どゆこと?
謎の技だった〝Z.O.T〟の正体を知り
〝ずっと謎のまま置いとくべきやった…〟と、俺達が口から魂を放出しとる間に、その隙をついたモリスエの奴がリングに戻っとった。
リングアウトのカウントは既に〝17〟まで進んどる。
それに気付いたティラノも急いで追いかけリングに戻る。
「あ…ずっこいぞっ!人が立ち話しとる間にっ!!」
そう叫びながら。
いや…立ち話て…
試合中のセコンドとの会話を立ち話と思っとるんは、世界中でお前だけやわっ!!
と…突っ込みを入れたところでティラノもリングに戻り、ようやくリングアウトのカウントが止まった。
ところがや…リングインしたばかりのティラノとは反対方向にあるロープに向かって、モリスエが一気に走り出したんやっ!
そして反動をつけると、今度はそのままティラノに向かって行くやないかっ!!
「え?いや…え?」
こっちがビックリする位に狼狽えるティラノ。
思わずアモーンがガナリ声を挙げる…
「アホかっ!反撃なり防御なりせんかいっ!」
これに反応したティラノ、自らも背中をロープでバウンドさせて右腕を振り上げた。
どうやらラリアットで迎撃するつもりみたいや…
ところが既にラリアットを放てる間合いでは無く、それに気付いたティラノも2~3歩進んだだけで足を止めてしもぅた。
それを見て、今度は俺が声を張る事に…
「止まってどないすんねんっ!ボケッ!!」
するとティラノ、あろう事か俺の方を向いて隙だらけの状態に…
コイツ…ほんまアホやわ…
そんなアホに向けてモリスエがスライディングキックを仕掛けるっ!
「ティラノ!下やっ!!」
アモーンの指示で、腰を引いて上から潰そうという動きを見せたティラノ。
せやけどここで、モリスエの奴が信じられへん動きを見せた…
スライディングした状態から下半身だけを跳ね上げたんやっ!
〝あ、あれは…中国武術の穿弓腿!?〟
〝知っているのか雷電!?〟
〝うむ…まさかこの目で見る事になろうとは…〟
と…1人、脳内で男塾ごっこをしていると、その足先は見事にティラノの顎に命中しとった!
ティラノが後退りして、トップロープとセカンドロープの間から再びリング外へと転落っ!
そして大の字になったまま恨めしそうに…
「アモーン…お前〝下やっ!〟って言うたよね?だから俺、下に意識向けたよね?そしたらこの体たらくだよね?…どゆこと?」
「それがそのぅ……」
言葉に詰まったアモーンがようやく絞り出した言葉が…
「うっせぇよバ~カッ!」
「んだとっ!?この野郎~っ!!」
立ち上がったティラノがアモーンに掴みかかる!
セコンドと選手が試合中に乱闘て…
前代未聞やぞ…
やれやれ…ここは常識ある俺が止めに入るかぁ…
ったく!しゃあない奴等やのぅ!
と、俺が動こうとした時、視界の端にトリケラの姿がチラリと入った。
はて?と思って見てみると、人差し指を2回振っとる。
どうやらモリスエに向かって、何やら指示を出しとるらしい。
それを受けたモリスエが、リングから場外の俺達へ向かってダッシュ!!
〝トペッ?〟
危険を察した俺はアホゴリラ2匹に声を飛ばした!
「おいっ!お前らっ!トペが来るぞっ!!」
2匹が互いの首根っこを掴んだまま〝ウホッ〟とリングを見上げた…
するとモリスエが、トップロープとセカンドロープの間から3D映像ばりに飛び出して来よった!!
思わず両腕で頭を覆う2匹!
ところが備えたはずの衝撃は襲って来ない…
腕の隙間から恐る恐る覗く2匹!
危険を感じて離れて見てた俺には、2匹のこの動きが滑稽でクソワロタ!
実はモリスエの奴、トップロープに左腕をセカンドロープに右腕を引っ掛けて、クルリと身体を回転させただけで飛んでは来てなかったんや。
それに気付いた2匹が安堵の表情でガードを解く。
するとその瞬間を狙っていたらしく、モリスエがトップロープに飛び乗りよった!
しかも背中をこちらに向けてるって事は…
ムーンサルトかっ!?
すると思った通り、奴は空中に美しい弧を描きながら2匹に向かって飛んだんや…
しかしそれはムーンサルトアタックなんて甘いもんや無かった!
奴は身体をぶつけて来るんや無くて、オーバーヘッドキックの要領でティラノの肩口に蹴りをブチこみよったんや!!
あ…念の為にご報告しておくと…
アモーンも巻き添え喰らってますのでご安心下さい。
魅せたモリスエがリングに戻り際、まだ立てないゴリラ共に呟いた…
「こっからの技は少~しばかり痛いっスよ?なんせ〝コマンドルチャ〟を解禁したっスから♪」
なるほど…さっきのトリケラが出してた合図、あれはコマンドルチャを解禁させろって事やったんか…しかしコマンドルチャ、なかなかにエゲツないのぅ…
1人感心しとったら、2匹が密猟されたゴリラみたいに唸っとるのが見えたんで…
「ずいぶんな姿やけど、やっぱ痛かった?」
「んぐおぉぉ…痛ぇなんてもんじゃ無ぇよバカヤロー…」
「な、何で俺まで巻き添えに…」
「それは試合そっちのけで内輪揉めしとったお前らが悪いんやんけ!」
するとティラノが又も恨めしそうに…
「お前さっき〝トペ〟が来るって言ったよね?だから俺達それに備えたよね?そしてらこの体たらくだよね?…どゆこと?」
これに便乗したアモーンも…
「しかも自分だけ、サッと距離取って逃げたよね?…どゆこと?」
「ングッ…それがそのぅ……」
言葉に詰まった俺がようやく絞り出した言葉が…
「うっせぇよ!クソゴリラ共がっ!!」
「んだっコラッ!!」
「俺達がゴリラやったらお前もゴリラやろがいっ!!」
こいつら…学習能力無いんやろか?
さっきと全く同じ展開になっとるやんけ…
何?この早い再放送は?
このままじゃ埒があかんと思ったんで、俺は素直に詫びる事にしたんや…
「そうかいそうかい…悪かった…俺が悪かったわ…これから危険を告げる時は、ちゃんとお前らに合わせてドラミングするから勘弁したれや♪」
「んじゃオラァ~ッッ!!」
「ブッ殺すっ!!」
人は…いや、ゴリラも過ちを繰り返す…




