謎の技〝Z.O.T〟
「相手にも見せ場を作ってやる…そしてそれを受け切った上で勝つのが正しいプロレスラー像。
そう教え込まれたよな?」
ティラノは勿論モリスエに問い掛けとるんやけど、客席を見回しながら言うもんやから、端から見れば独り言にしか見えへん。
「……」
白いマスクの口周辺が、垂れた鼻血で赤く染まったモリスエ。
片膝をついた体勢で、何度も鼻を拭いながら続く言葉を待ってる様子。
「せやけどなモリスエ!お前の見せ場はさっきで終いじゃっ!俺はヒールやでなっ!〝正しい〟プロレスラー像なんかクソ喰らえじゃいっ!!」
「……」
モリスエが無言のまま立ち上がった。
「いや…えっと…あのぅ…もしも~し、聞いてますかぁ~?」
「……」
モリスエが無言のまま初代タイガーマスクばりのステップを軽快に踏み、ティラノに向けてブルース・リーばりの手招きをして見せた。
これに客席が沸き、モリスエコールが巻き起こる!!
ティラノからすれば当然おもろないわな…
だってほら、俯いたまま肩を震わせてるもの…
「グヌヌヌヌヌヌッッ…!
コラッ!モリスエ!!せめて何か言わんかいっ!これじゃ俺がブツブツと独り言言うとるおバカさんみたいやんけっ!!」
いや、ティラノよ…
お前は独り言を言っていようがいまいが、紛う事無きおバカさんやぞ。
そこは…そこだけは自信を持ってええ。
「も~う怒った!モリスエよ…お前がそういう態度に出るんやったら俺にも考えがあるっ!!
ほんまは使いとぅ無かったんやが、どうやら〝あの技〟を使わざるを得んようやな…
モリスエよ…俺を怒らせたお前が悪いんやぞっ!後悔せぇやっ!!」
叫んだティラノがジグザグに動きながら、モリスエをコーナーに追い詰めようとする
せやけどティラノよ…
お前、モリスエの身体能力を舐めとりゃせんか?
奴のフットワークをそんなもんで…アレ?
あ、、、追い詰められるんや…
上手くいったからか、舌をペロペロさせながら悦に入った表情のティラノ…やだ気持ち悪い…
「へっへっへ!もう逃げ場は無いでぇ♪
ほなそろそろ喰らって貰おかぁ…
俺の必殺技!その名も〝Z.O.T〟やっ!!」
ティラノが小細工無しに正面から組みに行く!
逃げ場の無いモリスエは組みに応じるしか無い!
…と、思ったその時!
モリスエがトップロープを両手で掴み、勢いをつけてコーナーポストに飛び乗った!!
くっ…上に逃げるとはな…
ティラノよやっぱお前は…いや!俺達すらもモリスエの身体能力を舐めてたみたいや…
ところがっ!
「へっ!やっぱそう動くかよモリスエ♪
甘ぇんだよ!お見通しやっちゅうねん!!」
いちいち叫びながら動くのがセコンドから見てもウザいティラノやが、モリスエがコーナーポストに乗った瞬間にその両足首を掴んでたのは見事やった。
しかも片方は、わざわざロープの外に出した手で掴んどる…これを見て俺はピンッと来たわ。
〝ハッハ~ン…そういう事かよ♪〟ってな。
そしてその予想は的中する。
ティラノは掴んだ足首を一気に下へと引きずり下ろしたんやっ!
片足はロープの外へ…
片足はロープの内へ…
つまりトップロープを跨ぐ形でモリスエが滑り落ちる。
当然、ロープで金的を強打する結果が待ってた訳や!
「¥@Ⅱ"*#&+$ッッッ!!!」
なんか、よ~解らん言語を吐きながらモリスエが悶絶っ!!
金的を押さえながらリング上で転がり回っとる。それを見て何故か俺は、夏場にアスファルトの上で焼かれてのたうつミミズを思い出しとったわ…
苦しむモリスエを無理矢理引き摺り起こすティラノ。
そして又も舌をペロペロさせながらニヤリと嗤った…
「イッツ ア ショ~タ~イム♪」
……うん。ティラノよ、その舌ペロはやっぱ気持ち悪いし〝ア〟は要らんぞっ!
イッツ ショータイムなっ!!
心の中で突っ込み入れてたら、アモーンの奴が久々に口を開いた。
「なぁ勇…一つ気になるんやが、さっきアイツ〝Z.O.T〟って技の名前を口にしてたよな?」
「ん?ああ…せやな」
「さっきの金的攻撃がそうなんか?もしそうやとしたら〝Z.O.T〟って何の略やねん?」
「いやいやいや!流石にアレが〝Z.O.T〟って事ぁ無いやろ!?さっきの金的は〝それ〟に繋ぐ為の布石やと思うで!せやからもう少し待とうや。技を見た時それが何の略か解るやろぅさ」
「それもそうやな…」
そんな会話をしている間に、ティラノがモリスエをリング下へと蹴り落としていた。
ティラノ自身も追いかけて下へと飛び降りる。
せやけどモリスエに追撃をせず、全然違う方向へと歩き始めた。
その先に居たのは…
パイプ椅子に座ってポテチを食ってる〝自称モリスエのセコンド〟ヲータ先輩!
するとティラノ、助走をつけてヲータさんへと一気に走り出した!
「オラッどけや!キモオタッ!!」
先輩(仮)へと暴言を吐きながらドロップキックを喰らわす!
ポテチを撒き散らしながら先輩(仮)がぶっ飛んだ!!
そして主を失ったパイプ椅子をティラノが手に取り、威風堂々とモリスエの元へ戻る…
その背に先輩(仮)が精一杯の反撃をぶつけた!
「な、何すんだよっ!ポテチまだ半分も残ってたのにっ!勿体無いやろ…アホ~~ッッ!!」
……うん。ええ人や…プロレスラーには向いて無いけども…
リングアウトへのカウントが進む中、ようやく起き上がりかけとったモリスエの背にパイプ椅子が振り下ろされた!
これで再びモリスエが床を舐める!!
カウントは未だ〝7〟…
リングアウト成立の〝20〟迄、まだたっぷりと時間は残っとる。
当然ティラノの攻撃は続く事に…
又も引き摺り起こしたモリスエをフェンスに叩きつけ、観客を煽る様に雄叫びをあげた!
これに観客がブーイングで応えると、ティラノは満足そうな笑みを浮かべて客席を見渡している。
しかし…
アモーンの奴が痺れを切らしたらしく…
「おいっティラノ!遊んどらんとその〝Z.O.T〟とやらを出して、チャッチャと決めてまわんかいっ!!」
これにティラノがキョトン顔で、想像の遥か斜め上を行く答えを返して来た…
「あん?何言ってんのお前…Z.O.Tならさっきから使っとるやんけ…」
「へ?」
「だ・か・ら!今、絶賛使用中やって言ってんだよっ!!」
「ちょ…待て…一旦待て…じゃあZ.O.Tってのは…?」
この問いにティラノが胸を張り、これ以上無いドヤ顔で言い放つ。
「ずっと、俺の、ターン…その略に決まっとろぅがっ!!」
……………
えっと…お願いだから死んで下さい…




