか?」
「ええ…忘れる訳ありませんよ。なんせ残り時間があと0.1秒あれば僕が勝ってたんでね…」
「ケッ!俺にボコられてボロボロだったクセによく言うのぅワレ?」
「フフフ…その辺も含めて白黒つける時が来たみたいですね…次の直接対決、楽しみにしてますよ」
「上等…吐いた唾飲まんとけよ…」
今にもキスしそうな程に顔を近づけ〝圧〟をかけるティラノと、それを平然と受け流すトリケラ。
レフリーとモリスエがそれを引き離して、この舌戦は幕を閉じた…
え?ヲータ先輩はその間何してたかって?
んなもんポテチ食って観客と化してたに決まってるでしょうがっ!!
トリケラ達が悠々と去った後、俺とティラノが立てないアモーンに肩を貸す…
すると…
「~っ!!」
右腕をあげた瞬間、アモーンが苦悶の表情で声にならない声をあげよった。
「お、お前…腕をヤッてしもてるんか?」
俺の問い掛けに小さく首を振りながら答える。
「いや…どうやら鎖骨みたいやな…最初は痺れだけやってんけど直ぐに激痛が来てな…」
「まさか!あの開始前のヌンチャク…か?」
アモーンが今度は縦に小さく首を振った。
これでティラノの〝思い出し怒り〟に火がついたらしく…
「凶器で右鎖骨をヤッといて、フィニッシュが右腕への脇固め…卑劣千万やのぅ…せやけど安心せぇアモーン!この仇は俺がキッチリ取ったるでなっ!!」
鼻息も荒くそう言いよったわ。
ハハハ…相変わらず〝とっぽい〟奴っちゃで♪
それはともかく…
古代からライバル同士やったっちゅう、ティラノザウルスとトライケラトップスやけど、
ここでの二大恐竜の再戦も激しいもんになりそうやな。
もしかしたら今後はこの2人が〝名勝負数え歌〟って言われる闘いを繰り広げるんかも知れんな…
花道を戻りながら俺はそんな事を考えとったんや。
あ、それともう1つ御報告…
若武者杯での俺の初戦の相手、やっぱりヲータ先輩になってしもたわ…ショボボン




