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中指 立てたら  作者: 福島崇史
121/248

LR

開始と同時に、ティラノが有刺鉄線バットを振り上げながら突っ込んだ!


「よ~くも恥かかせてくれたなぁオラッ!!」


えっと…それってさっきの毒霧未遂事件の事かな?いや!あれはモリスエ全っ然悪ぅないし!!

なんちゅう責任転嫁や…

しかしモリスエは素早い動きでティラノの手首を握ると、脇下を潜り抜けてそれを絞り上げた!

徐々に開いてくティラノの掌…

やがて鈍い音を響かせながらバットがリングに転がった。


「こんな物騒な物には退場して貰うっス♪」


そう言うとモリスエはバットを蹴とばし、バットもさっきとは違う質の金属音を発してリング下で2~3度跳ねた。

それをモリスエのセコンドであるトリケラが拾い、すかさずリング下のスペースに投げ込みよった。やっぱコイツはソツがあらへんな…

え?もう1人のセコンド、ヲータ先輩は何してたかって?

…コーナー下にパイプ椅子置いて、試合観ながらポテチ食ってたわ。客かっ!!


腕を絞られたティラノが、前転して腕の捻れから逃れたっ!

そしてそのままタックルを仕掛け、寝技の攻防を狙うっ!!

…が、モリスエは馬跳びの要領でそれをいなすと、対角線にあったコーナーポストに走りヒョイッと跳び乗った。

飛び越えられたティラノは体勢を崩し、まだリングで四つ這いのまま…

すると案の定モリスエが、獲物を狙う猛禽類みたく飛び立った!

そして空中で1回転してからのフットスタンプ!!


「フゴォォォ~~~ッッッ…!!!」


体内の空気を全部絞り出された…そう形容するんが1番近いかな?

とにかく何とも言えん声を発して、ティラノがリングに這いつくばったんや。


〝す、凄ぇ…〟


俺は又してもモリスエに見とれとったわ…

確かにエゲつない…でもそれ以上に奴の技は美しかったんや。

しかもモリスエはまだ止まらへん!

潰されたカエルみたいになっとるティラノの膝裏に立ち、奴の膝下を折り畳んで自分の足に組ませると、両腕を引きながら後ろへ倒れ込みよった!

五体の自由を奪われ…

無理矢理に天を仰がされ…

ティラノが獣みたいな唸りをあげた…

そう…ロメロ・スペシャル!!

通称〝吊り天井〟や!!


「ようよう…モリスエの奴…あんなに凄かったっけか?」


アモーンが目と口を開けたままで訊いて来た。


「あぁ…凄ぇよな…俺と()った時より遥かに強ぅなっとる…それだけは間違い無いな…」


正直それくらいしか言葉が見つからんかった…

それ程に奴の進歩は凄かったんや。

ほんまに凄いもんを見たり、聞いたり、食ったりした時、人間って語彙力が死んで〝凄い〟とか〝美味い〟みたいに単純な感想しか出て来ぇへんやん?

実際そんな感じやった…

そしてこの直後、俺達は更に凄いもんを見せつけられる事になる。


一旦少しだけ前に重心を戻したモリスエは、その勢いを利用して後転するみたいな感じで、一気に後ろへとティラノを叩きつけたんやっ!!

後頭部を強かに打ちつけられ、ティラノの首が歪に曲がる…

型が崩れたとは言えロメロ・スペシャルで腕と足を固められた状態のまま、ティラノの両肩がマットに接しとる。

スライディングして来たレフリーが、そのまますかさずマットを叩いた!


1回!2回!3か…

ここでティラノが左肩を上げた!!

カウント2.5ってとこか…?

意地を見せたやんけ…ティラノよ。

そりゃそうやわな…キャラを変えてヒールとしてのデビューやっちゅうのに、何も出来んと終わる訳にはいかんわな。

その想いが溢れ出たんやろな、ティラノがストレートに言葉を吐き出しよったわ…


「こんなんで…こんなんで終われっかよ!コンチクショ~~ッッ!!」


「へぇ…流石は喧嘩屋…根性あるっスねぇ♪

なら自分のオリジナル技〝L.D.H〟(ロメロ・ドライバー・ホールド)をもっかい喰らわして差し上げるっスよ!!」


モリスエはそう叫ぶと、勢いをつける為にティラノを再び手前へと移動させる。勿論ロメロ・スペシャルの体勢はそのままで…や。

それを見てアモーンが狼狽えながら言いよった…


「おいっ勇!こんな時セコンドの俺達はどないすりゃええねんっ!?何かアドバイス言わんでええんかいやっ!?」


「わからん…俺にもわからんのやっ!!」


反撃の方法が見えへん以上、俺かて安易にアドバイスなんか飛ばされへん!とは言え…や。

ヤ、ヤバいぞ…もっかいアレを喰らったら流石にヤバい!どないするつもりや…ティラノ?


「さあ…これで終わりっス!寺野さんお疲れ様っス!!」


叫びながらモリスエが後ろへと勢いをつけた!

〝ゴスッ!〟

嫌な音が耳に飛び込む…

俺もアモーンも正視出来んで、自然と薄目になってしもてた…

やがて1人が立ち上がり、1人はリング上でのたうち回る。

恐る恐る見てみると…

何と!立ち上がったんはティラノの方やないかっ!

対するモリスエは、両手で顔面を押さえながら足をバタバタさせとる!


「勇…お前、今の流れ見てたか?」


「いや…見てへん。見てへんけど多分こういう事や思う…ティラノは後方への勢いがついた瞬間に、自ら頭を思いっ切り後ろに振ったんやろ。

だから後頭部の落下点がずれて、モリスエの顔面に打ちつけられた…」


「おぅ…俺もそない思う。上手い事やりよったなティラノの奴…」


「あぁ…反撃の狼煙…ってか?」


鼻血を流してまだ立てないモリスエ…

それを見下ろしながらティラノが言う。


「立てやモリスエ…こっからは俺のターンや!

ヒールバックした俺の怖さを教えたるわ♪」


「クッ…!これくらいで勝ったと…」


言いかけたモリスエに右の掌を広げて、ティラノがそれを制した…


「まぁ待てってモリスエ…もう1つ言う事があるんやからよ…」


「?」


見ての通り、頭の上に〝?〟が浮いたモリスエ。

そこへティラノが驚愕の言葉を吐きよった。


「モリスエよ…お前のL.D.H…確かに効いたわ…でもお前は1つ大変な過ちを犯しとる!」


「??」


モリスエの〝?〟が1つ増えた…


「その過ちとはなぁ………

ロメロは〝L〟や無くて〝R〟や!だから正確にはR.D.H!次からはそう呼んだ方がええっ!!」


えぇ…そ、そこ?



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